合計40試合で争われるプール戦もいよいよ大詰めを迎え、ベスト8進出をかけた各国にとっての最終戦を迎えるラグビーワールドカップ。ニュージーランド、南アフリカ、イングランド、ウェールズといった優勝候補は順当に勝ち星を積み重ね、すでに決勝トーナメント進出を決めている。

 取材を続ける海外メディアのジャーナリストやフォトグラファーは、これら強豪国の激闘をどのようにとらえたのだろうか? 

 NumberWebでは大会期間中、世界的なフォトエージェンシーであるGetty Images(ゲッティイメージズ)が撮影した膨大な写真の中から、カメラマンがセレクトした作品を紹介。試合をもっとも近くで見ているフォトグラファーが心を動かされた瞬間や、テレビ画面からは伝わらない大会の盛り上がりを伝えていく。

 短期集中連載第2回目のカメラマンは、Getty Imagesのクライブ・ローズ氏。夏冬のオリンピックを6大会撮影しているほか、キャリアの皮切りともなったF1など幅広いジャンルをカバー。特に水中撮影とスキーなど山岳競技の撮影を得意としている。大会3連覇を狙うオールブラックスに焦点をあて、ローズ氏の選んだ写真とコメントをお送りする。

倒れこみながら伸ばした左手。

10月6日 東京スタジアム
プールB/ニュージーランドvs.ナミビア

 ナミビアを相手にニュージーランドは圧勝したが、特にこのトライはずば抜けていた。世界最高峰のトライだ。

 この写真の前のシーンも注目すべきだ。オールブラックスがピッチ中央から左サイドへ細かくパスを回し、ボールをもらったスクラムハーフのTJ・ペレナラ(通称「TJ」)が前へ前へと走り出す。TJは一連のプレーの中で一度タックルをされ転んでいたのだが、即座に立ち上がり、仲間が繋いだボールをもう一度抱えて走り出した。彼を止めようとナミビアの選手2人がタックルをするも、最後は倒れ込むギリギリのタイミングで、ボールを持った左手を伸ばした。このデイビッド・ロジャーズの写真はその瞬間を捉えたものだ。

 決死のチャレンジによりトライ成功。これはこの試合で11本目のトライとなった。味方の華麗なるパス回しの残像と、最後までゴール一直線に走り抜けた“TJ”の迫力が伝わってくる圧巻の1枚だ。

健闘を称えあうラガーマンの姿。

10月6日 東京スタジアム
プールB/ニュージーランドvs.ナミビア

 写真は試合中の劇的な瞬間を捉えるだけではない。ライバル同士が試合後に和やかに語り合う姿は、ラグビーというスポーツならではの光景だろう。

 この写真は、71−9とニュージーランドが圧勝した試合後、ニュージーランドのアーロン・スミスがナミビアで自分と同じスクラムハーフをつとめるダミアン・スティーブンスに話しかけているところを撮った1枚。何かアドバイスをしているのか、明るい表情で話をしている。試合中は激しく体をぶつけあい勝敗を競う彼らも、試合後は敵味方関係なく互いを称えあう。ラグビー以外で、このような光景を目にすることはあるだろうか。

 近くで撮影していた私でも話している内容までは分からなかったが、この1枚から互いの健闘を称えあう精神の素晴らしさが伝わってくる。

前進する黒、阻止する赤。

10月2日 大分スポーツ公園総合競技場
プールB/ニュージーランドvs.カナダ

 1枚目の写真と同じ、ニュージーランドの「TJ」ことペレナラを捉えた写真。だが、試合をどこから切り取るかという視点を変えると、写真の見せ方、捉え方がだいぶ違ってくる。客席に移動すると視界が一気に広がり、ラグビーは1人の選手で成り立っていないことが伝わるだろう。

 テレビの中継だと、どうしてもトライした選手が注目されがちだが、1人ひとりがボールを繋ぐことによってトライが生まれるのがピッチにいるとよくわかる。ピッチにいる全員が1cmでも前に進もうとボールを抱え走り、パスを繋いでいるのだ。TJがカナダの強靭なディフェンスの間を抜けられたのは、チームのサポートがあってからこそ。同僚ショーン・ボテリルのこの写真はそれがわかる1枚になっている。

 チーム全体で前へ進もうとする黒のユニフォームと、それを阻止しようとする赤いユニフォーム。色のコントラストによって、それが効果的に表現されていることも特徴だ。

まさに「ここだ!」という瞬間。

10月6日 東京スタジアム
プールB/ニュージーランドvs.ナミビア

 高く上がっているボール周りの写真は、“カメラマンの腕次第”で良し悪しが決まってしまう。白熱した試合になるほどに、選手がボールをはじいてカメラフレームから外れてしまうこともあり、「ここだ!」と思った瞬間をベストな角度から捉えるのはかなり至難の業だ。

 しかしこの写真は、まさに「ここだ!」の瞬間を捉えることに成功している。ナミビアのJC・グレイリングがボールをうまく掴んだ瞬間を逃さずカメラを向けたことで、競り合ったニュージーランドのシャノン・フリゼルとの2人が浮き上がったような構図になった。試合の中の決定的瞬間と、同僚スチュー・フォスターのカメラマンとしての経験が現れた1枚である。

戦いに挑むオーウェン・ファレル。

10月5日 東京スタジアム
プールC/イングランドvs.アルゼンチン

 TVでは決して見ることのできない、試合の裏側を捉えた1枚だ。試合が始まる前、選手たちはロッカールームを出ると、トンネルを通ってピッチに向かい、相手チームの選手と並ぶ。ロッカールームからトンネルまでの間は、各選手たちが試合に向けて気持ちを高め、またプレッシャーと戦う時間でもある。

 選手の様々な感情が渦巻くトンネル内においてキャプテンの姿は特別だ。中でもラグビー発祥の地イングランドの主将をつとめるオーウェン・ファレルの姿からは、集中力と母国の期待を背負う責任感が伝わってきた。暗いトンネルでライトに照らされた真っ赤なユニフォームが、国を背負う熱き司令塔の闘志を表しているかのようだ。

文=涌井健策(Number編集部)

photograph by David Rogers/Getty Images