6月19日に開幕が決まったプロ野球。野球ファンには待ちに待った日になりましたが……では、その間にチームはどのように変わったのでしょう? Number Web上でプロ野球コラムを綴る手練のスポーツジャーナリストたちが、開幕で注目して欲しい見どころをピックアップ! 今回は筒香嘉智ロスから力強く立ち上がってきた横浜DeNAベイスターズです。

「優勝したい」という選手は数多くいるが、「優勝しなきゃマズい」と危機感をもって語る選手はあまりいない。ましてや1998年以来20年以上リーグ優勝できていない横浜DeNAベイスターズの選手であればなおさらだ。

 しかし、石田健大は真剣な表情で言うのだ。

「今年じゃないかなとは思っているんです。今シーズン獲れなかったら、逆にマズいと思うんですよ」

 DeNAは2016年シーズンで3位になって以来、2018年を除き、Aクラスへ進出している。2017年には日本シリーズを経験し、昨年は22年ぶりに2位でシーズンを終えている。いよいよ機は熟したということか。

「一昨年は1勝差でBクラスになっていますし、昨年は首位に0.5ゲーム差まで迫りながら優勝を逃してしまった。つまりこの2年で1勝、2勝の重さをチームメイト誰もが痛感したわけです。勝たなければいけない試合は絶対に勝たなければいけない。この経験をしてからの今年なので、僕としてはちょっと楽しみだなという思いもあるんです」

 選手たちが若くて勢いのあるDeNAに足りなかったのは“経験”である。足りなかったピースが、揃うのではないかと石田は強く予感しているのだ。そして今年優勝することができなかったらいつできるのか、と。

必死さに満ち溢れていた昨季。

 昨季は大車輪の活躍だった。リリーフからスタートし、夏場には先発に戻り、終盤さらにリリーフへ。チーム状況によってポジションを変えながら40試合を投げ、防御率2.14は投手陣の中核を成す立派な数字だった。どんな場面であっても颯爽とマウンドに現れ、強く腕を振る姿は、観る者の心を打つ必死さに満ち溢れていた。

 そしてもうひとつ、昨年から選手会長となったことで、立場が人間性を育てた。昨年の春、当時キャプテンだった筒香嘉智から、自分の目が行き届かない投手陣の様子を観察しておいて欲しいと伝えられると、石田はそれを実践した。いつもとちがう風景には、新たな発見があったという。

「とくに自分からなにを言うわけではないのですが、人のことを意識して見ていると、どんなことを考えているのかわかるようになったんですよ。今までは自分のことばかりだったのですが、余裕ができたというか、視野が広がったんですよね。それをわからせてくれた筒香さんには感謝ですよね」

いろんな人間ときちんと付き合える。

 人を見るというのは簡単なことではない。自分の準備が完璧にできていなければ、他者を気にする余裕は生まれないものだ。石田は誰よりも早くマインドセットし、まわりを見つめつづけた。また自分から声を掛けることはないと石田は語っていたが、法政大学時代からの先輩である三嶋一輝は、長年付き合いのある後輩の微妙な変化に気づいていた。

「石田は学生時代から、いろんな人間ときちんと付き合えるタイプなんですよ。人懐っこいところもあれば距離をとることもわかっている。真面目な顔も、おちゃらけた顔も持っている。たしかに口数が多い方ではないので、みんなの前であまり発言はしないんですけど、苦しんでいる後輩とかがいると、みんなのいないところで個人的に声はかけていたんじゃないですかね」

 先発とリリーフ両方やってきたからこそわかる微妙なピッチャー心理、また若い投手たちも話しやすく経験豊富な石田を頼りにした。今やDeNAの投手陣にあって石田は精神的支柱になりつつある。

理想のピッチングは今永昇太。

 そして今シーズン、サウスポーの石田は先発に専念するのではないかといわれていた。キャンプ中、ラミレス監督は「場合によっては中継ぎをやってもらうこともある」と語っていたが……。

 入団以来こだわりを持ちつづけている先発のマウンド。キャンプのとき、先発として今季はどのようなプレーでチームに貢献したいかと石田に尋ねると、希望に満ちた表情で次のように語った。

「理想は去年の今永(昇太)のようなピッチングですよね。1−0で完封できるピッチャーというのはすごく魅力的だし、そういったピッチングができればなって。ただ、最近は長いイニングを投げてきていないので、そこは意識して経験を多くしていきたい。最低でも規定投球数をクリアし、そこで終わるのではなく先を目指す。そうすればおのずと数字はついてくると思います。あとはマウンドから降りるときはちゃんと3アウトを取ること。中継ぎをやったからわかるんですよ。ランナーを背負った状態でマウンドに行く大変さが。だから3アウトを取ってベンチに戻ること」

任されたところで結果を出すだけ。

 だが本人の思いとは異なり、石田はリリーフでの開幕が決まった。コロナ禍により中断していた練習試合が再開された当初は先発候補としてマウンドで投げていたが、ラミレス監督のシーズンへ向けたタクティクスが固まると石田はあらためてブルペンを言い渡された。たしかに現時点において左のリリーバーはエドウィン・エスコバーしかおらず駒が足りない。またテンポのいいピッチングで試合の流れを変えるという重要な役割においても、石田は適任者だといえる。

 今回の配置決定について石田は次のようなコメントを出している。

「任されたポジションで結果を出すことしか考えていません。任されたポジションで自分の力を出し切ることがチームのためになると思っています。どのポジションでも自分の力を出し切り、チームの勝利に貢献できる投球をするだけです」

石田は優勝へのキーマンになる。

 先発で投げたいという気持ちがあったのはまちがいない。本心はどうだったのかシーズン後にゆっくりと訊きたいと思うが、石田自身もう腹はくくっているはずだ。すでに経験しているポジションであり、冒頭で語っていたようにチームが悲願の優勝を手に入れるために自分がなにをすべきか誰よりも理解している男である。

 また今季は全120試合ということもあり、ラミレス監督はこれまでとは違った戦術を用意してくることだろう。今永や濱口遥大のように長いイニングが見込める先発投手ばかりではなく、継投はより複雑化するのではないだろうか。第2先発を用意するなど、結果的にリリーフ陣に負担がかかることはまちがいない。

 そこでどんな場面でも投げられる石田の存在は非常に大きい。おそらく投手陣においては、マルチロールをこなす石田が優勝へのキーマンになると睨んでいる。

「その自信はありますけどね」

 先発について尋ねたキャンプ時、「リリーフとして再び声がかかったらどうしますか?」と訊くと、石田は冷静な面持ちで言った。

「そういうところでなかなか投げられる人がいない中、いい経験をさせてもらっていますよね。これは他のピッチャーにはない自分の強みだと思っています。ただ、たまたま去年はいい感じでハマって抑えることができましたけど、今年また中継ぎをやったときに、それができる保証はないわけですよ」

 いつになく慎重な言葉選び。しかし次の瞬間、石田は口角を少し上げてピシャリと言い放った。

「その自信はありますけどね」

 おおっ、と声が出そうな男っぷり。

「だからそのためにどんな準備をしなくてはいけないのか、しっかり考えながら本番まで過ごしていきたいですね」

 すべては予想の範囲内。死角なく準備はできている。「優勝しなきゃマズい」と危機感を抱く、誰からも頼りにされる選手会長。怪我をすることなくリリーフとして獅子奮迅の活躍はもちろん、ここぞといった局面で先発としてまっさらなマウンドで投げる石田の姿をぜひ見たいものだ。

文=石塚隆

photograph by Kyodo News