発売中のNumber999号の第2特集は、「ベイスターズをのぞいてみよう!」。NumberWebでも連動して、横浜DeNAベイスターズを特集します。第3回は三原一晃球団の単独インタビュー。昨年末に配信したコラムの未公開部分を特別編集しました。

 昨オフ、球団の舵取りをするトップの一言は、驚きとともに大きな反響を呼んだ。

 2018年シーズン途中に移籍をしてきた伊藤光は、昨年10月の契約更改の際、三原一晃球団代表に「僕はベイスターズに救われました」と告げると、「なに言ってんだ。おまえにチームが救われたんだよ」と、逆にお礼を言われたという。心に響くエピソード。編成の最高責任者である球団代表は選手に非情な宣告をしなければならない立場でもあるが、一方で三原代表はチームのために尽力してくれた人間に対しては心を込めて対応している。

 伊藤以外にも、例えば昨年トミー・ジョン手術をした田中健二朗に対し「功労者だから」と、育成契約を申し出るなど、DeNAのフロントからは選手をチームの貴重な財産と捉えている姿勢が見て取れる。

 伊藤の一件について三原代表に尋ねると「個人とのことですし、わたしとしてはオープンにして話すことはないのですが……」と苦笑して語りつつも、自身の選手たちに対する姿勢を教えてくれた。

3〜5年後を考えるのが仕事。

「これは高田繁前GMの考えでもあるのですが、わたしとしては、同じ野球をやるのであれば“横浜でやりたいよね”という球団にしたいと思っているんです。ですから、環境を整え選手たちがやりたいようにやらせてあげたい、という気持ちは常に持っていますね」

 三原代表はDeNA本社で長年のあいだ人事畑を歩み、2013年1月にベイスターズへ異動。以来、事業本部長等を務め、2016年10月から球団代表を務めている。編成のトップとしてプロ野球出身者ではない異例の抜擢であったが、約2年間ものあいだ高田前GMの傍らに付き、チーム運営のすべてを学んだ。

「高田前GMには徹底的に教えていただきました。とくにおっしゃっていたのは『目の前の1勝を見るのはユニフォームを着ている人たちで、3〜5年後のことを考えるのがわれわれの仕事なんだ』と。つい現場にいると目の前の結果を求めがちなのですが、この数年、球団代表を経験したことで、それが本当にダメなことだということを理解することができました」

ドラ1森は間違っていなかった。

 中長期的な視点に立って、チームを育てる。そのベースとなっているのがドラフト会議だ。

「これも高田前GMの教えなのですが、チームを強化していくことにおいての理想は、素質のある選手をドラフトで獲りファームで育て、それを繰り返していくこと。以前は戦力的にそうも言っていられない状態でしたが、ようやく一昨年のドラフトぐらいから素質のある高校生を上位で獲って育てるといった状況にシフトすることができたんです」

 昨年はドラフト1位で、大方の予想を裏切って桐蔭学園高の森敬斗を指名。将来的な課題であるショートの育成を考えてのことだった。

「ドラフト会議で森の名前がコールされたとき他球団さんのテーブルから“やられた”という空気が伝わってきたんです。おそらく外れ1位で指名を考えていたのでしょうが、その点からもわれわれの選択は間違っていなかったと確信しています。

 森の育成に関し、わたしからチームに伝えているのは、とにかくショートとして育てて欲しいということです。センターラインは野球において非常に大切な要素ですから、そこはじっくりとやってもらえれば。また森にかぎらず今回のドラフトは全指名、うちのニーズに即した理にかなった獲得ができたと確信しています」

ファーム施設も充実、三軍は?

 戦力となる選手を多く育てるといった命題において、他球団のように三軍を作るという考えはないのだろうか。昨年夏から運用が始まったファーム施設『DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA』は、最先端の練習環境はもちろん多くの選手、寮生を受け入れるキャパシティは十分にあるように思える。

「いや、三軍構想はありませんし、現時点でまったく考えていないのが正直なところです。一方で、今季からBCリーグに神奈川フューチャードリームスが誕生し、先方から依頼を受けるかたちで協力していくことになりました。球団からは監督として鈴木尚典を派遣したり、また育成選手の試合出場機会を増やすなど、互いにプラスになるよう交流を今後も広げていけたらと思っています」

選手育成だけでなく、指導者も。

 組織として強くなっていく――。

 DeNAでは選手だけではなく、指導者の育成にも力を入れている。今季、ファームのコーチになった牛田成樹と下園辰哉は、球団の地域貢献活動のひとつである『横浜DeNAベイスターズベースボールスクール』のコーチや運営に携わってきており、ある種の内部昇格といっていいだろう。

 さらに昨年、一軍投手コーチだった三浦大輔が今季からファーム監督を務めているが、コーチングスタッフとしてその脇を固めるのが万永貴司と大村巌というファーム監督経験者であるのは興味深い。これらの動きを見るにつけ、DeNAでは方向性が共有され、将来を見すえた組織づくりができているように思える。

「球団の財産として蓄積していきたい」

「コーチ育成に関しては、ある専門機関にお願いをしてティーチングとコーチングの違いや指導方法に関する研修をしていますし、球団としてもコーチにも成長してもらい、その経験を球団の財産として蓄積していきたい。また三浦監督に関しては、ベイスターズファンから愛されている人物ですし、昨季ピッチングコーチとしてチームに戻ってくる際、いろいろな経験をしてもらうよと伝えているので、新しいことをやるのは彼にとっても非常にポジティブなことだと思います」

 チームを強くして、かつ組織を機能的に運営する。難題ではあるものの、今のところほころびを見ることなく順調にいっているように思える。とくに三原代表の言動から伝わってくるのが、選手たちやスタッフばかりではなくチームを愛するファンに対する思いである。じつは三原代表は、かつてベイスターズのファンだったことを公言している。

ファンが悲しむことは絶対にしない。

 編成という立場として、ファンを喜ばせたいという視点はあるのか三原代表に単刀直入に尋ねると、「もちろん」という表情を見せた。

「それは持っていますね。基本として生え抜きの選手を育て、彼らがチームの中核を担い活躍することが、ファンの皆さんにとって一番の喜びではないかと考えています。一昨年、高田前GMがチームを離れ、新体制になった際、わたしは選手たちに『ファンの方がいなければ、自分たちの存在はないということを認識して仕事に取り組んでくれ』と伝えました。これをやったら絶対にファンの皆さんが悲しむようなことだけは絶対にしないようにと」

 かつて高田前GMは「シーズン途中での補強とかもあるけど、編成としてはその年の仕事はシーズン前にほとんど終わっている。シーズンが始まったときは、もう翌年以降を目指して動いている」と語っていた。そのうえで三原代表を見ていると、未来を見据えるばかりでなく常にチームに同行し首脳陣とコミュニケーションを積極的にとり、“現在”をも生きているように思える。

チームは生き物である以上、つねに見つづけることも重要だ。高田前GMに薫陶を受けた、プロ野球畑出身ではない球団代表の今季の手腕やいかに。楽しみなシーズンがいよいよ始まる。

文=石塚隆

photograph by Hirofumi Kamaya