11月11日にベトナム・ホーチミン市でおこなわれたU-19アジア選手権予選・グループJの日本対ベトナム戦は興味深い試合だった。

 ともにモンゴル、グアムに勝ち、勝ち点6で臨んだ最終戦。得失点差で上回る日本は引き分けでも本大会出場が決まる。対してベトナムも、ワイルドカード(各グループ2位の中から成績上位4チームに出場権が与えられる)を得るためには勝ち点1が必要と見られ、ともに負けられない試合であった。

 力関係では圧倒的に日本。しかし結果は、日本の攻撃力を見事な守備戦術で封じ込めて引き分けたベトナムが、望み通りの勝ち点1を手にして来年10月にウズベキスタンでおこなわれるアジア選手権への出場に大きな望みを繋いだのだった。

 日本には中継されなかったこの試合を、フィリップ・トルシエ、影山雅永両監督のコメントから振り返ってみたい。

「世界でもトップ12に入るのは間違いない」

<フィリップ・トルシエU-18ベトナム代表監督・試合後会見>

――ベトナムは勝ち点1を獲得し、本大会出場への可能性を開きました。この1ポイントは、戦術的な勝利であったと言えますか?

「勝ち点1を獲得すれば、予選を突破できるという確信はあった。しかしそのための戦略は、私自身にもよくわからなかった。勝ち点1の獲得を目標に試合に臨むと私が言うのはとても危険な状況だった。選手たちにはまず勝つことを考えろと言った。

 日本の攻撃力が強力で、ベトナムは30%しかボールを保持できないことは分かっていた。70%は日本がキープする。そのうえ日本は選手の質が高く経験も豊富で、自信に溢れている。アジア最強チームだし、世界でもトップ12に入るのは間違いない。

 逆にベトナムの選手たちは、心理面でもこの種の試合に慣れていない。本当に高いレベルのチャレンジで、日本はベトナムにとって高く険しい山だった。だから可能な限り入念に準備した。特に左サイド(日本の右サイド)でボールをどう処理するかに関して。1分1秒といえども、集中力を切らすことなく確固たる意志を持ち続けてプレーするために。

 最後は自陣を守ることに徹した。目的は勝ち点1を得ることだったからだ。日本のストライカー(桜川)がレッドカードを受けて退場になった後の15分間、引き分けが最善の結果であることを両チームとも即座に理解した。そうした雰囲気が醸し出されて、10人の日本は敢えてゴールを奪おうとはしなかった。これがサッカーでもある。

 われわれは最後までゲームをよくコントロールした。日本が11人で戦った60分間は力強い試合ができた。監督としてその点は誇りに思う。チームを始動させてひと月しかたっていないが、選手は本当によくやってきたしプロセスをよく消化した。アジアトップのチームに対してこれだけのことができて、満足しているし嬉しく思っている」

「他に選択肢がなかった。勝つ必要もない」

――日本の長所と弱点はどう分析しましたか?

「日本がどうプレーするかをメカニカルな視点で分析した。その結果、われわれの左サイドをブロックした。日本は後方でボールを保持したとき、自動的に右サイドを意識してボールを送るからだ。2〜3人の選手が右サイドを崩して混乱を生じさせる。右サイドがキーポイントになることは試合前からわかっていた。そこで日本に自由にプレーさせてクロスを上げさせたら、前線にはクオリティの高いストライカーが待ち構えておりベトナムに問題が生じる。実際にその状況が生じたときはかなり危険だったが、今日の日本はその長所を活用できなかった。

 専ら守備に専念したのは、他に選択肢がなかったからだ。勝つ必要はない。だから日本の攻撃を待っていた。待っている相手の守備網を突破するのは簡単ではない。今日もそうで、日本がベトナムの守備ブロックをこじ開けるのは簡単ではなかった。

 もちろん日本と10回試合しても、ベトナムが1度も勝てないことはわかっている。それが両者の差だ。今日はいい試合ができたが、それはあくまで今日の物語だ。これで満足することなく、ベトナムサッカーをさらに進化させていかねばならない。引き分けたからといって、ベトナムが日本と同じレベルにあると勘違いしてはならない。

 とはいえベトナムも進化していること、何かを成し遂げられることを示せた。私は今日の試合から、ベトナムの人々が未来に向けて何をしなければならないか気づくのを望んでいる。クラブは何をすべきなのか。選手もしっかりと目を見開いて欲しい。日本のレベルに達するには、自分たちが何をしなければならないのか。プレーの質を高めねばならないし、経験もクリエイティビティもリーダーも必要だ。とりわけ戦術に関しては、選手個々がもっと理解を深めていかねばならない」

多くの試合に出ることがユース世代では重要。

――A代表は大きな成功を得ているが、U-18とU-19はギャップをどうしたら埋められると考えていますか?

