目指して来た試合がなくなる。もしそれが学生時代の自分だったら、と想像するだけで胸が潰れそうな思いです。

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止すべく、多くのスポーツ大会が中止・延期を余儀なくされ、バレーボールも夏に開催予定だった高校生のインターハイ、中学生、小学生の全国大会の中止が決定しました。命のため、と考えれば仕方がないとはいえ、多くの子どもたちがそれでも「全国大会はあるはずだ」と信じて練習してきたことでしょう。

 子どもたちの目線に立てば、とても苦しく、やるせない。ただ、なぜ子どもたちがそんな思いをしなければならないのか、という根本を考えると、勝つことだけを競わせる「全国大会」という大人の仕組みがあるから。

 危機的状況である今だからこそ、見直せることや、見直すべきこと。特に年齢が低い小学生のカテゴリーに目を向ければ、この機に取り組まなければならないことが、多くあるのではないか、私はそう思います。

勝利至上主義のデメリット。

 全国大会で勝つ。その大きな目標に向かって頑張るのは、紛れもなく子どもたちがスポーツをするうえでのモチベーションであり、メリットでもあります。

 でもその反面、全国で勝つことがすべて、と勝利至上主義に走りすぎてしまった結果、生まれるデメリットも多くある。子どもたちの残した結果が、大人のステータスになってしまうと、この子を将来どんな選手にしたいか、ということよりも、「どうやって勝つか」ばかり重視されがちです。特に小学生のカテゴリーはローテーションのルールがないので、打つ子は打ち続けて、レシーブをする子はレシーブだけ、とやるべきことが限られてしまうので、必然的に練習もスパイクだけ、レシーブだけ、トスだけ、と偏りが生じます。

 そうなればどうなるか。ケガのリスクが高まります。

 私も小学生の頃からエーススパイカーとして、ほとんどのスパイクを打っていたので、小学生の頃から腰痛がありました。今、小学生のチームに指導へ行くと、当時の私と同じか、それ以上にひどい脊椎分離症やすべり症など、重度の腰痛を抱える子どももいて、サポーターもソフトタイプだけでなく、ハードタイプで固定するなど、大きなケガにつながるリスクを抱えた子どもたちがたくさんいることに驚かされます。

驚いたバレーボールのランク外。

 驚く、といえば以前、「親が子どもにやらせたいスポーツ」のランキングを見た時も愕然としました。なぜなら、10位以内にバレーボールが入っていなかったからです。

 現役を引退してからずっと、私は「バレーボールを、子どもにやらせたいスポーツナンバーワンにしたい」と思い続けて活動してきました。それが現実は10位にも入らない。理由はいくつもあると思いますが、小学生に限らず、さまざまなカテゴリーで体罰のニュースが絶えないことや、勝利至上主義が生み出す理不尽な厳しさ。そんなイメージが先行しているからではないでしょうか。

 特に小学生の親御さんは30代が多く、当然ながら、自分が小学生の時や中学生の時に、バレーボール部やバレーボールクラブがいかに厳しい環境で練習してきたかを見て、知っています。そのイメージが払しょくされず、未だスパルタだと思われているバレーボールをあえて「やらせたい」と思う親は少ないというのは残念ながら仕方がないことなのかもしれません。

 全国大会出場や全国優勝を目指す強豪クラブになればなるほど、指導者だけでなく、保護者の方々も「勝つためには厳しくて当たり前」という発想が根付きがちです。確かに勝つことは大きな目標であり、私も日本一を目指してきました。でも本当にそれだけが目標でいいのでしょうか。

「バレーボールは楽しい」を伝えたい。

 勝っても負けても、1人1人、みんなが素晴らしい存在で、大切な存在です。

 バレーボール教室や、テレビ番組の企画など、小学生のチームで指導に携わらせていただくたび、私はまず、そのことを伝えたいと思っています。

 たとえ試合に出る機会が少なくても、ちょっとでも成長が見られたら見逃さずに褒めるべき時は褒める。名前を呼んで、同じ目線で話すだけで、その子は「自分も認められた」と承認された気持ちになり、「また頑張ろう」と活力につながるのではないでしょうか。

