ストリートスポーツの国際大会「キメラAサイド」が1月25、26日に愛知県常滑市の愛知県国際展示場で行なわれた。

 東京五輪で初採用されるスケートボード・ストリート男子で、日本のエース・堀米雄斗(21歳=XFLAG)と世界選手権2連覇中のスーパースター、ナイジャ・ヒューストン(25歳=米国)による“金メダル争いの前哨戦”が実現した。

 五輪予選対象大会での獲得ポイントランキングでは現在ヒューストンが1位、堀米が2位。今大会は予選対象ではないが、優勝賞金が1000万円、2位が200万円という高額賞金大会ということもあり、国内外のトップ選手が集まって本気のパフォーマンスを繰り広げた。

 26日の決勝戦は緊張感と高揚感に溢れていた。

 試合は45秒間でコースを自由に滑る「ラン」を2本、一発技で競う「ベストトリック」を3本実施。それぞれ100点満点で採点し、ランとベストトリックの最高得点の合計で順位を決める特別方式で行なわれた。

堀米には2つの選択肢があった。

 ランを終えて90点で首位に立ったのはヒューストン。3点差の87点で2位につけた堀米は、ベストトリックで逆転を狙うという状況だ。

 このとき、堀米には2つの選択肢があった。

 ひとつは、難度の高い新しいトリックで勝負すること。

 そしてもうひとつは、高得点の出やすいセクションを選ぶ代わりに、トリックそのものは慣れているものを選ぶという考え。

 ベストトリックは、どのセクションを選ぶかによって点の出方が違うため、難度の高い技をメイクしても、セクションの選び方によっては点が出ないこともあるからだ。

「大技というか、あれは自分の得意技」

 予選からの採点の動向を見て、「ギャップtoレイル」を選ぶべきと考えた堀米は、このセクションに向かって滑り出した。

 勝つための作戦を練り、セクションを先に決めてからそこでできる自分の最高難度技として選んだのは「ノーリー270スイッチバックフリップ」。

「大技というか、あれは自分の得意技。今回のように、大きなセクションでやるとなると、新しい技を出すのは難しいので、自分の得意なトリックで、ぎりぎりのものを乗りました。トリックの出来としては良かったです」

 結果は、93点だった堀米に対して、大技の「キャバレリアルバックサイド・ノーズブラント」を完璧にメイクしたヒューストンが97点を出して、ランとの合計187点で優勝した。

白旗ではなく、戦略についての考え方。

 180点で2位となった堀米は、悔しさを率直に口にした。

 ヒューストンとの差について聞かれると、「そんなに差はないと思う」と即答しながら、そのうえで現状について冷静に分析した。

 それは「勝つためにはもう1個、大きいトリックを持ってこないとダメなのかなと思いました」ということ。

 ただしこれは白旗ではなく、戦略についての考え方。別の質問のときには「自分の新しいトリックでメインセクションに対応できれば優勝も狙えたのかなと思いました」とも語っている。

 一方で、ヒューストンを素直に称える言葉もあった。

「ナイジャは多くの経験をしてきている。(97点を出した)最後のトリックも、練習中は1回も決めていなかったけど、一発で決めていた。それも凄いと思いました」

世界最高峰リーグで日本人初優勝。

 高校を卒業して米国に渡ってプロになった堀米は、2018年5月に世界最高峰リーグである「ストリートリーグスケートボーディング(SLS)」のロンドン大会で日本人初優勝を飾り、脚光を浴びるようになった。

 昨年は8月に米ミネアポリスで行なわれたXゲームズで優勝し、9月にサンパウロで行われた世界選手権では優勝したヒューストンに続く2位になっている。トップを争うスケーターの中枢にいることに疑いはない。

「東京五輪に向けては、スキルをもっと上げるのと、そのトリックをいろいろなものに対応できるようにレベルアップしないとダメだと思いました」と課題を語る姿には、東京五輪で頂点を目指す者にふさわしい決意がにじんでいた。

 今大会にはスケートボード・ストリートの他に、東京五輪の新種目である自転車BMXフリースタイルパーク、パリ五輪から採用が見込まれているBMXフラットランドなど、4種目のトップ選手64人が集まった。

 観衆は2日間で2万3000人で、その多くが家族連れ。会場内では子どもたちが目をきらきらさせてあこがれの選手を見つめていた。

日本の子どもたちのアイドルに。

 会場外でも印象的な光景があった。

 決勝日の試合開始前に会場の周りを歩いていると、背後からガリガリというスケートボードに乗る音が聞こえてきた。すると、遥か前方にいた4、5人の子どもたちが歓声を上げて一目散に走ってきた。

「ナイジャ!ナイジャ!」

 ママたちも来て、遠巻きに彼らを眺めている。スーパースターは自身の腰ほどの高さではしゃぐ子どもたちとの記念撮影に応じると、再び笑顔でボードを漕ぎ、風のように去って行った。

 ヒューストンはすっかり日本の子どもたちのアイドルになっていた。

「僕の祖母は100%日本人なんだよ」

 日本で開催された中ではかつてないほど大規模でハイレベルなイベントを終えて、堀米はこう言った。

「世界のトップのプロスケーターがこんなにも集まった。みんなとやれて楽しかったし、自分の良い滑りもできた。こういったイベントで、色々な人たちにスケボーの楽しさを知ってもらえれば良いなと思うし、新しいスケーターもどんどん増えていくと思う」

 3月からは東京五輪の予選大会が再び始まる。

「今年はすごく大会が多い。自分の良い滑りをしてポイントを着実に取って、まずはオリンピックの出場権を獲りたい。もっと自分のスキルを上げて、新しいトリックも増やして、オリンピックも良い状態で挑みたいです」

 大会前、「僕の祖母は100%日本人なんだよ」と明かしていたヒューストンも、「今回のコンテストは雄斗や(3位の)ジェイミー(・フォイ)もいたし、とてもアメージングな大会だったよ。雄斗のトリックはクレイジーだったね。この先には東京五輪もある。楽しみだ」と満足そうな笑みを浮かべた。

“前哨戦”で見せた2人のパフォーマンスは東京五輪本番への期待をさらに膨らませるハイレベルなものだった。今夏の楽しみが一層大きくなった。

文=矢内由美子

photograph by KYODO