「アグエロォォォォォ!」

 と言えば、2011-12シーズンのプレミアリーグ最終節でマンチェスター・シティに逆転ゴールが生まれた瞬間。QPRとの一戦が引き分けに終わっていれば、宿敵マンチェスター・ユナイテッドのリーグ連覇が決まるところだった。

 しかし、セルヒオ・アグエロが終了間際にネットを揺らし、勝ち点で並んだシティが得失点差で44年ぶりのリーグ優勝を果たした。ポイントどころかタイトル直結のゴールを決めたアルゼンチン代表FWは、その右足による一蹴りで3800万ポンド(約54億円)の移籍金を一気に返済したと言われた。

 実際には、ベンチを出て30分間で2得点のデビューに始まった同シーズン開幕節から、順調に自身の価値を示していた。優勝決定ゴールはプレミア1年目の23得点目だった。

 その後も昨季までの8シーズン中6シーズンでリーグ20得点台という高度の安定ぶり。去る1月21日、今季24節シェフィールド・ユナイテッド戦(1−0)での決勝点により、プレミアリーグでの通算得点数は「180」を数えた。

 1992年から「プレミア」と呼ばれるようになったイングランドのトップリーグで、アグエロより多くのゴールを決めている選手は、もはや3人しかいない。今年6月で32歳になる年齢と、祖国アルゼンチンのインディペンディエンテに戻っての引退を望んでいる状況からして、さすがに歴代トップのアラン・シアラー(260得点)には届かないだろう。

プレミアで最もゴールを奪った外国人。

 だが、過去5シーズン平均22点を超える得点ペースと、満了まで1年半を残すシティとの契約期間を考えれば、歴代3位のアンディ・コール(187得点)はもちろん、2位のウェイン・ルーニー(208得点)も射程圏内だ。

 このトップ3の顔ぶれを見ればわかるように、外国人選手としてはすでに歴代得点王の地位に就いている。

 ハットトリック達成でティエリ・アンリ(175得点)を抜いた22節のアストンビラ戦(6−1)後、先代の外国人得点王ほど「プレミア・レジェンド」扱いされていない事実が、メディアで話題となった。

 優勝への貢献度という意味では、アーセナル時代のアンリが国内主要タイトル計4冠であるのに対し、シティでのアグエロは計9冠。しかし、年間最優秀選手としての認知度は、アンリがPFA(選手協会)に2度、FWA(記者協会)に3度選ばれている一方、アグエロは受賞歴のないまま今季を迎えている。

ハットトリック12回は歴代最多。

 巷でも、プレミア歴代ベストイレブンを選ぶとすれば、前線にアンリを入れる者が、アグエロの名を挙げる者よりも圧倒的に多いと思われる。

 とはいえ、ストライカーとしての決定力がアンリに勝るとも劣らぬレベルにあることは間違いない。アンリより3試合少ない通算255試合目のリーグ戦出場で、外国人選手としての最多得点記録を塗り替えた事実も証明している。

 筆者は昨年2月、エティハド・スタジアムでアグエロには珍しいミスを目撃している。キャリア最低とも言うべきシュート失敗だった。

 ゴールから2mと離れていない位置で足下に来たクロスに合わせたにもかかわらず、ボールは枠外に転がっていった。対戦相手のチェルシーファンとしては「超ラッキー」な心境。しかしこの試合、アグエロは最終的にハットトリックを決め、6得点大勝の立役者となった。

 プレミアでのハットトリック達成はアンリを抜いたアストンビラ戦が通算12回目。これはシアラー(11回)を抜いて歴代単独首位となる偉業である。

左足、頭でも決められるのに過小評価。

 アグエロはユニークな外国人得点王でもある。

 彼のように移籍早々から実力を発揮すれば、トップクラスのFWは引く手あまた。プレミアに長居しないケースが一般的だ。リーグ得点王の個人タイトルで箔がつけば、年俸額、優勝の可能性、監督との関係など、その対象が何であれ、より良い環境を求めがち。ルート・ファンニステルローイは在籍6年目を迎えず、アレックス・ファーガソン体制で黄金期にあったユナイテッドから出ていった。

 ルイス・スアレスは3年半でリバプールからバルセロナへ。ジミー・フロイド・ハッセルバインクは、たった2年しかリーズにいなかった。その点、シティでの9年目を迎えているのが、2015年プレミア得点王のアグエロだ。

 得点力のみならず希少価値も高いアグエロ。彼に対する過小評価は、やはりイメージの問題なのだろう。アンリは起用されたテレビCMのキャッチフレーズだった「バ・バ・ブーン」が自身の代名詞になったが、「魅力的」という意味の言葉はアグエロには似合わない。

 見た目からして、速くてしなやかなテクニシャン風の元アーセナルFWと違い、低重心で相手のボディチェックを撥ね返すシティの絶対エースは、ボックス内で泥臭く仕事をする点取り屋のイメージが強い。