 日々、指導の現場で接している方々と比べれば、私が接するのは限られたごくわずかな時間で、理想論かもしれません。でもそれが、子どもたちにとって「バレーボールは楽しい」と思える要素になるなら、私は私のできることを届けたい、伝えたい。そう思っていますし、実際に訪れた先で子どもたちと一緒に私が立てた練習メニューに笑顔で参加して、楽しそうに取り組んでくれる指導者の方々、子どもたちの将来をより良いものにしたい、と熱心にご指導されている方々はたくさんいます。

 だからこそ、見直すべきは仕組みだと思うのです。子どもたち、アスリートの今だけでなく、将来を見据えた、フェンシング協会が掲げるような「アスリートフューチャーファースト」の発想が必要なのではないでしょうか。

地域ベースのリーグ戦、複数チーム。

 では具体的にどんな策があるか。

 極論を言えば、今のようにトーナメント形式で行われる全国大会の方式ではなく、地域をベースにしたリーグ戦など、より多くの子どもたちが試合に出られる新たな大会方式を取り入れる、というのも1つの方法です。

 勝つことが優先されると、どうしてもメンバーが固定されがちです。せっかく「楽しそうだな」と思ってバレーボールを始めても、試合に出る機会がなければ楽しさは実感できません。ならば1つのクラブから1チームと限るのでなく、A、B、Cなど複数のチームが出場すれば、全員が試合に出ることもできます。

 加えて、ただ方式を変えるというだけでなく、指導者や保護者の意識も変えることが必要です。せっかく試合に出ても、負けたら怒られる、ミスをしたら怒られる、と思わせるようでは、子どもたちが感じるのは、楽しさよりも恐怖です。それでは将来につながるはずがありません。

変わらなければいけないのは大人。

 とはいえ、子どもの頃の私がそうだったように、全国大会で勝つことを目標にしてきた子どもが、突然「楽しめ」と言われても、受け入れられるかと言えばそう簡単でもありません。特に今、目指してきた大会がなくなってしまった子どもたちは、まさにそんな心境であるはずです。

 ただ、これだけは言いたい。多くのアスリートや子どもたち、バレーボールに関わる人たちに「あなたがバレーボールをやっていてよかった、と思うことは何ですか」と聞くと、ほとんどが「仲間ができた」「心が強くなった」と答えます。そこで「日本一になったこと」と答える人は、ごくわずかです。

 何のためにバレーボールをしているのか。それは「勝つため」だけでしょうか。

 バレーボールでしか得られないことはもっとたくさんあるはずです。コミュニケーション能力や、組織の中、それぞれの役割がある中で力を発揮すること。それはすべて、子どもたちの将来にもつながるものであるはずです。

 試合がなくなり、うちひしがれている子どもたちに今、そう伝えてもなかなか伝わりません。だからこそ動き、変わらなければならないのは私たち大人です。

現役選手が果たせる役割。

 先日、子どもたちを対象にオンラインレッスンを行いましたが、その際、参加した子のお母さんから「練習できる環境がなくなり、子どもの心がバレーボールから離れかけていたけれど、このレッスンで再燃しました」とメッセージをいただきました。当たり前に練習できる場所がなくなり、苦しい思いをしているのはトップ選手だけでなく、子どもたちも同じです。

 私たちOG、OBはもちろんですが、これからの将来を見据え、未来を担う子どもたちまで視野を広げれば、現役選手が果たせる役割、力はとてつもなく大きいもので、できることはたくさんあるはずです。私も現役時代は自分のことで精いっぱいで、周りのことを考える余裕などなかったので、偉そうなことは言えませんが、実際に、久光製薬スプリングスがオンラインで石井優希選手が子どもたちの質問に答えるなど、新しい試みを行っていたように、現役選手が子どもたちに届けられることはたくさんあります。

 これ以上、子どもたちが大人のつくった仕組みの中で苦しむことがないように。そして、多くの人たちに「バレーボールをやってみたい」「バレーボールをやらせたい」と思ってもらえるように。今はただ苦しいばかりでなく、未来を見据えて新しいチャレンジができる時なのではないでしょうか。

(構成/田中夕子)

文=大山加奈

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