今年の欧州サッカー界最大のイベントは、いうまでもなく初の広域開催となるEURO2020である。そのEUROに、世界チャンピオンとして臨むフランス代表は、もちろん優勝の最有力候補でもある。

 それでは実際にフランス優勝の可能性はどのぐらいなのか? 『フランス・フットボール』誌1月7日発売号では、デーブ・アパドゥ、オリビエ・ボサール両記者が、フランスが3度目のヨーロッパ制覇を成し遂げられるとする4つの根拠をあげている。

 読者の皆さんは、はたしてふたりの主張に納得できるだろうか。

監修:田村修一

EUROで「死のグループ」入りしたフランス。

 来る6月16日、ドイツとの対戦を皮切りに、フランスは2度目のタイトル獲得からちょうど20年後のヨーロッパ制覇という大きなチャレンジに挑むことになる。

 昨年11月30日にブカレストでおこなわれた抽選会以降、様々な予想がなされるなか、現世界チャンピオンであるフランスももちろん本命のひとつにあげられている。ただし、ディディエ・デシャン監督の強運も、今回ばかりはあまり威力を発揮しなかった。

 フランスは、ドイツ、ポルトガルとともにいわゆる「死のグループ」(残る1カ国はブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、アイスランド、またはジョージア、北マケドニア、ベラルーシ、コソボによるプレーオフの勝者)に入ってしまったのだから。

 とはいえフランスは、7月12日にウェンブレーでおこなわれる決勝にコマを進めるのではないかと、大きな期待が寄せられている。

 漠然とした期待ではない。

 以下にあげる理由があるからこそ、フランスは欧州チャンピオンのタイトルを奪回できると考えられるのである。

理由その1:充実した選手層。

 フランス代表のスタメンは、ほぼすべてがヨーロッパのトップクラブの選手で占められている。その充実ぶりは他の追随を許さないことを、デシャンもよくわかっている。

 ゴールキーパーはCLのファイナリスト(ユーゴ・ロリス=トッテナム・ホットスパー)で、両サイドバックはバイエルン・ミュンヘン(バンジャマン・パバールとルーカス・エルナンデス)に、センターバックはラファエル・バランがレアル・マドリー、クレマン・ラングレとサミュエル・ウムティティはバルセロナの所属である。

 中盤はプレミア(エンゴロ・カンテがチェルシー、ポール・ポグバがマンチェスター・ユナイテッド)とセリエA(ブレイズ・マテュイディがユベントス)のトップクラブの選手たちで、前線にはパリ・サンジェルマン(キリアン・ムバッペ)とバルセロナ(アントワン・グリーズマン)のストライカーが並ぶ。

 唯一例外ともいえるのがオリビエ・ジルーで、いまだチェルシーに所属するものの出番は大きく減っている。

 これだけのメンバーを揃えるフランスは、幾つかのセクション(とりわけセンターバック)に弱点のあるイングランドや、サイドが不安定なうえに守備的ミッドフィールダーにも不安を抱えるベルギーを抑えて、ブックメイカーの賭け率も第1位となっている。

 グループ全体のポテンシャルで、フランスを上回る国はどこにも見あたらないのである。

理由その2:フランスはフレッシュな状態で大会に臨める

 この点についてばかりは「ピンチよありがとう」と言いたい。

 いったいどういうことか?

 今季、多くの代表選手が厳しいシーズンを送っている。そのことがデシャンには逆に有利に働きうるからである。

 これまでもワールドカップやEUROなどの大きな大会に充実した陣容で臨みながら、長いシーズンの後で主力が疲弊していたために、悲惨な結果に終わったことが幾度かあった。

 2002年の日韓ワールドカップがそうで、このときフランスは3つの主要リーグの得点王を揃えていた(プレミア得点王のティエリー・アンリとセリエA得点王のダビド・トレゼゲ、リーグ・アン得点王のジブリル・シセ)うえに、ジネディーヌ・ジダンはグラスゴーでおこなわれたCL決勝で記憶に残るボレーシュートを決めて欧州チャンピオンに輝いたばかりだった。

 選手の疲労に加え、直前のテストマッチ(韓国戦)で無理をおして出場したジダンが負傷してしまったフランスは、優勝候補の筆頭でありながらグループリーグで1勝もできずに韓国を去らねばならなかったのだ。