 その一方で、ゴール前でクロスに利き足で合わせるだけのフィニッシャーではない。リーグ180得点の内訳は右足シュート127点、左足34点、ヘディング18点、手を除くその他の部位で1点。圧倒的に右足が多い点はアンリも同じで(136点)、左足と頭で決めた得点はアンリ(それぞれ31点と6点)よりも多い。

 アシスト数は、チャンスメイカー的な色合いも濃かったアンリ(74回)にリードされているが、今季24節終了時点で通算46回という数字は、ロビン・ファンペルシの53回と比べても遜色はない。

 アンリと同じく技巧派のイメージが強いファンペルシは、アーセナルとユナイテッド合わせて計280試合出場で樹立した数字。一方、アグエロはプレミアでの出場試合が「23」少ない時点でのものである。

ワールドクラスで異色の適応力。

 そのうえワールドクラスとしては異色とも言える、適応姿勢と能力を示しているのがアグエロである。

 根本的には自分でネットを揺らさなければ評価されないだけに、エゴが必要とされるのがこのポジション。実力が認められれば、その存在を生かすチーム作りも当たり前となる。前述の元プレミアFW陣のなかに、戦術的な部分でエースの座を追われた者は1人もいない。

 ところがアグエロにはシティの監督に「不十分」とみなされ、放出対象と見られた時期さえあった。

 ペップ・グアルディオラ就任1年目の2016-17シーズンだ。今でこそ「替えが利かない存在」とアグエロを評価している指揮官も、就任当初は進んで前線のレギュラーを替えようとした。

 ベンチスタートが増えたアグエロは、祖国メディア向けのインタビューで「プレッシングが足りなくて監督の怒りを買った」と語っている。

 当時、アグエロは2シーズン前のプレミア得点王であったし、前シーズンもランク2位の24得点を挙げていた。それでもグアルディオラは、信条のポゼッションサッカーで前提となる、前線からの守備が欠けたエースの序列を落としたのだ。

2人と代理人の話し合いの真実は。

 CLでのバルセロナ戦ではノリートを起用し、アグエロにベンチスタートを命じている。その3カ月後にガブリエル・ジェズスが加入。9歳も若い後釜が加入したと理解されたシティの“前エース”にはチェルシー、レアル・マドリー、さらには破格の待遇での中国への移籍が噂された。

 アグエロとグアルディオラがマンチェスター市内のレストランでテーブルに着いている写真がタブロイド紙に掲載されたのも、同じ2017年1月だ。シティのファンにとっては、冷や汗ものだったに違いない。

 監督交代を境に不遇の主力が、代理人を連れて密かにミーティングとなれば、クラブを去る意思を伝えたと想像しても無理はない。だが、実際には戦術的な要求を確認し合うための席だったことが、昨秋に出版された『PEP'S CITY』で明らかにされた。

「グアルディオラのシティ」の舞台裏が描かれた同書によれば、自らにプレッシャーをかけるがゆえ、要求も厳しい指揮官の在り方について、アグエロは「そういう人物だから」として受け入れた。「意識すること自体が不慣れ」で「最初は体力的にもキツかった」相手GKやCBへのプレッシングに取り組む覚悟を決めたのだ。

ペップを見返して勝ち取った信頼。

 本人は「時間が必要だった」と口にしているが、新たなプレースタイルが加わる兆しは、すぐに現れた。グアルディオラが「監督として目にした中で過去最高の出来」とアグエロを評したのは、2017年3月のFAカップ戦での勝利後だ。

 ハダーズフィールドから5得点を奪った一戦で先発したアグエロは、2得点1アシストを記録した。それにとどまらず、出場した約80分間で、中盤まで下がってビルドアップに絡み、ワンタッチで捌いて攻撃のスピードを上げ、味方へのスルーパスを狙い、ボールロスト後にはとっさにプレスを掛けた。

 それから3年近くが経とうとしている現在のシティで、絶対エースと言えばアグエロに他ならない。ジェズスは“エース見習い”のまま移籍4年目に突入している。

 グアルディオラは、自身就任前に実現したシティのプレミア初優勝を、「将来的にCLでの初優勝や国内外4冠が実現されたとしても、上回ることはできない重みを持つ功績」と表現して、優勝ゴール得点者、すなわちアグエロに最大級の敬意を示す。

 完璧主義者の指揮官を見返して勝ち取った信頼は、プレミア年間最優秀選手賞よりもはるかに意義ある個人としての勲章だ。そんな彼は、クラシックなゴールゲッターから近代的ストライカーへ、進化と呼べる変化を自らの意思で遂げた正真正銘のワールドクラスである。

 セルヒオ・アグエロを、「プレミア・レジェンド」と呼ばずして何と呼ぶ?

文=山中忍

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