新日本プロレスの1.4&1.5東京ドームと、1.6大田区総合体育館で行われた獣神サンダー・ライガーの引退試合、および引退式は素晴らしいものとなった。

 1.4ドームでは、かつての好敵手や先輩後輩を集めた8人タッグマッチを闘い、黄金の'90年代新日本をよみがえらせ、1.5ドームでは高橋ヒロム&リュウ・リーという、現在の新日ジュニアのトップと真っ向から闘い敗れ、完全燃焼したライガー。

 そして1.6大田区での引退式では、仲間のレスラーや家族に囲まれ、最後は入場テーマ曲『怒りの獣神』を、観客全員と合唱してのハッピーエンド。これほど多幸感に満ちたプロレスラーの引退は、これまで見たことがない。ライガーは引退発表会見で「しんみりしたものにしたくない」と語っていたとおり、明るくリングを去っていった。

ライガー引退式の翌日のFacebookで。

 そんなライガー引退式の翌日、1.4&1.5ドームでライガーの対戦相手とパートナーを務めた佐野直喜(佐野巧真)が、Facebookを更新。そこにはこう記されていた。

「“獣神サンダー・ライガー”選手、31年間お疲れ様でした。そしてありがとうございました! ライガー選手の引退試合に出場させて頂いたこと本当に感謝致します。

 そして私ごとですが、今回限りで現役を卒業し“焼肉巧真”のオヤジとして頑張って参ります。今まで応援してくださった方々本当にありがとうございました。そしてこれからも宜しくお願いいたします」

 ライガーの若手時代からのライバルである佐野もまた、同じくドーム2連戦を最後に電撃的に引退を発表したのだ。

 その翌日、ちょうど関西に用事があった僕は、京都で佐野が営むお店『焼肉巧真』を訪ね、急遽インタビューをさせてもらった。そして突然の引退発表の理由を聞くと、次のように答えてくれた。

「ここ数年、毎回試合に出るたびに『これが最後だな』と思ってやってきたんですよ。だから試合前の気持ちはいつもと同じだったんだけど、ドームで2試合やらせてもらった後、あらためて『ここでケジメをつけよう』と思ったんだよね」

試合後に決意も、去就は発表せず。

 引退はドームの試合後に決意したという佐野。しかし、ドーム2連戦での佐野は、かつてライガーと対戦していた若い頃のように身体をしぼり、見事なトペスイシーダやローリングソバットを披露。ファンの多くが「佐野健在」を感じたばかりだったが、本人の思いは違ったようだ。

「ライガー選手の引退試合に呼んでもらったわけだから、僕もそれになんとか応えるべく、仕事をしながら2カ月間しっかりトレーニングをして、ここ数年では最高のコンディションが作れたと思ったんだけどね。

 ただ、2日目に若い高橋ヒロム選手、リュウ・リー選手とやらせてもらって、気持ちの中では『昔のようにやろう』と思ってはいたけど、やっぱり自分の全盛期の動きをやろうとしてもなかなかできなかった。この年齢だったら違うやり方で試合をするのもいいという考えもあるけど、自分の店もあるから、どっかで踏ん切りをつけなきゃいけないなっていう思いもあったし。ここで決断したほうがいいなと思って、引退をきめたんですよ」

 こうして引退を決断しながらも、1.4&1.5ドームの試合後の会見では、自身の去就については一切語らなかった佐野。そこには「今日の主役はライガー、自分はあくまでそれに華を添える存在」という思いがあった。また、今のところ、あらためて引退興行や引退式をやる予定はないとう。

「僕は引退を発表せず、人知れずフェードアウトしていってもいいと思っていたんですよ。それが最後の最後に、ああいう大きな舞台というプレゼントをもらってケジメをつけさせてもらえたので、ライガー選手や新日本プロレスには感謝しかないですね」

 その才能は誰もが認めながら自己主張は控えめ。職人気質の佐野らしい、潔い引退だった。

佐野の焼肉屋に届いた花。

 素顔のライガーと佐野は、ともに’84年3月3日、後楽園ホールでデビュー。ライバル抗争を繰り広げたのち、'90年以降はライガーが新日ジュニア一筋で闘い続けたのに対し、佐野はSWS、UWFインターナショナル、キングダム、高田道場(PRIDE等)、プロレスリング・ノアなど、様々なリングを渡り歩き、その生き方は対照的だった。

 しかし最後の最後、1.5東京ドームで2人は同じリングでタッグを組み、現在の新日ジュニアのトップ、高橋ヒロム&リュウ・リーと対戦してリングを去った。同じ日にデビューし、36年後、また同じ日にリングを降りる。ライガーと佐野は、そんな唯一無二と言える最高のライバル関係だった。

 そして佐野がFacebookで現役引退を発表した4日後、『焼肉巧真』には、花がひとつ届いた。

 そこには「佐野巧真様 現役生活おつかれさまでした。新日本プロレス 高橋ヒロム」と書かれていた。

 ライガーと佐野、新日ジュニアの礎を築いた2人の意思を受け継ぎ、これからは彼がジュニアを引っ張っていってくれることだろう。

文=堀江ガンツ

photograph by New Japan Pro-Wrestling/AFLO