起業家と経営者の違いについて、みなさんは自分がどちらのタイプと考えているでしょうか。

 私の分類は、自分が好き、ないし興味関心の高いものを軸にビジネスやサービスを立ち上げ創業するのが起業家、プロとして目標を達成するための技術を持って領域関係なく結果を出すのが経営者、と捉えており、私は経営者タイプと考えています。

 横浜DeNAベイスターズの球団社長を務めていた時、横浜スタジアムに長嶋茂雄さんがいらっしゃったことがありました。長嶋さんは、野球の世界で働く全ての人にとってのレジェンドで、憧れの人です。

 でも球団社長、球団の経営者である以上、「おそれおおい」とか「憧れの長嶋さん」という気持ちは押し殺さなければいけません。

 言わなくてはならないこと、お伝えすべきこと、要するにたとえ長嶋さんが相手であろうとも、「仕事」が出来る必要がありますし、憧れてファン目線で「一緒に写真撮りたい……」などと浮かれていい立場ではないからです。

 なので極端に言えば、野球ファンのままで野球チームの経営はできないし、サッカーファンのままでサッカークラブの経営はできないと思っています。

好きなことで起業、とは思わない。

 それは、私が「起業」にそこまでの興味を持てない理由、でもあります。

 どうせ仕事にするなら、成功確率からいっても興味関心の高い領域で起業して、それがライフワークになったらいい、そういった感覚もわかります。

 私にも、音楽やサーフィンのように、プライベートで大好きなものはあります。もちろん野球だって好きです。

 でもそれらのことと仕事は、完全に切り離して考える訓練を積んできました。

 なぜなら、ファンが持っている要素と、経営者に求められる要素は全然違うものだからです。

 私は、どんな領域であろうとも、自分の培ってきたメソッドを駆使するために、経営目線でがっちりとらえた課題について、解決策を提示し、実践していく。経営を改善、改革することが「役割」の経営者なのです。

「自分がどういう経営者であるか」

 2016年にDeNAを離れてから2年半、多くのスポーツ団体や大学からお声がけをいただき、さまざまな仕事をしてきました。

 そのうちのいくつかについては、当初はその団体の方々と共有できていたように感じた「変革へのビジョン」がどんどんずれていき、目指すところがあまりに違いすぎたため、袂を分かつことがありました。

 その過程で苦しかったこと、悔しかったことも数多くありました。

 が、それらの経験すべてが、私にいろいろな学びを与えてくれました。

「自分がどういう経営者であるか」「どういう働き方をしたいか」「これからどう生きていくのか」――。

 改めてそういったことを整理しつつ、学んだこと、私が大切にしてきた生きる指針をわかりやすい言葉でまとめたのが、私にとって4冊目の著書『横浜ストロングスタイル』です。

自分のやりかたを譲るつもりはない。

「戦うことは、知ることでもある」

「世の中の50%以上は男の嫉妬で回っている」

「『少しずつよくなっている』よりも、非連続の成長を」

「曖昧な判断の繰り返しは、単なる時間稼ぎだ」

「ビジネスを語ることは、数字を語ることだ」

「戦っても意味がないと感じたら、そこから抜け出していい」……。

 私がこれまでスポーツの現場でずっと考えてきたこと、学んだことを、さまざまなパワーフレーズに落とし込みました。

 タイトルの通り、私は解決すべきすべての課題に、私なりのスタイルで臨んでいます。

 常に本音で、結果を出すために戦いを挑んでいく。

“みんな仲良く”が理想だけど、保身や卑怯なやり方は認めない。

 世の中に楽しんでもらうために、全力を尽くします。私はこのスタイルを、横浜で培ってきました。

 だから『横浜ストロングスタイル』としたのです。

任せてくれれば、結果を出す自信がある。

 ストロングスタイル、という名前の通り、私は本質的に、ファイターです。

 決して扱いやすい経営者というわけではありません。

 肩書きや名誉職が欲しいわけでもありません。

 全権を渡さずにコントロールしたい、という上の人がいたり、自由に大胆に迅速に1人で意思決定ができなかったり、細かい報告や説明が必要でスピード感が出てこない……そんな現場では、完全に力を発揮することは難しいようです。

 そのかわり、本当に全てをイチから作り変える覚悟があって、数年間、経営のすべてを任せてくれる現場があれば、絶対になんとかしてみせる自信があります。

 そういう状況でマーケット、顧客と社会に向き合い、高速でトライアンドエラーをして行く中で、非連続的な成長を実現する実績も積んできました。

 だから、私はそういう場所で仕事がしたいと心から願っています。

 今、さいたまスポーツコミッションの会長として、さいたま市のスポーツの現場では、自由にさせてもらえるか、瀬戸際の状況です。当初の約束どおり、自由にはばたかせてくれたならば、結果とともに、さいたまの皆さんには、感謝の念を惜しみません。

美しいビジョンは重要視しない。

 みなさんのなかには、自身の「経営者はそうあって欲しい」という価値観からか、経営者は誰もが「世界をこうしたい」「社会に何かを提供したい」というビジョンを美しく大きく掲げるべきだ、と思っている方もおられると思います。

 でも、私はあまり、そこを重要視していません。むしろ危険なことだと思っています。

 社会貢献はもちろん大切です。しかし、社会へのインパクトと社会貢献は違います。美しいけれど具体性がないような、まず自分のところの経営で結果を出してからにしろよ、と言いたくなるような言葉だけが前に出てくると、どうしても綺麗事に聞こえてしまうんです。

 そしていつも、自分の内心が前に出てしまうとそれがエゴになってしまい、ビジネスとして正しい判断ができなくなると思っています。

経営は、新しいパズルのようなもの。

 正直なことをいえば、経営者としての私を衝き動かしているのは、「変革を志す組織のリーダーとして仕事がしたい」そして「できるだけ多くの人にとって楽しいことを起こしたい」という気持ちです。

 誤解をしてほしくないのですが、「リーダーになりたい」というのは何も、「自分が好きなことをとにかく自分勝手に実現したい」ということではありません。

 目標を立て、課題を見つけ、マーケットと真っ直ぐ向き合ってトライアンドエラーすること。

 私はそのこと自体が好きなんです。新しいパズルを解くような気持ち、というと伝わるでしょうか。DeNA時代やベイスターズの改革をよく知る経済界のメディアの方々からは「改革フェチ」というあだ名をつけられたこともあります。

 私は解決方法がわからないものにチャレンジして、改革していくことを生きがいと思うタイプの経営者なのです。そしてそのチャレンジに、自由に意思決定しながらあらゆる手段を使ってトライしたいという欲求があるのです。

スポーツも、自分自身も道具として。

「できるだけ多くの人にとって楽しいことを起こしたい」というのが最大の目標なので、批判を恐れずに言えば、スポーツはあくまでも道具。そして経営者である私自身も、それをブーストするための道具だと思いきって、ファン目線を押し殺して、経営に一心不乱に立ちむかっていきます。

 スポーツを、その競技の既存のファンだけのものにせず、より多くの「にわか」を巻き込んで楽しいものにすること。

 あえていえば、私にとっての社会貢献、ビジョンはここにあるのかもしれません。

『横浜ストロングスタイル』、是非お手にとっていただければ幸いです。

文=池田純

photograph by Bungeishunju