「そのプロセスはクラブに依存する。代表はクラブの活動の結果に過ぎない。実際にクラブは良くやっていると思うが、若い世代に関しては大会を整備していかねばならない。彼らは誰一人として1部リーグでプレーしていない。プロのグループに混じって練習もしていない。2部でプレーする選手すらひとりもいない。わずかに年5〜7試合(コメントママ)のプレー機会があるだけだ。

 日本は違う。毎週末に試合があり、年間では5〜60試合にもなる。今日のようなレベルの試合を週末ごとに戦っている。

 ユース年代を進化させるために何ができるかと問われたら、U-19とU-17、U-15のリーグ戦を創設することだと私は答える。この3つの世代は、最低でも年に4〜50試合を経験する必要がある」

日本はその「若さ」を露呈した。

<影山雅永・U-18日本代表監督・試合後会見>

――今日、私たちが目にしたのは、若くナイーブな日本代表でした。試合をどう分析しますか?

「あなたが言った通りで、世界のサッカーの中で、今日の日本は若さを露呈してしまった。これがいいレッスンになることを望んでいる。来年のアジア選手権につなげていきたい。実際に日本は若すぎた」

――左右のサイドの攻撃力のアンバランスについては?

「モンゴルとの第2戦では、右サイドからの攻撃は良かった。良く組織されていたし、攻撃力を発揮することができた。しかし今日は攻撃のシチュエーションだけに限らず、ベトナムの攻撃のビルドアップをどう防ぐかが問題だった。選手の名前はあげられないが、幾人かの選手は3バックをどうすれば避けられるかをよく理解していた。だが他の選手たちは、どう攻めたらいいかよくわかっていなかった。それは彼がスクールやアカデミーで実践している戦術の影響だ。相手のやり方に対応するために、攻守両面において戦術を理解している選手を起用した」

――トルシエ監督は日本の長所を消すための戦術を採用したと思いますか?

「そう思う。彼が組織した守備はとても良かった。ハードで、ボールへの闘争心に溢れていた。特に前半の日本はボールをよく失った。トルシエはいい仕事をしたと思う。日本の側からしたら、あの組織された守備を崩すのは難しかった。ブロックを崩すのに苦慮した。

 もちろん彼は経験も豊富で、高いレベルにある指導者だ。今日、彼が実践した守備戦術を見ればそれはよくわかる」

――櫻川(ソロモン)の退場で、彼と同等の選手を投入できなかったのが引き分けた理由ですか?

「退場でまず数的に不利になった。私は選手が強度のプレスをかけてボールを奪うことを期待したが、ひとり減ったことで実際にそれはできなかった。加えてベトナムは(退場の後は)セーフティな戦い方を選択した。他にやりようはなかった」

陣形の変化を予測して対応したトルシエ。

<フィリップ・トルシエ監督インタビュー(試合翌日。於:ファーストホテル・ホーチミン)>

――昨日の試合は戦術面でしっかり準備し、日本の攻撃を見事にブロックしました。

「日本が4-4-2のシステムで来ることはわかっていた。しかし彼らに自由にボールを持たせたときには2-4-4になる。さらにボールを保持すると2-2-6になる。選手には最悪でも2-4-4で食い止めるように言った。6本以上のパスを繋げると日本の攻撃はとても危険だ。だから最大限でもパスは5本までに留める。それならばプレーを展開していけないからだ。

 実際、日本の攻撃を待って、ある程度自由にプレーはさせるが、サイドはクロスをあげさせないためにアグレッシブに対応した。それが守備の指示だった。

 攻撃ではもっぱらカウンターをひとりないしふたりで仕掛ける。ボールをコントルールすることは望まなかった。そこでミスを犯したら、日本の罠に嵌ってしまうからだ。守ってはカウンター、その繰り返しでポゼッションは考えなかった。

