5月中旬になり、日本のゴールデンウィークや母の日も終わったのに、アメリカ合衆国はプロ野球のない日々を過ごしている。スポーツ専門局ESPNでは韓国プロ野球(KBO)の中継(映像だけ貰って、アメリカ在住のコメンテイターが話す形式)が日常的に行われていて、『これが日本プロ野球だったら良かったのになぁ』などと思う日々だ。

 メジャーリーグ(MLB)機構は5月中旬、合衆国の「建国記念日」である「7月4日」前後の開幕、全80試合前後での開催などの要綱を選手組合に提案した。

 そこには選手たちの年俸削減に直結する収益分配案も含まれており、両者の間にある「労使協定」によって機構側が勝手に方針を決められない規則なので、今後の選手側の動向がとても気になる。

 百万長者と億万長者の争いにはまったく興味がないので、両者が合意に達すればとにかく歓迎すべき事態なのだが、MLBが次に直面する「大きな変更」は、まずは6月のドラフト(会議)である。

 例年ならば、MLBのドラフトでは1球団につき40巡目まで指名するところを、今年に限ってはすでにドラフト5巡目までに限定され、来年(2021年)も20巡目までに削減されることが、3月下旬のMLBと選手組合の協議で決定している。

 違う言い方をすると、アメリカ合衆国における「プロ野球選手」という雇用機会が大幅に削減されるわけだ。

昨年、エンゼルスだけで32人が入団した。

 もちろん、毎年、ドラフトで指名された40人のアマチュア選手が全員、契約するわけではない。たとえば大谷翔平選手のいるエンゼルスは昨年、20巡目(全体601位)指名の選手を筆頭に8人が契約に至らず、当時の高校生は大学に進学し、短大生は4年制大学に編入し、4年制大学の選手は大学に残るなどした(MLBドラフトは4年制大学なら3年以上在学か、2年以上在学で21歳以上なら、在学中でも指名できる)。

 日本でなら「指名拒否」などと批判されるかも知れないが、アメリカでは普通に起こっていることだ。大事なのは去年のドラフトでエンゼルスに入団したアマチュア選手が32人もいたという事実で、それはつまり、同じ数に匹敵する選手が自由契約≒解雇されたことを意味している。

マイナーリーグは無観客では意味がない。

 ところが前出の通り、今年は入団するアマチュア選手の数が大幅に削減されるので、解雇される選手の数も自然と少なくなる。

 それはドラフトで指名して契約するであろう30人前後のアマチュア選手の大多数がプレーする場所=マイナーリーグが開催されない可能性が高いからだ。

 マイナーの各球団はMLBの各球団のように巨額のテレビ放映権料が入ってくるわけではないので、無観客試合では主な収入源である入場者収入が皆無になる。それに連動した地方のスポンサー収入も入ってこないので、無観客では開催する意味がない(MLB各球団との間に交わされる「選手育成契約」によって、選手の給料を支払う義務はない)。

 つまり、今回の雇用機会の削減はマイナーリーガーに対する救済措置であり、それによって興味深い事象が起こる可能性もある。

6巡目以降の選手に日本チームがオファーしたら?

 今年のドラフトから漏れた「通常ならドラフト6巡目から40巡目指名までのアマチュア選手」たちには、「ドラフト外」でMLBの各球団と契約するチャンスが残されている。

 だが、もしも彼らが「ドラフト外」での契約の提示内容に「NO」と言えば、どうなるか。

 大学に進学したり、大学に残ったりする選手以外の若者が、「自分には、もう時間はない」と考えたなら、どうなるだろう。

 ドラフト縮小の煽りを食うのはドラフト対象外のドミニカ共和国やベネズエラなどの選手も同じであり、そう考えると今夏、本来はマイナーリーガーとなっていたはずのアマチュア選手の多くが世界中に溢れることになる。

 それらのアマチュア選手に、日本や韓国、台湾のプロ野球チームが「そう悪くない契約」をオファーすることが出来れば、過去にないような「野球の国際化」に繋がるのではないかと思う。

バースは7巡目、ブライアントは6巡目。

 昨夏、福岡ソフトバンクと契約したカーター・スチュワート・ジュニア(福岡ソフトバンク 2018年にブレーブスから1巡目指名)のような逸材はいないだろうし、ドラフト6巡目は全体では151位指名より下なので上位指名の候補選手は皆無だろう。

 とはいえ、きちんとスカウティングができていれば、「掘り出し物」が見つかるかも知れない。

 たとえば昨年デビューして、カージナルスのナ・リーグ中地区制覇に貢献したトミー・エドマン内野手は、2016年のドラフト6巡目(全体196位)指名の選手だった。同年の6巡目指名の選手はすでに4人がMLBデビューを果たして、彼以前にも2013年の左腕マット・ボイド投手(タイガース)やアダム・フレイジャー内・外野手(パイレーツ)など、毎年、7人から10人の選手がメジャーリーガーとなっており、中には昨季33本塁打を放ったマーカス・セミエン遊撃手(アスレチックス)などの「掘り出し物」が現れている。

 それに日本プロ野球のシーズン最高打率(.389)の記録保持者で、セ・リーグで2度も三冠王に輝いたランディ・バース(元阪神)は1972年のドラフト7巡目(全体152位)指名、パ・リーグで通算3度も本塁打王になったラルフ・ブライアント(元近鉄)は1度目のドラフトでは1980年の6巡目(全体138位)指名の選手である。

デストラーデはなんと23巡目。

 バースやブライアントは今よりMLBの球団数が少ない時代のアマチュア選手だったので、今なら指名順位がもっと早くなっていただろう。

 それでも1990年から3年連続の本塁打王、2年連続の打点王との2冠王に輝いているオレステス・デストラーデ(元西武)は、1980年の23巡目(全体588位!)指名だったし、1993年のセ・リーグ首位打者トーマス・オマリー(元阪神・ヤクルト)などは1979年の16巡目(全体408位)指名の選手だったわけで、そういう逸材を「まだ若い頃」に発掘できる可能性がある。

MLBに「田澤ルール」は存在しない。

 MLBには日本プロ野球のように「ドラフト指名を拒否して海外のプロ野球球団と契約した選手は、当該球団を退団後、一定の期間、日本の球団と契約が出来ない」などという、わざわざ雇用機会を少なくするようなルールはないので、『日本のプロ野球という選択もあるのではないか?』と考えるアマチュア選手がいたって、おかしなことじゃない。

 彼らや相談役の代理人が「マイナーリーグで何年も我慢することを考えれば、日本のプロ野球でスター選手になってMLBを目指したっていいじゃないか」と考えたって、何ら不思議なことではないわけだ。

 アメリカ以外のプロ野球にとってはある意味、外国のアマチュア選手を取り放題な状況だが、日本のプロ野球だって過去にないほどの経済的な打撃を受けているわけで、それを「他国の窮状につけ込んで」などと遠慮する必要はないだろう。

 これは雇用機会を失った外国のアマチュア選手を救済する「素晴らしい試み」であり、日本プロ野球の各球団の指導法が、外国のアマチュア選手を「未来のエース」や「未来の三冠王」として育成できるかどうかを試す、絶好のチャンスではないかと思う。

文=ナガオ勝司

photograph by AFLO