疲れ切っていたシャビ、イニエスタ。

 2014年のブラジルワールドカップに臨んだスペインも同様である。

 シャビ、イニエスタをはじめとする主力選手たちは、クラブと代表での6年にも及ぶトップレベルでの戦いに疲れ切り、オランダとチリに連敗して早々にグループリーグ敗退が決まったのだった。

 翻って今回のフランスはどうか。ロリスをはじめエルナンデス、ポグバ、デンベレ、トバン、デュブワ……さらにはムバッペやカンテまで怪我を繰り返してシーズンをフルに戦ってはいない。また「幸いなことに」、ジルーばかりかグリーズマンもベンチを温めることが多く、チーム全体がフレッシュな状態で大会を迎えられるのだ。

理由その3:監督がディディエ・デシャン。

 チームがフレッシュな状態であるのは、選手たちが実戦不足であり試合勘が戻っていない不安と表裏一体でもある。

 その弱点を補いうるのがデシャン監督の経験値である。

 クラブに関しては、誰が世界で最も優れた監督であるのか――クロップなのかグアルディオラか、モウリーニョか、ジダンかといった議論がよくなされるが、代表監督ではそれはごく稀である。そしてデシャンはといえば、EUROとワールドカップで連続して決勝に進んだという点で、間違いなくトップのひとりであると言える。

 彼以上の実績を残しているのは、ヨアヒム・レーブぐらいしかいないのだから。

 まずデシャンには最高のグループを作り得る術がある(それは必ずしも最高の選手たちによるグループを意味しない)。

 そしてそのグループを、2カ月間スムーズに維持できる方法も心得ている。

 さらに彼は、チームのフィジカルのピークを、ラウンド16に向けて持っていくことができる。そのためのグループリーグの戦い方も熟知しており、戦術面では素材の良さを最大限に生かしたシステムを構築する。そのためにはEURO2016ラウンド16のアイルランド戦のように、4-4-2でグリーズマンをトップに起用することもあれば、ロシアワールドカップのペルー戦のように、マテュイディを中盤左サイドで起用することもあった。

 もしかしたらデシャンこそが、フランスの最大の武器であるのかもしれない。

理由その4:歴史がフランスの勝利を物語る。

 最後に理由として挙げられるのは、多少合理性を欠いてはいるが――フランス代表のふたつの黄金時代の類似性である。

 20年の隔たりを経たのちに、時代が同じ道筋をたどっているように見えるのはうがちすぎだろうか。

 1996年、イングランドでおこなわれたUEROでフランスは、PK戦の末に準決勝でチェコに敗れ、惜しくも決勝進出を逃した。それから20年後――地元開催であった2016年は決勝で延長戦の末にポルトガルに敗れ、あと一歩のところでタイトルに届かなかった。

 だが、2年後のワールドカップでは、ともに守備的なスタイルで戦い非凡な10番(ジダンとムバッペ)の活躍で世界の頂点に立ったのだった。

 ところが続くEUROでは、どちらも厳しいグループに振り分けられた。

 ベルギーとオランダが共同開催した2000年大会は、2年後の日韓ワールドカップでフランスをグループリーグ敗退に追い込むことになるデンマークと優勝候補の地元オランダ、さらには4年前のファイナリストであるチェコと同じグループだった。

 ドイツ、ポルトガルと同組となった今大会も、2000年とは異なり成績上位の3位4カ国もラウンド16に進めるとはいえ、やはり「死のグループ」に変わりはない。

 2000年のフランスは、準々決勝でラウールのスペイン、準決勝ではフィーゴのポルトガル、決勝ではトッティのイタリアを延長の末に下してヨーロッパチャンピオンに輝いた。今大会でももしグループを1位で突破したら、その先に待ち受けるのは……ラウンド16ではイタリア、ベルギー、オランダが来る可能性もあり、準々決勝ではイングランド、スペインが来てもおかしくない。もしかすると、2000年と同じようなシナリオが再び繰り返されることになるかもしれないのだ。

 もちろん頂点を極めるには並外れた力を発揮することが求められる。だが、それが不可能であると、いったい誰が言えるだろうか……。

文=オリビエ・ボサール,デーブ・アパドゥー

photograph by Bernard Papon/L'Equipe