仙台市泉区にある東北楽天ゴールデンイーグルスの二軍施設・ウェルファムフーズ森林どりスタジアム泉。時折、粉雪も舞う寒さの中、20名弱の少年たちが白い息を吐きながらグラウンドを駆け回る。

 楽天球団は野球教室やチアリーディング教室も行うアカデミーの中に、プロ野球チームとして初めてとなる中学硬式野球クラブチーム「東北楽天リトルシニア」を創設している。

 2014年に一般財団法人日本リトルシニア中学硬式野球協会に加盟、2015年から活動を本格的に始動し、セレクションを経て選ばれた1学年10名の精鋭たち(※)がプロ経験者を中心とした指導陣のもとプレー。憧れのプロ野球選手と同じユニフォームを纏って切磋琢磨している。(※現在の新高校3年生となる1期生は20人いたが、2期生からは1学年10人まで。東北連盟からの要請もあり、一極集中を防ぐためにも人数制限がかけている)

センバツにはOBが数名出場予定。

 東北楽天リトルシニアの過去最高成績は全国大会8強が2回。高校野球だけでなく中学硬式野球の世界でも東北勢の優勝はなく、優勝旗は「白河の関」を越えていない。それだけに、日本一を志す思いは強いが、そう簡単ではないのも事実である。

「能力や実力は負けていないと思うんです。でも強豪チームは同学年40人くらいの中から9人に選ばれた“底力”がある。ウチはそれが9人いて、9人出るような状況。なんとか底力を出させてあげたいんですよね」

 そう語るのは創設以来チームに携わる川岸強監督(2017年まではコーチ/元中日、楽天投手)だ。今春のセンバツ甲子園には1期生5人らが出場予定など育成実績も残し始めているが、創設当初の反省、そこから改めて気づかされたことも大きかったと振り返る。

「指導者の僕らも最初はどうしてもギラギラしているから、すぐ(ポイントに)気づいちゃうし、(口を出して)指導をしていたんです。でも“ああしろ”“こうしろ”と言われたことより、(選手が)自分で“こうかな”と直せる方が絶対強いんです」

元プロだから偉い、ではない。

 プロ野球の経験があるとはいえ、指導に関しては初めて。「選手のパフォーマンスを落としてしまっているんじゃないか」と苛まれた日もあったが、そんな時は同じリトルシニアの監督たちに相談をした。「元プロだから偉いとか、指導が上なんてことはない。僕自身も勉強しようという気持ちでした」と話す。

 創設時こそ「周囲から常に見られている感覚」が良くも悪くもあったというが、今では「試合で勝った、負けたと分かれるだけで、みんなで協力し合って助け合ってという、いい関係が築けています。今は大会で皆さんに会うのが楽しみです」と感謝する。良い意味で他のチームと変わらない部分は多い。

 練習の様子を見ても設備は当然、中学球界屈指であるが、特別なことをしているわけではない。細かいところに目を向けると、外野手のスライディング捕球練習での川岸監督の投げる位置の正確さ、守備の名手として鳴らした岩崎達郎コーチ(元中日、楽天内野手)のノックや助言、創設時から携わり教員免許も持つ古川翔輝コーチ兼事務局長(元BCリーグ群馬捕手)の絶妙な声かけなど光るものは所々にあるが、練習内容はシンプルだ。

「最先端のことをやっているわけではなく、泥くさく取り組むことは変わりません。山ほど球を捕った人間の方が上手くなるんです」(川岸監督)

「自分で感覚を掴む」に重きを置く。

 その一方で「僕自身も現役時代そうでしたが、“掴んだ!”という瞬間って全体練習じゃなくて個人練習の時なんですよね」と自らを見つめる時間もしっかりと割いている。川岸監督らは、この「自分で感覚を掴む」ということに重きを置く。だからこそ「彼らがやろうとしていることや変化には気付いてあげたい」としながらも、手をかけすぎないようにと心がけているという。

「苦しんでいたら助けたくなるけど苦しいままでいい時もある。現役時代に能力があっても夢半ばで野球を辞める人をたくさん見てきましたが、“こんなに伸びたんだ”と驚いた人もいる。そういう人たちってみんな“もがいている”んですよ。だから指導者が、彼らがもがくことを止めてはいけないと思うんです」

「調子に乗っている」と言われたことも。

 選手たちに話を聞いても印象的なのは主体性だ。

 新3年生で主将を務める齋藤陽貴は楽天シニアでの成長を尋ねると「視野が広がり細かいところにも気付けるようになり、人前で発言もしっかりできるようになりました」と、真っ直ぐな目と背筋で答えた。

 学校生活では楽天シニアというだけで「調子に乗っている」と言われたこともあったというが、「そう見られることもあるからこそ、普段の学校生活や先生への態度が大事」と、成績表には5段階で4と5しかない。生徒会長も務めて野球で培ったリーダーシップを生かしている。

 山形県尾花沢市から車で片道1時間半から2時間近くかけて通う井上雄斗も「人前でしっかりと喋れるようになりました」と話す。母・美和さんもそう口をそろえ、「周りのレベルが高く落ち込む時もあったが、やりがいを持って切磋琢磨しているようです」と微笑む。

 送迎は平日2回と週末にそれぞれあるが「時には弱音も話してくれるし、車の中でいろんな話ができるので」と、その時間も有意義に使っている。どこにでもある親子の関係が、より密接になっている時間とも言えるだろう。

英才教育を受けるエリート集団ではない。

 チームとしての目標には日本一や1人でも多くの好選手を輩出することもある。だが、決してそれだけではない。川岸監督も「優勝の景色を当然見せてあげたいですが、大切なものは失いたくありません」と力を込めるように、野球をする前に大切なものや野球を通して学べることも指導理念に掲げる。

 何も知らずそのユニフォームと名前を見れば、彼らを「野球の英才教育を受けるエリート集団」と思うだろう。

 だが、実際に足を運んでその様子を見てみると、1人ひとりの中学生がスタッフや家族の協力も得ながら、プロと同じユニフォームを纏う重みや責任とも向き合い、野球を通して懸命に成長を目指している姿があった。

文=高木遊

photograph by Yu Takagi