今週末の第50回高松宮記念(3月29日、中京芝1200m、4歳以上GI)は、戦後初の無観客GIとなる。

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、JRAで無観客競馬が行われるようになってから、これが5週目。高松宮記念に有力馬2頭を送り出す藤沢和雄調教師も話しているように、競馬が実施されるだけでもありがたい。

 日本馬に関係の深いところでは、現地時間の3月28日に行われる予定だったドバイワールドカップを含む一連の国際招待レースが急きょ中止となった。

 すでに現地入りしていたアーモンドアイをはじめとする20頭の日本馬(サウジアラビアでレースをしてから現地入りした馬たちもいる)は、遠距離輸送と検疫という大きなストレスだけを受けることになった。

 それに先立ちイギリスでは、4月4日に予定されていた世界最高峰の障害レース、グランドナショナルのほか、すべての競馬開催が4月末まで中止になると発表された。フランスやアイルランド、南アフリカでも4月中旬まで開催が中止に。

 また、5月2日に予定されていたアメリカのケンタッキーダービー(チャーチルダウンズ競馬場ダート2000m)が9月5日に延期されることになったり、同じケンタッキー州のキーンランド競馬場も4月24日までの開催を中止することが発表されたりと、コロナ禍は、世界中の競馬開催に影響を及ぼしている。

ルメールは先手の行動が裏目に。

 悪い形に嵌まってしまったのは、クリストフ・ルメールだ。日本からUAE(アラブ首長国連邦)への入国制限がかかって「一番大事な馬」であるアーモンドアイに乗れなくなったら困るからと、3月20日から22日の日本での騎乗をキャンセルし、その前にドバイに入った。

 しかし、彼がドバイにいる間に状況はどんどん悪化していった。レース6日前の3月22日にドバイワールドカップの中止が決定。その後日本に帰国したのだが、感染拡大防止のため、帰国日の翌日から14日間、自宅に待機することをJRAから要請された。そのため、今週の高松宮記念ばかりでなく、来週の大阪杯にも騎乗することができなくなった。

 言ってもせんないタラレバだが、もし今週乗ることができれば、高松宮記念ではグランアレグリア、タワーオブロンドン、モズアスコット、ノームコアという4頭もの有力馬から騎乗馬を選ぶことができたのだ。

馬券の売り上げは80%を維持。

 世界がグローバル化したことが拡散のスピードを速めているというウイルスの性質そのままに、競馬界における影響の出方も、各国の状況が絡み合っている。

 日本ではインターネット投票が普及しているため、無観客競馬でも、JRAではおおむね前年比80%ほどの売上げを確保している。地方競馬では、黒船賞が行われた3月10日の高知競馬場のように売上げレコードを記録したところもある。それでも、やはり、観客のいない競馬というのは寂しい。

 さて、そうしたなか、節目の50回目を迎えた高松宮記念が行われる。

 今回の出走メンバーで、コロナ禍による影響を最も強く受けたのはモズアスコット(牡6歳、父フランケル、栗東・矢作芳人厩舎)かもしれない。

 当初は4月4日にオーストラリアのランドウィック競馬場で行われるドンカスターマイルに出走を予定しており、出国検疫のため東京競馬場に入っていた。が、オーストラリア政府が検疫体制を強化したことと、開催中止のリスクもあるため、遠征を中止。目標をここに切り換えた。

鞍上はルメールからデムーロへ。

 といっても、オーストラリア遠征を取りやめたら高松宮記念に行くという方針を、矢作調教師が早くからスタッフに知らせていたため、その後の調整はスムーズに進んだ。

 一昨年の安田記念と今年のフェブラリーステークスを勝ち、この馬を二刀流王者としたのはルメールだった。鞍上が空白になっていたが、ミルコ・デムーロを確保した。

 デムーロは、2014年にコパノリチャードでここを勝っているし、2018年の朝日杯フューチュリティステークスでは、今回最大のライバルになりそうなグランアレグリアに直線入口で一気に馬体を寄せて勝つなど、強い牝馬の負かし方を知っている。

 週末の雨予報も、成長するにつれパワー型になりつつあるこの馬にはプラスだろう。スプリント戦は初めてになるが、1400mで8戦して3勝、2着4回、4着1回(うち1戦はダート)という成績からしても、心配なさそうだ。

勝てば矢作調教師はGI4連勝。

 僚馬のオークス馬ラヴズオンリーユーがドバイに遠征したものの、レースがキャンセルになったため帰国する。その無念をここで晴らすことができるか。

 もし勝てば、矢作師は、昨年の有馬記念、ホープフルステークス、今年のフェブラリーステークスにつづく、管理馬によるJRA・GI実施機会4連勝という新記録を樹立することになる。

 無観客で行われるので、ファンファーレも生演奏ではなくなるという。

 コロナ禍のため、嬉しくない意味で、記録にも記憶にも残るレースになるだろうが、白熱した闘いで、そうしたマイナスのイメージを吹き飛ばしてほしい。

 繰り返しになるが、競馬が行われることのありがたみを感じながら、見届けたい。

文=島田明宏

photograph by Yuji Takahashi