今年のクラシックは、コロナ禍による戦時中以来の無観客競馬ということのほか、プラスの意味でも「歴史的なクラシック」になるかもしれない。

 日本のターフに新たな歴史を刻もうとしているのは、第81回オークス(5月24日、東京芝2400m、3歳牝馬GI)に出走する無敗のデアリングタクト(父エピファネイア、栗東・杉山晴紀厩舎)である。

 とにかく、前走、桜花賞の勝ちっぷりが凄まじかった。

 重馬場のなか、道中は離れた後方に待機。直線入口では届かないかに見えたが、1頭だけ別次元の脚で豪快に伸び、2歳女王のレシステンシアを並ぶ間もなく差し切った。

 とても道悪でのレースとは思えない瞬発力で、令和初の桜の女王となった。

牡馬2強との対決は秋か。

 新馬戦、エルフィンステークスにつづく3戦3勝での戴冠。デビュー3戦目での桜花賞制覇は、2歳戦が行われるようになった1946年以降、’48年ハマカゼ、’80年ハギノトップレディに並ぶ最少キャリア。無敗での桜花賞制覇は、2004年ダンスインザムード以来16年ぶり、史上7頭目と、この時点ですでに競馬史に名を刻んでいた。

 新馬戦からエルフィンステークスまでは約3カ月、そこから約2カ月で桜花賞と、間隔をあけて使われてきた。桜花賞後、少しでも長くリフレッシュの時間を取るため、陣営はダービーも選択肢に入れていたのだが、結局、牝馬同士のオークスに回ってきた。

 コントレイル、サリオスの「牡馬2強」との対決が見られるのは秋以降になりそうだ。

 デアリングタクトがオークスを勝てば、'57年のミスオンワード以来、'63年ぶり2頭目の「無敗の牝馬クラシック二冠馬」となる。ちなみに、ミスオンワードは、8戦8勝でオークスを制した翌週、連闘でダービーに出走し17着に敗れている。

阪神1600mと東京2400mの関係。

 デアリングタクトは、杉山調教師が「今まで一番よくなった」と言うほどの状態に仕上がっている。

 祖母のデアリングハートは、府中牝馬ステークスを連覇したほか、NHKマイルカップ2着、ヴィクトリアマイル3着と、東京コースを得意にしていた。

 良馬場での切れ味はエルフィンステークスで実証済み。ウオッカ、トールポピー、ブエナビスタ、ジェンティルドンナらがそうだったように、阪神芝外回り1600mで好成績をおさめた牝馬は、同じく直線の長い東京芝2400mでも強さを見せる傾向にある。

「歴史的オークス」のヒロインになる可能性はかなり高いと見た。

無敗の馬はもう2頭いる。

 今回の出走馬のなかには、ほかにも2頭の無敗馬がいる。

 2戦2勝のデゼル(父ディープインパクト、栗東・友道康夫厩舎)と、アブレイズ(父キズナ、栗東・池江泰寿厩舎)である。

 いずれかが勝てば、'43年クリフジ、'46年ミツマサ、'57年ミスオンワード、'06年カワカミプリンセス、’19年ラヴズオンリーユーにつづく史上6頭目の「無敗のオークス馬」ということになる。

 デゼルの母アヴニールセルタンは、'14年の仏1000ギニーと仏オークスを無敗で制している。そして父はディープインパクト。つまり、デゼルは、両親から「無敗のクラシック制覇」の遺伝子を受け継いでいるのだ。前走、スイートピーステークスの勝ち方が、実に鮮やかだった。上がり3ハロン32秒5という末脚で、デアリングタクトの桜花賞同様、別次元の強さを見せつけた。鞍上が、そのときと同じダミアン・レーンというのも強調材料になる。

 もう1頭のアブレイズは、コントレイルと同じ「チーム・ノースヒルズ」が送り出してきた馬だ。この馬でJRA重賞初勝利を挙げた「逆輸入ジョッキー」藤井勘一郎の手綱さばきにも注目したい。

無敗馬の間に割って入るとしたら。

 ここで印を。

◎デアリングタクト
○デゼル
▲クラヴァシュドール

 無敗馬の間に割って入るとしたら、2歳時にサウジアラビアロイヤルカップでサリオスの2着となり、つづく阪神ジュベナイルフィリーズで3着、チューリップ賞2着、桜花賞4着と、つねに世代上位の力を発揮してきたクラヴァシュドールではないか。

 ノーザンファームの生産馬で武豊が乗るミヤマザクラや、桜花賞で3着に逃げ粘り、ここでも「逃げ宣言」をしているスマイルカナあたりの一発も怖いが、言い出すとキリがないので、このくらいにしておく。

文=島田明宏

photograph by Yuji Takahashi