11月2日から4日まで、3日連続で両国国技館で取材した。“両国3連戦”、それも新日本プロレスのような連続興行ではなく、それぞれ別団体のビッグマッチだ。

 2日がノア、3日がDDT、4日は大日本プロレス。ノアが両国で大会を開催するのは久しぶりのことだ(昨年は丸藤正道20周年興行としての開催だった)。取材しながら感じたのは、プロレスというジャンルが持つ多様性だ。

 そもそもこの世界には「パッケージプロレス」という言葉がある。興行とは単に試合を複数並べたものではなく、全体が1つにパッケージされたショーを理想とするという意味だ。コース料理や松花堂弁当にたとえてもいい。ステーキもサラダもデザートもあるのがプロレス。つまりそれだけ、レスラーの個性やファイトスタイル、試合形式にも幅がある。コース料理も中華やフレンチ、懐石などさまざまだ。

 ノアはマット界の保守本流。全日本プロレスの流れをくむ正攻法な闘いを見せてくれる。ただそれは“旧態依然”とイコールではない。両国大会のメインイベントは清宮海斗vs.拳王のGHCヘビー級タイトルマッチ。23歳と34歳のライバル対決は、王者・清宮が30分を超える闘いを制して6度目の防衛を果たした。

ノアの新ベルト、その裏地の色は――。

 清宮が王者として掲げてきた言葉は「新しい景色を見せる」。丸藤正道でも杉浦貴でも潮崎豪でもなく、清宮と拳王が両国のメインで闘っている。それ自体がノアの「新しい景色」だった。

 この大会から、GHCヘビー級のベルトが新調されている。その裏地は緑色。団体創設者・三沢光晴さんのイメージカラーだ。新しい時代を作りながら、歴史を切り捨てることはしない。そんなノアのスタンスがよく表れていると言っていいだろう。

 この日、杉浦はノア初参戦のマイケル・エルガンを下して新設ナショナル王座を獲得。この試合を大会ベストバウトに推すファンも多い。ノアの“象徴”丸藤はグレート・ムタとの初遭遇で楽しげに暴れてみせた。若い清宮がタイトル戦線の中心となり、それでいてベテランが隅に追いやられることもない。そうかと思えば藤田和之や桜庭和志といった“格闘系”も参戦してくる。それが今のノアだ。

両国でアイドルが見せた涙。

 翌日のDDTはコース料理というより食べ放題のボリュームだった。

 DDTにガンバレ☆プロレス、東京女子プロレス、プロレスリングBASARAと系列全団体のタイトルマッチが行なわれ、出場選手は総勢82名。セミファイナルでケニー・オメガが5年ぶりの“里帰り”を果たし、メインでは新世代のエース・竹下幸之介を下した団体初期メンバーのHARASHIMAがKO-D無差別級、DDT EXTREME級の2冠王になっている。ケニー参戦、HARASHIMAの奮闘と勝利は長くDDTを見てきたファンにはたまらない光景だったはずだ。

 DDTを初めて見た、あるいは久しぶりに見たという観客にとって刺激的だったのは東京女子プロレスの選手たちではないか。

 エース・山下実優は男女混合タッグマッチでケニーと真正面から渡り合った。坂崎ユカと中島翔子、タッグパートナーでもある2人のシングル王座戦は独創的で「男子に比べると迫力が」と言わせないスリルに満ちていた。

 辰巳リカと組んでプリンセスタッグ王者になった渡辺未詩は現役アイドルでもある。プロレスとアイドルの二刀流グループ「アップアップガールズ(プロレス)」のメンバーで、オーディションに合格するまでプロレスに関する知識は皆無だったそうだ。

「他の(アイドルの)オーディションに受かっていたら、こんな素敵な人生にはならなかった。アプガで、東京女子でよかった」

 そう言って泣いた渡辺を、先輩グループ「アップアップガールズ(仮)」のメンバーがバックステージで祝福する。そんな光景が見られるのが“現代のプロレス”だ。

「どっちが上か下かじゃない」とイサミ。

 ムタが毒霧を噴射し、アイドルがベルトを巻いた両国国技館。4日の大日本ではデスマッチがメインイベントになった。

 デスマッチヘビー級選手権、王者・木高イサミが指名した挑戦者は名タッグチーム「ヤンキー二丁拳銃」のパートナーである宮本裕向だった。2人とも大日本のレギュラー参戦選手だが所属ではない。それでも大会場のメインを預けた運営側の懐の深さも含めて、両国という大会場が“大日本の空間”になっていた。血みどろのデスマッチがキワモノに見えないムードと言えばいいだろうか。デスマッチは写真や映像よりも、会場のほうが抵抗なく見られるような気がする。

 巨大なハシゴ=ギガラダーからのダブルニードロップ(ギガラダーブレイク)を決めて勝利したイサミは、DDT両国の第1試合で“大社長”高木三四郎をフォールしている。恩人と盟友に連続で勝ったわけだ。しかも両国の檜舞台で。

 イサミと宮本は、若手時代のローカル大会から苦楽をともにしてきた。両国と比べたら信じられないほど小さな会場、観客の少ない興行もあった。

「お客さんが10人とか、ありましたよ。もう1人来たら試合を始めようってことになったんだけど、1時間待ってる間に2人帰ったという。そういうところを経ての両国メインです」

 でも、とイサミは付け加える。

「そういう小さい興行と今日と、どっちが上とか下とかではないんですよ。どのリングだって一歩間違えたら大ケガするんですから。団体の大小、興行規模じゃないんですよね」

いつもと変わらぬ各団体の“味”がそこに。

 これは両国3連戦に出場した、ほとんどの選手に共通する思いではないか。

 イサミや宮本ほど極端な経験はしていないかもしれないが、多くの団体が観客200人、300人の会場をベースにしている。そこでファンを掴まなければ後楽園ホールも見えてこない。ノアにしても、新体制で“名門復興”の真っ最中。ビッグマッチ開催は決して当たり前のことではない。

 両国国技館で見られた現代プロレスの多様性は、たとえば板橋グリーンホールや新木場1st RINGといった小会場での興行、数えきれないほどの地方大会からつながっているものだ。ムタやエルガン、ケニーといった“豪華食材”はあっても、各団体の基本的な“味”はいつもと変わらない。そこが何より素晴らしかった。

文=橋本宗洋

photograph by DDT ProWrestling