緊急事態宣言の解除によって、止まっていた将棋界のタイトル戦も一気に動き出した。

 新型コロナの渦に巻き込まれてしまうものとほぼ諦められていた、藤井聡太七段のタイトル戦挑戦の最年少記録更新も可能性が急復活した。

 ヒューリック杯棋聖戦(産経新聞社主催)の挑戦者決定トーナメントの準決勝、藤井−佐藤天彦九段戦と、永瀬拓矢二冠−山崎隆之八段戦が6月2日に設定され、決勝は中1日で4日に対局。そして渡辺明棋聖が待ち受ける棋聖戦五番勝負の第1局は、挑戦者決定から4日後という前代未聞の短い間隔で、8日に東京・千駄ヶ谷の将棋会館で開催という日程が発表されたからだ。

 藤井が準決勝、決勝と連勝して挑戦権を手にすれば、屋敷伸之四段(現九段)が17歳10カ月24日で挑戦した1989年の棋聖戦の記録を4日更新する最年少レコードの更新となる。

 準決勝からタイトル戦まで合わせて中5日という超異例の対局日程を組んだところに、藤井聡太という次代を背負って立つ大スターにかける日本将棋連盟の期待の高さが読み取れるところだ。

名人戦、叡王戦の日程を見てみると。

 併せて、延期、再延期となっていた豊島将之名人−渡辺明挑戦者の名人戦(毎日新聞社、朝日新聞社主催)七番勝負の日程も27日に決まった。また同じく永瀬叡王と豊島挑戦者がまみえる叡王戦(ドワンゴ主催)七番勝負の日程も1、2局目のみ先行して発表された。

 一気に動き出した3つのタイトル戦を記して、その慌ただしさを実感してもらいたい。

6月8日
棋聖戦第1局 東京「将棋会館」

6月10、11日
名人戦第1局 鳥羽市「戸田家」

6月18、19日
名人戦第2局 天童市「天童ホテル」

6月21日
叡王戦第1局 会場未定

6月25、26日
名人戦第3局 東京「将棋会館」

6月28日
棋聖戦第2局 東京「将棋会館」

7月5日
叡王戦第2局 会場未定

7月27、28日
名人戦第4局 東京「椿山荘」

8月7、8日
名人戦第5局 東京か大阪「将棋会館」

8月14、15日
名人戦第6局 東京か大阪「将棋会館」

8月27、28日
名人戦第7局 東京か大阪「将棋会館」

名人戦を1カ月も開けて棋聖戦か。

 目を引くのは、名人戦の第3局と第4局の間が1カ月開いていることだ。推測だが、ここに棋聖戦の後半戦をズドンとはめ込んでくるものと思われる。

 名人戦が佳境を迎える前のタイミングで、渡辺明と藤井聡太のタイトルマッチが燃え上がる展開は、主催者や日本将棋連盟だけではなく、将棋ファンの誰もが待望するところだろう。

 両タイトル戦にまたいで登場する渡辺明にとっても、その期間だけは相手を1人に絞って戦える設定は好都合に違いない。叡王戦と名人戦をまたぐ豊島としても、名人戦がそこで1カ月開くのは歓迎なはずだ。

佐藤、永瀬、山崎も高く大きな壁。

 とはいえ、棋聖戦に藤井聡太が出てくると決まったわけではない。

 準決勝で当たる佐藤天彦は、名人陥落後に調子を落としているとはいえ、相手の攻めをギリギリ見切る技術は超一流。藤井と言えども簡単に突破できる相手ではない。

 そして、決勝に出てくるのは充実の永瀬か独創の山崎。どちらにしても高く大きな壁だし、3人が自動的に敵役になっている雰囲気を感じるのも必然で、よけいに力を出してきそうだ。

 '16年のデビュー以来、毎年8割以上の勝率をマークしている藤井聡太であっても、タイトル戦の挑戦権にたどり着くというのは、それほど大変なことなのだと改めて思う。

 それでも、待ち受ける渡辺明棋聖は「可能性としては5割以上藤井さんが出てくるものと思っています」と、冷静に計算している。

 藤井聡太のポジションは、すでに認められているのだ。

王位戦も順調に勝ち進んでいる。

 藤井聡太のタイトル挑戦の可能性は棋聖戦だけではない。王位戦(ブロック紙3社連合主催)でも挑戦者決定リーグの白組で首位を走り、その最終戦が6月13日と発表された。阿部健治郎七段に勝てば、23日に紅組首位の棋士(永瀬二冠が最有力とみられる)との挑戦者決定戦に進む。

 木村一基王位が待ち受ける七番勝負は、例年通りの時期(昨年は7月3日から9月26日)に収まりそうで、棋聖と王位の挑戦権をともに藤井が手中にしたときは、入り組んだタイトル戦の過密日程の中に飛び込むことになる。

 これから暑くなる時期なのに、コロナの影響は当然残っていて、対局室はエアコンを入れながら換気のために開け放たれることになるのだろう。マスク絶対着用の暫定ルールがどうなるかだが、普段に増して健康管理も問われる夏の陣となるのは間違いのないところだ。

 トップ棋士たちの妙技を存分に楽しみたい。

文=片山良三

photograph by Kyodo News