今年もプロ野球の春季キャンプを駆け足で見てきた。宮崎県と沖縄県のキャンプ地をめぐって毎年、しみじみ思うのは「プロ野球のキャンプは贅沢だ」ということだ。

 筆者は一昨年まで2冊、「プロ野球春季キャンプガイド」というムックを作ったが、毎年のキャンプで「翌年以降に使いまわしがきく写真」はほとんどなかった。

 選手のユニフォームから、キャップ、トレーニングウェア、パーカーといったものから毎年変わる。一見、同じに見えるようでも腕のエンブレムやスポンサー名が違うので使えないのだ。

 春季キャンプ地のフラッグや幟も毎年全部変わる。同じなのは、沖縄県宜野座村の阪神キャンプや、久米島町の楽天キャンプの空気を入れて膨らますゲートくらいだろう。

Jのキャンプと比べると「お祭り」的。

 その中でキャンプ地の飾りつけのボリュームも年々増えている印象だ。

 実はプロ野球の春季キャンプ地に隣接した施設でJリーグもキャンプを張っているケースは結構ある。

 宮崎では巨人と同じ宮崎県総合運動公園でベガルタ仙台、昨年まで広島が二軍キャンプを張っていた日南総合運動公園で横浜FC、オリックスと同じ清武総合運動公園でツエーゲン金沢、沖縄だと中日二軍の読谷村運動広場でサガン鳥栖、楽天の2次キャンプ地の金武町で北海道コンサドーレ札幌などが開幕に向けて準備を進めている。

 筆者は時間があればそちらも覗きに行くが、サッカーの場合は期間がまちまちで、飾りつけや見物客も少なく、出店もほとんどない。言うならば「合宿」という印象が強い。「お祭り」のような賑わいを見せる春季キャンプは、プロ野球独特なのだと思う。

今季のキャンプは早めの調整。

 今年のプロ野球春季キャンプはとにかく、調整スケジュールが早かった。何しろ東京オリンピックの影響で、ペナントレースの開幕が昨年より9日も早まったのだから、キャンプの日程も前倒しにならざるを得ない。

 寒い宮崎でも、初旬からブルペンに入る投手が多かった。それだけ自主トレで調整してきたのだろう。幸いにも今年の宮崎は2月上旬に暖かい日が続いたが、これも異例のことである。ソフトバンクで投手の故障が相次いでいるのは、この調整と無関係ではないかもしれない。

 紅白戦など実戦形式の練習も始まるのが早かった。そしてオープン戦も始まっている。ソフトバンクだけでなく、早手回しのスケジューリングが、選手のコンディションに影響を及ぼす可能性はあるだろう。

韓国球団の減少、新型コロナ対策。

 そんな中で、プロ野球界も国際情勢と無縁ではないと思うことがいくつかかあった。

 昨年まで2月の練習試合では、韓国プロ野球(KBO)のチームがNPB球団にとって格好の相手になったのだが、日韓関係の悪化によってか宮崎、沖縄で春季キャンプを張るKBO球団自体が激減している。

 昨今の新型コロナウイルスの影響も、感じるところがあった。

 沖縄を訪れる中国人観光客が激減していることもあってか、球場に向かうための移動手段であるモノレールが空いていた。もともとプロ野球春季キャンプに来る中国人はいなかったとはいえ、沖縄県内の移動はかなりスムーズになっており、国際通りも人の往来は少し少なくなっていた。

 そして各球団の春季キャンプ地の受付には、アルコール消毒剤が設置されていた。

 また「咳や発熱の症状がある人はお帰りください」という掲示がされているのが印象に残った。2月16日時点ではプロ野球関係者やメディアに感染者、発症者は出ていないが、球団関係者としては戦々恐々だろう。

宮崎のソフトバンク人気が凄い。

「人気」という点では、宮崎のキャンプでは、ソフトバンクの人出がすさまじかった。土日には2万人を超すファンが詰めかけた。

 JR宮崎駅からは、ソフトバンク、巨人、オリックスの各キャンプ地に向けて臨時直行バスが運行されているが、その便数を見れば人気のほどがわかる。

 ソフトバンクの生目の杜運動公園までは、平日7便、休日15便。巨人の宮崎県総合運動公園とオリックスの清武総合運動公園までは、ともに平日3便、休日7便。圧倒的に便数が違う。

 もともと宮崎県の春季キャンプは60年以上前に巨人が開拓したものだ。ダイエー時代のホークスの宮崎キャンプにも行ったことがあるが、王貞治監督が采配を振っていた十数年前はそこまでの人出ではなかった。宮崎駅には巨人キャンプ行きのタクシーがずらっと並んでいた。巨人人気が圧倒的だったのだ。

 巨人の宮崎県総合運動公園には、JR日南線でも行けるためにバス便が多くないという一面もあるが、人気でもソフトバンクが逆転した感がある。

シートの一部を有料販売に。

 ソフトバンクのキャンプでは、メイングラウンドであるアイビースタジアムの客席の一部を「おもてなしシート」として2100円で予約販売している。「商魂たくましい」ということではない。ソフトバンクのキャンプ地には、九州各地からファンが押し寄せる。

 しかしメインスタンドのいい席は、朝早く来た地元・宮崎のファンが先に押さえがちになる。なので、せっかく遠路はるばる来たお客のために予約シートを用意したということなのだ。おみやげも付いているし、雨天の場合は2100円分の宮崎の名産をもらえるという。

 また今年からリフター車に乗って高さ10mの中空からメイングラウンドを見下ろすアトラクションもできた。とにかく「お客を楽しませる」という点でも、この球団はトップクラスなのだ。

佐々木で人気のロッテキャンプ。

 沖縄県のキャンプでは、石垣島のロッテキャンプの人出が多かった。那覇空港から空路1時間、沖縄本島より台湾に近いという立地だが、今年はツアーの団体客がたくさん押し寄せていた。

 なんといってもルーキーの佐々木朗希人気だろう。

 佐々木は毎朝、サブグラウンドで他の投手とともにアップからキャッチボール、守備練習をこなす。その大きさと伸びやかな動きはやっぱり目立つのだ。

 視線はまっすぐで、一生懸命さが伝わってくる。吉井理人投手コーチが、つかず離れずの距離で見つめている。これもなかなかいい感じだ。

 パスをぶら下げてキャンプ地を歩いていると、年配のお客から「今日はブルペンで佐々木は投げないのか?」と聞かれた。「まだでしょう」というとひどくがっかりされた。こういう形で佐々木フィーバーが始まっている。

新球団・琉球には懐かしい顔が。

 石垣島では例年通り、「アジアゲートウェイ交流戦Power Series2020 in石垣島」が行われている。毎年、台湾プロ野球(CPBL)の強豪、Lamigoモンキーズがやってきていたのだが、Lamigoは楽天に買収され、今年から楽天モンキーズになった。

 イーグルスと同じクリムゾンレッドのユニフォームのモンキーズが、南の島でロッテと対戦するのはちょっと不思議な感じだった。台湾からは応援団もやってくるが、台湾語の応援の中に「らくてん!」という言葉が何度も入っている。これも不思議な感じだ。

 なお、もともとKBO球団のキャンプ地だった沖縄本島南部の東風平(こちんだ)球場では、新球団琉球ブルーオーシャンズがキャンプを張っている。元横浜、ソフトバンクの吉村裕基が選手として参加し、監督はロッテのエースだった清水直行だ。元楽天監督の田尾安志さんの顔もある。

 まだ地元の人がちらほら見に来ているだけだが、この地からも「球春」が始まっているのだ。

文=広尾晃

photograph by Kyodo News