新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、東京五輪の開催は1年あまりの延期になったが、その影響は今シーズンだけにとどまらず、4年後の2024年パリ五輪に向けた活動にも及んでいる。

 まずは現況を整理しておこう。国際統括団体IFSCは、5月1日発表という当初予定よりも1週間ほど早い4月23日に、7月にフランスなどで予定されていたW杯3大会の延期を決めた。

 これは3月13日からロックダウン(都市封鎖)措置をとるフランスで、4月13日にエマニュエル・マクロン大統領が、7月中旬までのイベント禁止措置の継続を示唆したことを受けてのものだ。

 この発表から2週間後の5月7日には、スイスで開催予定だったW杯ボルダリング開幕戦マイリンゲン大会と、W杯リード第2戦のヴィラール大会の中止が決まった。さらに5月14日には9月下旬に予定されていたW杯リード・リュプリャナ大会の中止も決定した。スロベニアでのW杯は1996年から昨季まで24年連続してクラーニで行われてきたが、同国の天才クライマー、ヤーニャ・ガンブレッドの活躍によって今年は初めて首都での開催になっていたものの、歴史的な一歩は来季以降に持ち越されることになった。

世界ユース選手権の開催はどうなる?

 その一方で、光を感じる発表もあった。アジア選手権の開催が、12月10日から13日まで中国・廈門(アモイ)で行われることになった。男女の優勝者に五輪出場権が与えられる舞台で、日本代表選手たちはレベルの高い中国や韓国の選手たちとの熾烈な戦いに挑むことになる。

 また、IFSCは4月23日の発表では、8月にロシアで予定される世界ユース選手権については6月1日にアナウンスするとしている。ロシアの新型コロナウイルスの感染者数は3月末からの1カ月間で80倍超ペースで増加していることを踏まえれば、予定通りの開催は難しいかもしれない。

 国内で史上初めて中止が決まった高校総体(インターハイ)と同様に、年齢制限のある大会の中止による選手たちの喪失感や、進路などに及ぼす影響は大きい。それだけに、世界ユース選手権が開催されることを願ってやまない。

今季はパリ五輪への第一歩だった。

 前回記事では国内協会JMSCAが、W杯リードや世界ユース選手権のための代表選考会を実施できていない現状に触れたが、今回のW杯リード開幕延期の決定によって時間的猶予を手にできた一方で、こうした事態を渡りに船とばかりによろこべない事情もある。

 それはJMSCAにとって今シーズンが、2024年パリ五輪に向けての選手強化を本格始動の一歩目にしているからだ。

 今年11月から半年間の『JMSCA第1期パリ五輪強化選手』は、今春からのW杯単種目での世界ランキングや、世界ユース選手権の全種目全カテゴリー優勝者、コンバインド・ジャパンカップの成績などから選考することを定めている。

 しかし、大会の開催見通しが立たない今シーズンが、仮にこのままW杯を行わずに終わることになれば、パリ五輪強化選手を決める手立ての再構築が必要になり、必然的にパリ五輪に向けた選手強化は立ち遅れることになる。

ヘッドコーチが語る強化への課題。

 想定されるこうした事態を、日本代表の強化責任者である安井博志ヘッドコーチは、「選手強化は時間がいくらあっても足りないのに」と嘆く。

「東京五輪に向けて選手強化をやってきてわかったのは、4年という時間は決して選手強化に十分ではないということです。この4年間に培ったノウハウはありますが、それはまだ発展途上のもの。しかも、パリ五輪で実施されるスポーツクライミングは、新たなフォーマットになります。それを考えれば、厳しいと言わざるをえないですよね」

「W杯という舞台で何かしらの答えを」

 選手に及ぼす影響も大きい。今年のボルダリングジャパンカップでは、男子の小西桂や佐野大輝、女子の松藤藍夢(あのん)、野部七海(ななみ)、青栁未愛(みあ)、工藤花が、上位進出を果たして、初めてW杯ボルダリング日本代表の座をもぎ取った。W杯の舞台を目指して昨年1年間の努力を実らせた選手たちだからこそ、安井ヘッドコーチは「なんとか国際大会を経験させたい」の想いが強い。

「彼らが国際基準の課題でどんなパフォーマンスをするかは楽しみなんです。率直に言って、彼らがW杯ボルダリングに出場して、すぐに結果を残して五輪強化選手になれるかといったら難しいと思います。でも、彼らはW杯で国際基準の課題に跳ね返されたら、必ずそれを糧にして、ひと回りもふた回りも強くなろうとするはずです。それは必ず、日本選手全体のレベルアップにつながっていきますから。ただ、そうした強化責任者の立場での考え以上に、彼らが去年1年間に努力したことに対して、W杯という舞台で何かしらの答えを手にさせたいんですよね。その思いが大きいです」

パリの実施種目次第で、日本もチャンスに。

 最後は2024年パリ五輪での実施種目についての影響も触れておきたい。

 スポーツクライミングのパリ五輪での実施は、昨年6月のIOC(国際オリンピック委員会)総会で承認されている。その内容は確定していないものの、男女それぞれ「ボルダリング+リードのコンバインド」と「スピード」の2種目を行い、スピードには男女計32名、コンバインドには男女計40名が出場というフォーマットが有力視されている。

 しかし、IFSC関係者によれば、IFSCは昨年6月以降もボルダリング、リード、スピードの3つの単種目実施という悲願に向けて、IOCに働きかけ、東京五輪でのスポーツクライミングの成功次第によっては逆転での実現に手応えを得ていたという。

 当初の予定通りなら、実施種目は今年12月のIOC理事会で正式に決まる。しかし、これは東京五輪の実施状況を見極めて判断されることになっていたため、東京五輪そのものの開催が延期になった状況にあっても予定通りに理事会が開かれるのか、それとも来年に持ち越しになるかは不明だ。

 スポーツクライミングだけでなくあらゆる競技が見通しの立たないなか、国内外で若いアスリートたちの前向きな強い意思が未来をつなぎとめている。

文=津金壱郎

photograph by AFLO