夏のインターハイが中止になるかもしれない――。

 そんな衝撃的なニュースが全国を駆け回ったのは4月の中旬のこと。26日には、インターハイを主催する全国高校体育連盟から、中止の正式発表がアナウンスされた。

 高体連の決定に従うように、大阪、福岡などを除いた大半の都道府県で、インターハイ予選にあたる都道府県総体が中止となった。様々な競技の関係者から嘆きの声がやまない。

 高校バスケ界、その中でも全国大会を目指せるレベルのチームにとって、インターハイの中止は必ずしも”絶望的な事実”ではない。なぜなら彼らは当初から、12月のウインターカップ(全国高等学校バスケットボール選手権)出場を見据え、そこまで現役を続ける予定で部活に取り組んでいるからだ。

 ウインターカップに当たり前のように出場する強豪チームにとって、インターハイは新人戦程度の位置づけ。強豪チームの監督が、インターハイ中止に対するコメントを寄せた記事をいくつか読んだが、どの記事にも必ず「ウインターカップに切り替える」というニュアンスの言葉があった。

福岡第一は全寮生が実家へ。

 インターハイ2連覇、夏冬通算4連続優勝を目指した福岡第一男子部は、4月初旬、留学生を除く全寮生が実家に帰った。

「1〜2週間程度だと思ったら、ここまで長引くとは……。1人で体育館を掃除するときなんか、さみしくてさみしくて仕方がないですよ。寮にいる留学生の顔を見ることだけが励みになっています」

 井手口孝コーチは、率直な思いを打ち明けた。

ウインターカップがあると信じられれば。

 福岡第一はここ2年、河村勇輝(現・東海大1年)というスーパースターを中心に、主要タイトルを総なめにしている。つまり、現在の3年生は入学時からなかなか出場機会に恵まれていない。

 いよいよ最終学年。自分たちも全国優勝できることを見せつけたい。そして何より、できるだけ長くコートでプレーをしたい……。そんな意気込みが絶たれた。井手口コーチは「最初の全国大会がなくなってしまったことに対する精神的な落ち込みはあるとは思う」と彼らの心境を慮りながらも、「ただ」と続けた。

「僕らは『ウインターカップがある』という希望があるから、そこまでの落胆はないと思います」

 井手口コーチはインターハイ中止決定後、LINEを用いて部員たちに「大会がなくなってしまった部のことを思いつつ、僕らはウインターカップがあると信じてがんばろう」とメッセージを送った。選手たちの希望は、冬へとつながっている。

普通の公立校にとって、IH予選は集大成。

 その陰で、大きな絶望の中にいるのが、冬を待たずに引退する予定だった3年生だ。

 彼らにとって、インターハイ予選は集大成だったはずだ。3年間の成長の成果を発揮し、1つでも多く勝つことを目指していた大会が、突如消えた。最上級生としての公式大会を新人戦のみしか戦っていない。それにも関わらず、有無を言わさず「あなたは引退です」という事実のみをつきつけられた。

 神奈川県公立高校で女子部を指導するコーチは、4月28日に県総体中止の正式決定を受け取った。

「その前からほぼ中止という雰囲気があったので、登校日の際に『覚悟をしておくように』とは伝えていました。正式決定を伝えたのはZoom(オンライン会議システム)で。昨年の主力が最上級生になり、県ベスト16を目指そうと言っていた中での中止でした。3年生は『試合やりたかったな』『私たち引退なんだな』と泣いていました」

 このコーチは、彼女たちにあえて「引退」という言葉を与えなかった。「どんな形になるかはわからないけれど、必ず最後の晴れ舞台を用意する。それまではどうか、まだ現役だという気持ちで過ごしてほしい」。3年生たちは今でも、週1回のオンラインミーティングに参加し、部員主導の「オンライン朝トレ」に取り組んでいるという。

代替案は進めど、受験もある。

 この春、新任で東京の私立高校に着任したばかりの男子部のコーチは、キャプテンにLINEメッセージで中止決定を伝えた。直接話したら、泣いてしまいそうだったからだ。

「『仕方がないことですけど、正直悔しすぎます』と返信がありました。彼はバスケをするために学校に来ていたような子だし、去年スタメンとして出ていながら力を発揮できなかった悔しさを今年にぶつけるつもりで頑張っていました。『高校でバスケはおしまい』という部員もたくさんいます。言葉が見つかりません」

 全国高体連は、このような3年生たちを救済するために、「時期を改めて、都道府県レベルでの大会の開催を検討してほしい」と各都道府県高体連に要請している。ただし、これから3年生たちは受験や進路決定の時期に入っていくことを考えると、実施にはさまざまな障壁が生じるだろう。

 神奈川県の進学校で男女を指導するコーチは言う。

「このまま3年生を終わらせるのは残酷すぎる。県高体連の対応を待ちながらも、何かアイディアがないかと考えているところです。

 例えば、例年は下級生のみで臨む7月の地区大会や8月の私学大会を、3年生の引退試合にすることも考えています。ただ、3年生は受験モードに入っている時期なので、そこまで部活を続けようとは言えません。学校が再開した時に彼らと相談して、終わりをどこに置くかを相談できればと考えています」

「まだ終わりじゃない」は正しいが。

 インターハイ中止の報を受けて、さまざまな著名アスリートたちが、高校生たちに励ましのメッセージを送っている。

「これを励みにがんばって」

「まだ終わりじゃない」

「次の目標を見つけよう」

 大人からかける言葉として、これらは至極まっとうなものだ。彼らは人生が長く、時間が経てば痛みが薄れることを知っているからだ。しかし、あるラジオ番組を聞いて、はっとした。高校生3年生のリスナーが、「大人たちが言っていることはわかるけれど、僕らは目の前のことに必死で、今がすべて。受け止めることができない」と言っていた。

高校生にとっては「今」がすべて。

 もし、自分が高校3年生で同じ状況にいたとしても、同じ気持ちだっただろう。それどころか、SNSに「きれいごとを言いやがって」というような罵詈雑言を書き散らしていたと思う。

 あまりにも有名な高校バスケ漫画の主人公が言い放った通り、高校生にとってのすべては『今』だ。

 だから、ただ願うしかない。コツコツと作り上げてきた、けれど残念ながら誰にも見せることなく胸にしまい込まれる宝物を、君自身がしっかり抱きしめることを。そして、いつしかそれと別れ、新しい宝物を見つける日が来ることを。

文=青木美帆

photograph by Kyodo News