世界の舞台で躍進を狙う、ホッケー女子日本代表「さくらジャパン」。
だが、同時に各国のライバルたちも虎視眈々とその牙を研いでいる。
各強豪国の特色とチームカラーを、元日本代表の藤尾香織さんが解説する。

 女子ホッケー界では近年まで世界ランキング1位の女王・オランダが図抜けていた印象だったのですが、現在はオランダも少し苦戦している気がします。得点を取るのに苦労している感じで、突き抜けた強さがなくなっているように思います。

 昨年7月に行われた「さくらジャパン」とのテストマッチでも、ほぼベストメンバーを揃えたにも関わらず3−2、3−1と2試合とも接戦でした。世界ランキングでは13位の日本の実力が上がって来ていることもありますが、少し停滞している印象です。

 とはいえ、やはり底力はありますね。劣勢の中でも最後はしっかり勝ちきる。どんな形であっても、泥臭く得点をしてくる迫力はランキング上位の国の特徴だと思います。

昨年7月に山梨で行われた練習試合では、日本に押しこまれる時間帯も多かったオランダ。

FIH 女子ホッケー世界ランキング(2020.3.18現在)

1 オランダ
2 アルゼンチン
3 オーストラリア
4 ドイツ
5 イングランド
6 ニュージーランド
7 スペイン
8 アイルランド
9 インド
10 中国
11 ベルギー
12 韓国
13 日本

 欧州ではホッケーは人気スポーツで、特にオランダでは女子の人気No.1なんです。選手も子どもたちからアイドル視されていて、才能のある子が集まりやすい環境。欧州勢は高身長の選手が多く、競り合いにも強い。ダイナミックなプレーが持ち味ですね。

 世界ランキング3位のオーストラリアや同6位のニュージーランドといったオセアニア勢は組織力が高く、フィジカルを生かしたパワフルなプレーをしてきます。欧州勢同様に、身長も高いですし、そつのないプレーをしてくる印象です。

注目したいアルゼンチン独特のリズム。

藤尾さんが最も注目するというアルゼンチン。世界ランキングは2位(3月18日現在)。

 一方で私が、ライバル国で最も注目しているのが南米のアルゼンチンです。

 アルゼンチンの選手は個人技のアイディアが豊富で、独特のリズムというか、こちらが予測しにくいプレーをしてきます。気迫あふれるプレーも持ち味で、混戦から個人技の技量とスピードで点を獲ってくる。理屈ではない、“感覚派”の選手が多いイメージです。

 数年前まではルシアナ・アイマールという、サッカーで言えば(リオネル・)メッシのような選手を擁していて、基本的にはアイマールを中心としたチーム作りでした。ところが彼女が2014年に引退すると、逆に組織としての完成度がどんどん上がっていった。昨夏の試合を見た時には、伝統の個人技に加えて、チームとしての完成度の高さにも驚かされました。

 あとは同じアジアからはダークホースとして、インドの存在が不気味ですね。世界ランクは9位ですが、国内で競技の人気が高いこともあって国を挙げてのバックアップ体制がすごく充実している。実際の大舞台でひとつ勝つようなことがあると、一気にチームが流れに乗るような気がしています。身体の面でも私たちが戦っていた頃とは全然変わっていて、アスリートらしい強靭なフィジカルに変貌を遂げています。

躍進著しいインド。昨年8月に大井で行われた五輪テストイベントでは日本を破り優勝。

個の勝負になっても不安はない。

 では、そんなライバル国たちを相手にさくらジャパンはどう戦うべきか――。

 日本の一番の武器はやはり“運動量”だと思います。ゲームの終盤でも前線から全力でプレスをかけられる、そのフィジカルは長所でしょう。

 ホッケーはスティックを使う競技ということもあり、競り合いが多い他のチーム競技とくらべて、身体の小ささが不利になりにくい競技だと思います。だからこそ小柄な日本チームが、大きい選手を相手に勝負を仕掛けているシーンは、ぜひ見てほしいですね。

 かつての日本チームは組織力の高さで世界と勝負していました。ですが、ホッケーという競技は突き詰めると結局最後は“個”の勝負になる瞬間があるんです。チームの力だけに頼っていても絶対に強豪国には勝てない。そういう部分を理解した上で、いまのさくらジャパンの選手たちは個人技の技術も伸ばしているように思います。ボールを受けた時に不安そうな顔をする選手がひとりもいないところに成長を感じますね。

ライン際の「3Dドリブル」に要注目。

 特に顕著なのが、ライン際の突破力。多くの選手がフィールドの端に追い詰められた時にも、平面の勝負に加えて、スティックの上でボールを弾ませて立体的に相手をかわす「3Dドリブル」を駆使して突破ができるようになっている。追い込まれたところから打開できる力がついているように思います。

 そんな風に技術の高い選手が多いからこそ、試合での課題としてはペナルティコーナー等のセットプレーをしっかり決めることだと思います。FW陣を中心に攻めれば攻めるだけ、セットプレーの機会も増える。劣勢の試合であってもそういう数少ないチャンスをしっかりとものにすることで、格上と思われている国を相手にしてもリズムを崩すことができると思います。

 いまの代表チームは、例えば合宿でも「きっちり決まった1日1.5〜2時間という短時間の練習時間で全力を出しきる」ためのトレーニングをしています。オーストラリア人のアンソニー・ファリー監督が就任してからは、そういった実践的な練習が増えているように感じます。どちらが良い、悪いということではないですが、私たちの頃の合宿でよくあった1日7時間〜8時間練習をするという形とは変わってきていますね。

 その分空いた時間が増えるので、チーム全体で意思疎通を図るミーティングを重ねたり、ビデオを見たりして自分たちで研究する時間が増えている。そういうスタイルでチームも強くなっているのかもしれません。

目の前の試合に集中することの重要性。

 世界大会などの大舞台では、やはり色んなことを考えてしまうものだと思います。「この試合に勝ったら」とか「あの国が勝ったから勝ち点は」とか、つい計算をしてしまう。でも、大舞台で結果を残した国の選手に話を聞くと「“目の前の一試合”に集中できた」という話をする選手が多いんですよね。ホッケーは予選リーグから決勝まで試合期間も長い競技ではありますが、そういうなかで平常心を保つことも非常に重要なのかなと思います。

 自分の経験を振り返っても、2008年の北京五輪の初戦で、自分がアシストして得点を獲った時の喜びはいまでも覚えています。今の選手たちにも味わってほしい瞬間ですし、観客の皆さんにもその瞬間をぜひ期待してほしいと思います。

藤尾香織

藤尾香織Kaori Fujio

1981年1月29日、東京都生まれ。ホッケーが盛んな山梨県の南アルプス市に移住したことがきっかけで競技を始める。大学1年時に日本代表初選出。アテネ、北京、ロンドンと3大会連続で五輪に出場し、2006年には世界最高峰のオランダリーグにも参戦した。2018年より品川区東京2020大会コミュニケーターとして、ホッケーの魅力を伝えている。

文=別府響(文藝春秋)

photograph by Hideki Sugiyama