観客の声が届くホームゲーム――。

 今シーズン、V.LEAGUE DIVISION1(V1)に初参戦したヴィクトリーナ姫路のホームゲームはそんな印象だった。

 V1は音響設備を使った賑やかな応援が定番だが、姫路は、観客1人ひとりの声が選手に届きやすいようにという理由で、応援に音響設備を使わない。ウインク体育館で開催されたホームゲームは、スタンドがチームカラーのピンクに染まり、ファンの力強い声援が会場に響き渡った。

 昨年12月29日に開催されたレギュラーラウンド最終戦も、ホームのそうした生の声援に後押しされ、姫路は、岡山シーガルズを相手に好スタートを切った。サーブとディフェンスが機能し、拾って作ったチャンスをアウトサイドの貞包里穂や金杉由香が力の乗ったスパイクで次々に得点につなげる。V1昇格1年目のチームとは思えない内容で圧倒し25−19で第1セットを奪った。

 ところが、第2セット以降は岡山の守備が機能して流れが逆転し、3セットを連取されて敗れた。前日のNECレッドロケッツ戦も同じ展開だった。第1セットは、準備していた相手の対策と自チームの良さが発揮され、奪うことができるが、相手に対応されると試合中にそれを打開できない。それが今季見えた課題で、姫路の竹下佳江監督は「相手は対応が早く、同じことをやられない。V1のチームはそういう変化に強く、私たちのチームはそこがまだできていない」と語った。

2016年発足、3人からのスタート。

 ヴィクトリーナ姫路は、2016年6月に発足したプロチーム。元日本代表セッターでロンドン五輪銅メダリストの竹下監督のもと、たった3人の選手からスタートしたチームは、2018/19シーズンにV.LEAGUEに参入すると、いきなりV2で優勝を果たし、チーム発足3年でV1昇格を勝ち取った。

 ただV1初参戦となった今シーズン、チーム構成は大幅に変わった。

 昨シーズンまでは、セッターの河合由貴やミドルブロッカーの高木理江、ウイングスパイカーの浅津ゆうこ、金杉などV1経験のある選手が主力となりチームをV1へと押し上げたが、昨季限りで、初期メンバーだった河合、筒井視穂子らが引退。今季のV1は、先発メンバー7人のうち5人、時には外国人選手を除く6人全員が、大卒1、2年目の選手だった。12月以降は合流したばかりの内定選手も早速起用された。

チームの核を任された堀込奈央。

 日本の司令塔を長く務めた竹下監督が考えるチームの核は、やはりセッターである。今リーグでその重責を任されたのは、入団1年目の堀込奈央だった。

 竹下監督とJTマーヴェラスや北京五輪で共にプレーした河合がV1昇格を置き土産に引退したあと、6月のサマーリーグなどでは1年目の櫻井美樹が正セッターを務めた。しかし今リーグの開幕前、櫻井が怪我を負ったため、それまで二枚替えなどで出場していた堀込が、たった1人で司令塔の重責を担うことになった。

 開幕前、堀込は、「ずっと心臓がバクバクしてます」と顔を引きつらせていた。

「プレッシャーはあります。やっぱりセッターが1人しかいないので、自分がどうしたらチームを勝たせられるかというのをすごく考えて。今まで培ってきた技量では足りなくて、特にミドルブロッカーを使うことに関しては、今までミドル主体のチームでやっていなかったというのもあって、使い方やトスの質などが課題です。

 最近、『高校とか大学の時ってどうやってバレーしてたかな?』となるぐらい、いろんなことを取り込みすぎてキャパオーバーで、頭がワーッとなってます。テンさん(竹下監督)には、『自分が今まで培ってきたものプラス、必要なものだけ取り入れればいい』と言われるんですけど、どれも新鮮すぎて全部取り入れちゃうんです」

高校三冠も、一時はバレーを離れた。

 堀込は金蘭会高校3年の時、司令塔としてチームを高校三冠(インターハイ、国体、春高バレー)に導いた。当時は主将も務めており、そのたたずまいはまさにコートの中の小さな監督。記者に囲まれても物怖じすることなく、クリクリした瞳で相手の目をまっすぐに見ながら、ハキハキと答える様子が強く印象に残っている。

 高校卒業後は龍谷大学に進学。卒業後にバレーボールを続けるつもりはなく、3年時にはオーストラリアに語学留学し、1年間バレーから離れた。しかし帰国後、龍谷大の江藤直美監督に、「こんなのあるよ」とヴィクトリーナ姫路のトライアウトの案内を見せられた。

「身長(158㎝)のこともあるし、性格的にダラダラ続けたくはなかったので、バレーを続けるということにこだわりはなかったんです。でも姫路は新しいチームで、その年からVリーグに参戦するということで、どういうチームなのかなって興味がわきました」

 堀込はトライアウトを受け、入団が決まった。昨年、内定選手としてチームに合流してまもない頃、こう話していた。

「私がバレーを始めたのは、アテネ五輪を見たのがきっかけ。その時のセッターがテンさんで、身長がちっちゃくてもバレーはできるということを一番教えてもらった、ずっと励みになっていた選手。その憧れの人がいるところでバレーができるのはすごく幸せなこと」

「自分の武器を作るように」

 1年目から正セッターを務めるというのは、幸運でもあり、試練でもあった。

 竹下監督は「結構厳しいことも言ってきました。セッターの組み立てが、勝ち負けを左右すると。ただそれは、セッターとして通らなければいけない道なので、彼女は理解していると思います」と言う。