 日本相手にボールを支配してゲームをコントロールできるほど今のベトナムは強くはない。選手たちも心理的に不安で経験もない。的確な判断も難しい。だからこその守ってのカウンターだった。

 それがうまくいったと思う。日本は多くのパスミスを犯した。彼らはどうしていいかわからずミスを犯し続けた。

 見ごたえのある試合だったのではないか。ディシプリンに溢れてはいなかったか?」

日本らしく戦えば5−0で勝っていた試合。

――その通りで、守備でのミスはほとんどありませんでした。

「後半に日本のヘディングが1本あった」

――櫻川ですね。しかしそれ以外は……。

「われわれも何度かチャンスを作った。前半にも素晴らしいクロスを入れて、もし倒れこんでいたら大きなチャンスだった」

――カウンターの際も、日本はひとりを2〜3人で囲い込みにいきましたが、ベトナムの選手が狭いスペースでもボールをキープできるのでちょっと持て余していました。

「自信を持ってプレーをしていれば、さらに日本を苦しめることができた。ただ、すべては一歩ずつ、ステップバイステップだ。私は日本のコロンビア戦やスペイン戦、ベルギー戦を見たが素晴らしかった。昨日の試合でも日本が自分たちのプレーをしていたら5対0で勝っていただろう。逆にベトナムが自分たちのプレーをしようとしても5対0で敗れていただろう」

――では日本の選手たちをどう見ましたか。サイドをブロックされると攻撃手段を失い、アグレッシブさも足りませんでした。

「ブロックされたときにどうしたらいいかわからず、他の解決策を見出せなかった。そこはもっと様々なやり方を深めていかねばならない。チームはシステムを変えることもできるのだから」

――後半も日本はほとんど戦い方を変えませんでした。選手はひとり交代しましたが……。

「彼(武田英寿)は素晴らしい選手だ。8番(鮎川峻)もまた素晴らしかった」

――しかしそれでも十分ではなかった。

「彼らの前に壁を作った。壁を突き破るのは簡単ではない。君も驚いたのではないか。われわれがこんな風にやってくるとは思わなかっただろう」

――正直に言って予想した以上でした。同時に日本のパフォーマンスにはちょっとがっかりで、潜在能力は高いけれどもまだまだ若くナイーブでした。

「そうだが、フィジカルでもテクニックでも経験でも日本は高いレベルにある」

個々では小野世代。組織では現代表の方が……。

――では小野(伸二)や高原(直泰)、稲本(潤一)らの世代と比べて昨日のチームはどうでしたか?

「昨日のチームの方がコレクティブだ。個々の才能の面では私のチームの方が、違いを作り出せるタレントが揃っていた。本山(雅志)は俊敏な動きでブロックに穴を開けられたし、伸二はパスでも個人技でも相手を崩せた。彼は当時から高い評価と名声を得ていたし、稲本も名前が知られていた。高原は9番として素晴らしかった。あのチームの方が強かったのは間違いない。

 繰り返すが、昨日のわれわれはプレーはせずにずっと待っていた。プレーをしていたら敗れていたのは間違いない。だから戦うこともできなかったし勝てなかった。

 だが日本は、フランスと戦っても自分たちのプレーをする。昨日の1試合だけで日本を判断できない。ベトナムが日本を封じ込めてしまったから彼らは驚いたが、それ以上は望むべきではない。10回戦っても勝てないのは、われわれもよくわかっている」

トルシエ「(影山監督は)素晴らしい人物だ」

――影山監督も、この年代のベストグループではないと言っています。アジア選手権までに大幅な入れ替えがあるだろうし、U-20ワールドカップに向けてさらに入れ替えがあると。

「私にはそれはできない。同じ選手たちで戦うしかない(笑)」

――しかしあなたもグループを再編するのでは?

「新たに選手を招集するが、レベルは日本よりずっと低い。方法は同じでもそこが違う。私の車は小さいが彼らは大型車だ。だから私は別の道を見出さねばならない。解決策は選手だけがもたらすわけではない。戦略やボールをどう動かすかなどいろいろある。

 ところで日本の監督の名前は正確に何というのか?」

――影山雅永です。

「英語も流ちょうに話すし、尊大なところが少しもない。オープンだし素晴らしい人物だ」

――彼もアジア選手権での再戦を楽しみにしていると思います。メルシー、フィリップ。

文=田村修一

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