主審が試合終了の笛を吹くと、興奮した観衆の怒号にも似た歓声の中、ピッチ上のすべての選手が泣き出した。嬉し涙にくれる勝者、悔し涙を流す敗者……。“大人”の試合ではまず見られない光景だった。

 17日夜、首都ブラジリアで行なわれたU-17ワールドカップ(W杯)決勝で、地元ブラジルが勇猛果敢なメキシコに土俵際まで追い詰められながらも劇的な逆転勝ち。16年ぶり4度目の優勝を遂げた。

 ブラジルのフットボールは、自国開催の2014年W杯準決勝でドイツに1−7と惨敗した「ミネイロンの惨劇」によって、壊滅的な打撃を受けた。しかし、その後、この屈辱から立ち上がり、2016年のリオ五輪、今年の南米選手権(コパ・アメリカ)、そしてこの大会と自国開催の国際大会で優勝を重ね、自信を取り戻しつつある。

攻撃的かつ脆さもあるセレソン。

 U-17ブラジル代表は、GKとCBを除く全員が激しく動き回り、ガブリエル・ベロン(パルメイラス)らスピードとテクニックを備えた選手が決定機を作り出す攻撃的なスタイルが持ち味だ。ただし、守備陣はマークのずれやポジショニングのミスから失点することがあり、これもまたブラジルらしい。

 決勝前半は、個人能力で上回るブラジルが優勢。しかし、メキシコのGKエドゥアルド・ガルシア(グアダラハラ)のファインセーブもあって両チーム無得点だった。

 後半、メキシコが少ないチャンスをモノにする。21分、左からのクロスをMFブライアン・ゴンサレス(パチューカ)がブラジルのCB2人に競り勝ち、頭で叩き込んで先制。

 ブラジルは、ようやく39分、CFカイオ・ジョルジ(サントス)がPKを決めて追いつく。さらに、アディショナル・タイム4分のうち3分が過ぎたところで、右からのクロスの落ち際を途中出場のFWラザロ(フラメンゴ)が右足で鮮やかに合わせた。

 ラザロは、準決勝フランス戦でもやはり試合終了直前に逆転ゴールを決めており、控え選手ながら優勝の立役者の1人となった。

メキシコは5大会中3度決勝進出。

 準優勝のメキシコの頑張りも、胸を打った。飛び抜けた選手こそいないが、丁寧にショートパスをつないで攻め、粘り強く守る。準決勝のオランダ戦は相手のスピードとパワーに圧倒されたが、守備陣の奮闘で辛うじて引き分け、PK戦でGKガルシアがオランダ選手のキックを3本止めて勝ち上がった。決勝でも劣勢だったが、臆せず攻めて先手を取り、超大国ブラジルに冷や汗をかかせた。

 日本では「小柄な選手がパスをつなぐスタイルで、世界の強豪に肉薄しているメキシコを見習おう」という声があると聞く。個人的には、「いくらスタイルが似ているとはいえ、W杯で優勝はおろかベスト4に入ったこともない国を見習うとは、志が低すぎないか」と思ってきた。

 しかし、U-17W杯でメキシコは過去2度優勝しており、直近の5大会で実に3度、決勝に進んでいる(優勝1回、準優勝2回)。選手育成に関して、日本はこの国から学ぶべき点があると認めざるをえない。

潜在能力が最も高かったフランス。

 個人的に潜在能力が最も高いと感じたのは、3位のフランスだ。守備陣にフィジカルが強い大型選手が揃い、創造性豊かなアディル・アウシッシュ(パリ・サンジェルマン)がゲームを組み立て、ナタナエル・エムブク(ランス)らが思い切りの良いシュートを放つ。準々決勝でスター軍団スぺインを6−1と粉砕した試合は圧巻だった。

 GSでいきなり連敗した欧州王者オランダは、最後のアメリカ戦でシステムを3-4-3に変え、終始、攻撃的にプレーして圧勝。GS3位ながら勝ち上がると、ナイジェリアとパラグアイに快勝し、準決勝でも内容ではメキシコを圧倒していた。「日本はベスト4に残ったオランダに勝った」と考えるのは間違いで、アメリカ戦以降、日本戦とは全く別のチームになっていた。

 その日本は、GS初戦でオランダに3−0で快勝したが、その後のアメリカ戦、セネガル戦はやや低調。ラウンド・オブ16でも力を出し切れず、メキシコに敗れた。

 欧州、アフリカ、北中米の強豪と対戦して貴重な経験を積んだのは確かだが、さらにその上のクラスのチームと対戦できなかったのが悔やまれる。

7アシストの「ジダン2世」現る。

 個々の選手では、フランスのアウシッシュに巨大な才能を感じた。両親がアルジェリア系で、高度なテクニックと優れた戦術眼から危険なスペースに絶妙のパスを送り込む。

 U-17欧州選手権の得点王で、W杯では1得点ながら7アシスト。「ジダン2世」の呼び声があり、今後が本当に楽しみな選手だ。

 6得点をあげて得点王に輝いたオランダのソンジ・ハンセン(アヤックス)は、少し下がり気味の位置から飛び出してきて、少ないタッチでゴールを陥れる。状況判断が素晴らしく、味方の選手に決定的なパスも出せる。

 ブラジルでは、大会MVPに選ばれたベロンのテクニックとアイディア、5得点を記録したCFカイオ・ジョルジの決定力が目立った。

 フランスのルシアン・アグメ(インテル)は、大柄でパワフルだがテクニックもあるボランチ。ブラジルのテレビの解説者は「ポグビーニャ」(小さなポグバ=マンチェスター・ユナイテッド)と呼んでいた。

西川の評価が高まる一方で……。

 日本人選手では、西川潤の評価が高かった。決定的なパスが出せて、点も取れる選手。フィジカル・コンタクトにも強い。今後、Jリーグで経験を積んでさらに成長すれば、いずれはA代表を狙える逸材だろう。

 近年、世界では選手の若年化が急速に進んでいる。才能ある若手の多くが20歳以下でデビューして戦力となっており、クラブからの要請で、実は20歳以下の最も優れた選手の多くはU-20W杯に出場しない。

 今回のU-17W杯でも、この年代のブラジル最高のアタッカーと目されるレイニエール(フラメンゴ)は今季の国内リーグで12試合に出場して4得点を挙げており、代表に招集されたがクラブが出場を辞退させた。

招集見送りのファティはU-21に!

 またスペインのアンス・ファティ(バルセロナ)は驚異的なスピードとテクニックの持ち主で、今年8月、16歳でリーガ・エスパニョーラでデビューしている。

 こちらもやはりクラブからの要請で、代表招集を見送られた。そしてファティは今月、東京五輪世代であるU-21スペイン代表に招集されてユーロ予選にも出場している。

 今後、日本選手は彼ら「すでに同世代のレベルを超越した選手」を含む世界各国の逸材と競わなければならない。この大会で得た経験と教訓を糧にして、さらなる成長を期待したい。

文=沢田啓明

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