 竹下は堀込に、「自分の武器を作るように」と言い聞かせた。

「守備面ではリベロにもなれるようなレシーブ力が必要になってくると、そこはすごく言われています」と堀込。

 現役時代の竹下がまさにそうだった。竹下が後衛にいると、まるでリベロが2人いるかのようにボールがコートに落ちなかった。身長159㎝と小柄で、ブロックでは不利になる分、それを補って余りあるディグ力で存在感を放つ。ほぼ同じ身長の堀込に、そうした生き残り方を伝えるのは当然だった。

 実際、堀込もボールを落とさない。俊敏さとガッツで、コートすれすれのところを飛び回ってボールを拾った。チーム発足4年目の今季、姫路は「ディフェンスの粘り強さ」というチームカラーを手に入れ始めたが、それは堀込の存在によるところも大きい。

初めてのV1、過去の自分を捨てる。

 シーズン終盤、堀込について聞かれた竹下監督は、「非常にディフェンスのいい選手。それに、やはり学生時代にトップで戦ってきた経験は、気持ちの強さにもつながっているのかなと思います」と答えた。

 トスについては簡単には褒めないが、成長は評価した。

「最初スタートした時に比べると、どの場面でどういう選手を使って、生かさないといけないかというところを、少しずつ理解して、修正してきている部分は評価しています」

 初めて経験するV1のシーズンは、過去の自分を捨てる戦いでもあったと、堀込は言う。

「高校や大学とは全く違う世界なので。守備の面では、高校大学でやってきたことが土台となって今があるんですけど、攻撃面に関しては、学生時代はほぼ独学でやっていたので、それはもう捨てて、新しい攻め方や考え方をするようにしました。

 例えば、今まで外国人選手にはトスを上げたことがなかったので、ライトのトスをどうやって高くキープするかというのは考えたことがなかった。ブロッカーと1対1の場面を作るにしても、高校ではレフトとライトに振って上げておけばそれができたんですけど、ここではやっぱりミドルを使わなきゃいけない。そこはあまりしてこなかったところでした」

生き残りをかけた「チャレンジ4」。

 姫路は、昨季の女王・久光製薬スプリングスをストレートで破るなど3勝を挙げたが、最終的に3勝18敗でプレミアカンファレンス最下位となり、プレミア、スター各カンファレンスの下位2チームによって争われるチャレンジ4に回った。

 V1残留か、V2のチームとのチャレンジマッチ(入替戦)に臨むかを決める戦いである。

 チャレンジ4に回ることが決まった時、竹下監督は、選手たちにこう話した。

「昨季昇格するにあたっても、ものすごいプレッシャーがかかる中で、ベテラン選手たちがすごく頑張ってくれて、このV1の舞台をつかみ取ってくれた。チームとしてまだまだ浅い歴史の中でも、そうやって積み重ねてきたものがあるんだよ」

 残留への思いを1つにしたが、生き残りをかけた戦いは厳しかった。

 初戦からPFUブルーキャッツ、日立リヴァーレに連敗。それでも最終のKUROBEアクアフェアリーズ戦まで残留の可能性は残されており、セットカウント1−1で迎えた第3セットはデュースの接戦となった。

 堀込はレフトの貞包にトスを集め、その貞包が決めてセットポイントを握るが、そこからの1点が遠い。相手のブロックとディフェンスに対応されて逆転され、競り負けた。最下位となった姫路は入替戦出場が決まり、選手たちは涙をぬぐいながらコートを引き上げた。

痛い思いをして、きっと強くなる。

 司令塔の堀込と、攻守の軸となった貞包は、目を真っ赤にはらして記者会見に現れた

 堀込は、「プレッシャーのかかる中で、どうやって自分の持っている100%を出せるかがすごく重要でした。気持ちが強いチームが勝つと思ったんですが、気持ちが先走ってしまった」と語った。

 貞包も、「最後、決め切るべき場面で、自分が決め切ることができなかった。まだまだ自分は甘い。自分のプレーだけじゃなく、チームをまとめる、チームを生かす、勝ちに導くという仕事をもっとやっていかなければ」と悔やんだ。

 第3セットのデュースの場面について、竹下監督はこう述べた。

「非常に苦しいローテだったんですよね。たぶんセッター自身、迷った中での選択で、後手になった部分もあったとは思います。ラリーの中で、何か指示が出せるかと言ったら、もう決断するのは選手なので、こういう痛い思いもして、きっと強くなるのかな、と。そうして強くならなければならないチームだと思っています」

プレッシャーがかかる入替戦。

 他のチームなら、1年目の選手は、「勝ち負けを考えずに思い切りやればいい」と先輩に支えられて伸び伸びプレーすることが役割だ。しかし姫路はそうはいかない。今季は、高木や浅津、リベロの片下恭子といった経験のある選手の力を借りながらも、竹下監督は若手を先発として積極的に起用した。

「未知数なところもありますが、若い選手が活躍していかないと、私たちのチームは先がないと思っていますから」

 姫路は2月22、23日に、V2優勝チームの群馬銀行グリーンウイングスとのチャレンジマッチ(入替戦)に臨む。そこではチャレンジ4以上のプレッシャーがかかることが想像できる。

 それでも、未知の世界のV1で、若い選手たちが勝敗を背負い、もがきながら1シーズンを戦い抜いた経験は、きっとそこで活かされるはずだ。

文=米虫紀子

photograph by Noriko Yonemushi