「攻撃の基本は1死三塁にある」

 巨人・原辰徳監督の采配教科書があるとすれば、攻撃編の第1ページにはこのテーマが書かれているはずだ。

 先頭打者が塁にでたら確実に送りバントで走者を進めて相手にプレッシャーをかける。これは昭和の時代からの1つの定石だが、原監督はこう頭を振る。

「もちろん送りバントも大事な作戦で、僅差の終盤やエース同士の投げ合いでそうは点が取れないケースなど選択のシチュエーションはある。ただ基本的に1死二塁というのは打席のバッターのヒットを待つ野球。バントで走者をスコアリングポジションに進めましたよ。さあヒット打ってくださいというのはベンチワークではない」

原野球の1つの真髄。

 そこで常に考えるのは「1死三塁」という状況を、ベンチがいかに作り出すかだ。そのためにエンドランや盗塁を含めて積極的に選手を動かすのが原野球の1つの真髄だ。今季から採用した2番に坂本勇人内野手を置く攻撃的布陣も、指揮官のそんな野球観を反映したものだった。

「もう少し走者が出ないとね。三者凡退が多すぎた」

 試合後の原監督が振り返った日本シリーズ初戦。2回にDHで出場した阿部慎之助のソロ本塁打で先制と最高のスタートを切ったが、その後は7回2死まで無安打。9回の攻撃のうち三者凡退が4度で得点は阿部と9回の大城卓三内野手の2本のソロ本塁打による2点だけだった。

 3回には2つの四球と暴投で2死一、三塁としたが、岡本和真内野手が156kmの内角ストレートに詰まらされてボテボテの遊ゴロに倒れた。そして7回には2死からアレックス・ゲレーロ外野手、田中俊太内野手の連打と敵失で二、三塁としたが、この日の千賀滉大投手の真骨頂を見せる投球の前に巨人のチャンスは萎んでいった。

千賀は「あまり調子は良くなかった」。

「あまり調子は良くなかった。捕手の(甲斐)拓也が『全部の球種を使っていくぞ』と。信じて投げました」

 こう本人が語るように、決してこの日の千賀は絶好調ではなかった。

 千賀といえば代名詞となる落差の大きい“お化けフォーク”。MAX161kmのストレートに、追い込まれればフォークがある。そこを意識して、早いカウントからストレート系のボールを狙うというのは、ある意味、千賀攻略の常道ではある。

 しかもこの試合ではそのフォークを叩きつけてホームプレートのはるか手前でバウンドする暴投になるなど、制球ができていなかった。それだけに走者を三塁に送れば、フォークは投げづらくなる。

 そこが巨人打線にとっては付け入るチャンスとなるはずだったが、ここで巨人打線を翻弄したのが、この日の千賀が多投したカットボールだった。

“お化けフォーク”の幻影が……。

 象徴的な場面は7回2死二、三塁で、原監督が9番の小林誠司捕手に代えて代打・重信慎之介外野手を送った場面だった。

 重信に対してまず内角へのカットボール2つがボールになると、スライダーでストライクを1つ。そこから4球目に膝下のカットを空振りさせて、追い込んでもフォークではなく再び内角低めの147kmのカットボールに重信は手が出ないで見逃し三振に倒れた。

 フォークの制球がイマイチなだけに、走者を三塁に進めれば暴投の危険性があるため、その決め球が投げづらくなる。それだけ狙い球も絞りやすくなるので、攻略のチャンスが生まれるはずだったが、最後までフォークの幻影が頭から消えなかった重信は、カットボールに手が出なかった。

基本パターンを作り上げたソフトバンク。

 何より走者三塁を作ったのが3回とこの回の2度だけでは、ただでさえ攻略の難しい相手エースを打ち崩すチャンスは皆無だったといってもいいのかもしれない。

 全く動くチャンスのなかった巨人ベンチに対して、皮肉にも「1死三塁」という教科書通りの攻撃の基本パターンを作り上げて着々と加点していったのはソフトバンク・工藤公康監督だった。

 1点リードの6回に先頭の牧原大成内野手がライト線への二塁打を放つと2番の今宮健太内野手がきちっと送って「1死三塁」を作って貴重な追加点を奪った。

 そして7回にも先頭の松田宣浩内野手が左中間を破って無死二塁となれば、迷うことなくベテランの内川聖一内野手に送らせて、再び「1死三塁」を作る。ここで左の代打・長谷川勇也外野手に巨人がマウンドを左腕の田口麗斗投手にスイッチすると、工藤監督はすかさず代打の代打に“左殺し”の川島慶三内野手を告げた。

 その川島が四球で一、三塁となれば、次の牧原の初球に“偽装スクイズ”。バントの構えからわざと牧原が空振りし一塁走者の二盗を援護。スクイズと思った巨人バッテリーが三塁走者を警戒する間に、まんまと1死二、三塁とチャンスを広げて牧原、今宮、柳田悠岐外野手の3連打などで決定的な4点を奪って試合を決めた。

「仕切り直してフラットな形で戦う」

「これからも後悔しないようにしっかりと決断していきたい。1戦、1戦、力を合わせて頑張ります」

 こう語る工藤監督はヤフオクドームでの日本シリーズはこれで9連勝。監督として過去3度の日本一に輝いた指揮官が、ベンチワークで引き出した追加点だったのである。

 一方の三塁側通路。

「誰だって日本シリーズの第1戦は固くなる。今日のゲームは帰ってこないのだから、これを糧として、我々はつなげるということですね。結果的には大差になりましたけど、明日から仕切り直してフラットな形で戦う」

 こう語って次戦に目を向けたのは原監督だった。力勝負ではなく、終盤のもつれた展開でいかに接戦を制していけるか。いかに「1死三塁」を作り出せるか。

 巨人の勝機はそこから開けるはずである。

文=鷲田康

photograph by Hideki Sugiyama