世界中で拡散が続く新型コロナウイルスと、その感染拡大への対応として大規模イベントの中止・延期が次々と決定される、2020年冬。欧州ラグビーの最高峰、シックスネーションズ(欧州6カ国対抗戦)もその例外ではない。

 今大会では、2月から3月にかけて予定されていた15試合中、4試合が延期となり、予定されていた大会期間を終えた。

 大会主催者は、試合は中止ではなく延期であることを強調するが、現在のところその日程は、「今年の秋」、とまでしか決まっておらず、試合の再手配の実現自体を疑問視する声もある。

 こうして、従来の大会日程中には順位すら決定しなかった今年のシックスネーションズだが、欧州のラグビー界を沸かせる話題だけは、今年も健在だ。

若きフランスに敗れ、エディー劇場は賑やか。

“レ・ブルー”の愛称で知られるフランス代表は、自国開催となる2023年W杯に向け、大胆な世代交代を行った新チームで今大会に挑んだ。イングランドとの開幕戦前の代表合宿には、初招集となる19選手を含む42選手が招集され、その平均年齢は24歳。

 対するイングランドのエディー・ジョーンズ監督は、開幕戦前の記者会見でフランスのメンバーについて聞かれると、「テストマッチがどういうものだか、我々が教えてあげましょう。徹底的に叩き潰しにいきます」、とメディアを煽り、伝統の一戦へ向けたビルドアップに一役買う。

 しかし、試合はミスの目立つイングランドに対し、奔放にボールを動かす伝統的なフランスラグビーのスタイルが機能し、24−17でフランスに軍配が上がる。フランスは、23歳のSHアントワンヌ・デュポン、20歳のSOロマン・ヌタマックが絶妙なゲームコントロールを見せ、ホームでの開幕戦で快勝を挙げた。

 辛辣なイングランドのメディアは、試合前のジョーンズ監督のコメントや、試合でのパフォーマンスを厳しい論調で批判。更には、代表監督として次のW杯までの契約延長の是非についての議論にまで発展。1試合負けただけで大騒ぎとなるのはイングランド代表の常であり、多くの観衆を巻き込む「エディー劇場」は、今年も賑やかだ。

小競り合い、危険なタックル……。

 黒星スタートとなったイングランドだが、その後スコットランド、アイルランド、ウェールズを倒し、延期となった最終節のイタリア戦を前に、3勝1敗と優勝への望みを繋いだ。だが、ここでまた妙な形で注目を集めてしまった。

 イングランドのジョー・マーラーが、試合中の小競り合いのなか、ウェールズのアラン・ウィン・ジョーンズの股間を触り、この映像がテレビ放送、ソーシャルメディア上で大きく広がる。しかし、審判はこの一件に気づかず、TMO(テレビ・マッチ・オフィシャル)からの助言もなく、アラン・ウィン・ジョーンズは試合後の会見で、マーラーは処分を受けるべきだと抗議。

 またこの試合では、イングランドのマヌ・トゥイランギの、ウェールズのジョージ・ノースへのタックルが危険なプレーと判定され、レッドカードの判定が下った。

判定に激高、タブーである審判批判も。

 この判定に納得がいかないジョーンズ監督は、試合後の記者会見で審判を痛烈に批判。ラグビー界では大きなタブーとされる審判批判に対し、大会主催者やワールドラグビーから何かしらの処分が下るか、注目を集めた。公式な処分は免れたものの、同監督はイングランド・ラグビー協会から厳重注意を受けることに。同時に、協会のビル・スウィーニーCEOが審判に謝罪し、この一件は決着した。

 試合翌週に行われた懲罰委員会では、危険なタックルで退場となったトゥイランギには4週間、相手の股間を触ったマーラーには10週間の出場停止処分が下った。これに対し、同節のスコットランド戦で、相手の顔面を殴ったフランスのモハメド・アウアスの出場停止処分は、3週間。

 出場停止期間はワールドラグビーが定めた規定に沿った形で決定されるが、その規定自体の妥当性を考えさせられる懲罰委員会となった。

急がない世代交代、新布陣も機能。

 そんな話題をさらったイングランドだが、昨年のW杯で準優勝したメンバーはまだまだ健在だ。

 延期となったイタリア戦以外の4試合で、途中出場も含めて今大会いずれかの試合に出場した選手は、合計30人。そのうちの24人が、昨年のW杯に出場している。第3節のアイルランド戦、第4節のウェールズ戦においては、スタメン全員がW杯組というメンツで挑んだ。平均年齢約27歳と、比較的多くの選手が2023年までピークを保てるチームにとって、世代交代は急務ではない。

 オーウェン・ファレル主将をはじめ、マロ・イトジェ、ジョージ・フォードなどの主力は健在。負傷中のビリー・ブニポラに代わり、これまでFLで起用されていたトム・カリーが、No.8で全4試合に出場するなど、新しい布陣も機能している。

期待が寄せられるFB専門のファーバンク。

 数少ない初招集組のなか、FBとして2試合にスタメン出場を果たしたのは、ジョージ・ファーバンク。今季のプレミアシップでの活躍がジョーンズ監督の目にとまり、代表入りを果たした。

 初戦のフランス戦では明らかに精細を欠いたが、キック合戦となった次節のスコットランド戦では、厳しいコンディションのなか安定したプレーを見せている。

 器用なタイプの選手を複数のポジションで使うことの有効性を公言するジョーンズ監督だが、同時に「スペシャリストタイプの選手」にも独自の武器があると過去に話していたことがある。実際に、代表監督就任最初の約2年は、FBが専門職のマイク・ブラウンを固定で起用しており、そのプレーを高く評価していた。チームの最後の砦を専門とする23歳のファーバンクの安定感には、同監督が大きな期待を寄せているかもしれない。 

 代表には、WTBとの掛け持ちでFBもこなす、エリオット・デイリー、アントニー・ワトソンというW杯組がライバルとして待ち受け、本来はCTBであるヘンリー・スレイドも、ウェールズ戦では途中出場でFBに入り、素晴らしいプレーを見せた。厳しい競争の中で、ファーバンクが今後どのような活躍を見せるか、注目が集まる。

大会は中断、W杯抽選にも影響?

 今大会では4試合が延期となったが、アイルランドとイタリアはそのうちの2試合、他の4チームは1試合に関係している。消化試合数が異なり、順位表すら正確に出せない状態ではあるが、大会は一旦停止する。延期となった試合が現在の予定通り今年の秋に行われるとすると、優勝は現在1敗のフランス、イングランド、アイルランドの3チームで争われることになる。

 ちなみに、今年の11月末には2023年W杯の予選組み合わせ抽選会が予定されており、この時点での世界ランキングは大きな意味を持つ。11月には世界中でテストマッチが組まれており、場合によっては、ランキング上昇を賭けた長い連戦を強いられるチームも出てくる。

 ただ、クラブシーズン真っ最中の9、10月に、今から4試合のテストマッチをアレンジするには様々な障壁があり、先述の通り今年のシックスネーションズが完結できるかどうかは、まだ誰にも分からない。

 何れにしても、シックスネーションズの開催期間は終了。

 一息つける状態となったイングランドのジョーンズ監督は、協会のスウィーニーCEOと、契約延長の是非について夕食を共にして話をする予定だという。「後任探しのサポート」、というケースも含め、様々なシナリオを想定して協会と結んだ、2021年までの契約。最大の注目は、W杯2023年大会までの契約延長の是非。大きく揺れた2020年のシックスネーションズの行方と共に、エディー劇場の今後にも注目だ。

文=竹鼻智

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