6月19日に開幕が決まったプロ野球。野球ファンには待ちに待った日になりましたが……では、その間にチームはどのように変わったのでしょう? Number Web上でプロ野球コラムを綴る手練の書き手たちが、開幕で注目して欲しい見どころをピックアップ! 今回は知る人ぞ知る選手に注目してみた、千葉ロッテマリーンズです。

 練習試合13試合中、途中出場が12回。

 されど盗塁数は12球団中単独トップの7を記録して、その名を全国のプロ野球ファンに轟かせた。

 特筆すべきは盗塁を仕掛ける際の思い切りの良さと加速の速さ。まだまだ牽制球の対応に課題は残すが、6月14日の練習試合(対埼玉西武)では6回表、相手の牽制球に誘い出されるも、なりふり構わずにそのまま2塁へとスタート。50m5秒8の快足を飛ばして、結果的に一塁手・山川穂高の悪送球を誘って盗塁を成功させた。

 さらに8回表の一死一塁の場面でもこの日2つ目の盗塁に成功。二塁到達のタイミングにまだまだ余裕があり、来たるべき開幕に向けて西武首脳陣も警戒を強めたことだろう。

 このペースのままシーズンでも盗塁を量産すれば、現在は代走がメインとはいえ盗塁王の獲得も夢ではなくなる存在。そんな浪漫を追いたくなる選手。それが千葉ロッテの3年目・和田康士朗だ。

プロへの道は一歩ずつ。

 彼の名前を初めて聞く人もいるだろう。

 それもそのはず。彼はこの6月、育成枠から支配下に昇格したばかりだ。

 経歴が異色なのも馴染みがない理由なのかもしれない。

 小学4年生のときに始めた野球は中学時代に負った怪我の影響もあって、一度はやめる決意をした。

 埼玉県にある県立小川高では陸上部に入部。高校球児としての最大の夢「甲子園を目指す」ことは諦め別の道に進んだ。しかし、大好きな野球を捨てきれず、高校2年から地元埼玉のクラブチーム「都幾川(ときがわ)倶楽部硬式野球団」の門を叩く。

 当時は「プロ入り」なんて意識すらしていなかったというが、高校卒業後の進路として選んだBCリーグのトライアウト受験を経て、富山サンダーバーズから1位指名を受けると、おぼろげながらNPB入りの夢を見るよう心境にも変化が出た。

 BC富山在籍時は、ウェブ上に溢れる野球動画を見るなどして打撃フォームを研究。なかでも参考にしたのは福岡ソフトバンクの柳田悠岐だった。彼を参考にした豪快なスイングと俊足はたちまち野球ファンやNPBのスカウト達の目に留まり、その1年後の2017年には千葉ロッテから育成ドラフト1位で指名を受け、念願のNPB(千葉ロッテ)入りを果たす。夢がひとつずつ形になってきた。

プロ入り後は動けなくなることも。

 しかし、プロ入り後はそれまでの練習量との違いに戸惑い度々、チーム内で置いていかれ気味になることもあった。

 今でも印象に残っているのは彼の入団1年目。試合後の個別練習が終わり、ロッテ浦和球場から次々と選手たちがクラブハウスへ消えていく中、和田は三塁側ベンチ横にある用具置き場兼の待機所で、ただ一人、全ての力を出し切ったようにしばらく動けずにいた。

 高校、または大学時代に強豪校で猛練習を重ねてプロに来た他の選手達と比べて、和田はまだまだ体力面で課題が残る選手だった。

食事は体作りに欠かせないけれど。

 また、当時の和田を悩ませたのは体作りの点。

 幼少期から食道が狭いこともあって、咀嚼するのに人の倍近くの時間をかけなければならなかった。

「子供の頃は食事をするだけでも(食道に)痛みが出ることもあって、母に食べ物をいつも小さく切ってもらったりして食べていました。だから子供の頃は外食をした記憶もないんです」

 寮内で食事を終えるのはいつも最後の一人だった。
そうした試練を乗り越えたからこそ、食事嫌いになる幼児の気持ちもよく分かるのだと彼は言う。

 取材の流れで、たまたま量が食べられない筆者の息子の話になったときも「その気持ち、よく分かります。僕も食べるのが遅い子供だったので。そういうときに『早く食べなさい』とか『もっと食べなさい』とか言われると余計に食べづらくなって、結果として食事時間が嫌いになってしまうと思うんです。だから息子さんにもあまり急かさないようにしてあげてください」と、自らの経験を踏まえ心優しいアドバイスをくれることもあった。

近所のお兄ちゃんがプロ選手に。

 そんな経験もしてきた和田の体付きが、明らかに変わって来たように感じたのは昨シーズンを迎えたあたりからだ。

 入団直後の“近所のお兄ちゃん”的な雰囲気がすっかり薄れて、プロの選手にふさわしい逞しい体付きに成長した。

 身体が出来上がってきたことで、技術もそこに追い付いてきた。

 昨年から二軍の打撃コーチを務めている福浦和也の指導もあって打撃技術もみるみる進化。それまでは柳田悠岐ばりの豪快なスイングばかりがメディアで注目されてきたが、試合でも芯で捉える打球が増えて、ファームでの打撃成績は103試合出場で打率.264、本塁打も6本と大幅に上昇した。

 今季に入ってもその勢いは衰えなかった。

 6月2日からの練習試合でも、一軍の投手達を相手に9打数3安打と活躍。1試合1打席程度のわずかな出場機会だったが、少ないチャンスを着実にモノにする働きを見せた。

両親に感謝の気持ちを伝えたい。

 これで開幕一軍入りも確実。プロ入り後初の公式戦出場に向けまた一歩前進した。

 6月1日の支配下登録の際に和田は、千葉ロッテマリーンズ公式サイトにこれまでの想いを綴っている。

「嬉しいですしホッとしています。両親に感謝の気持ちを伝えたいです。ここまでの道のりはとても長く感じ、心が折れそうになったこともメチャクチャありました。母に電話をして相談をしたこともありました。母からは『悔いが残らないようにやりなさい』、『中途半端にだけはならないようにしなさい』と励ましてもらい、その言葉がこれまでの自分の支えでした。自分のアピールポイントは足だと思うので、まずは足でチームに貢献をしたいと思っています。」

 開幕3戦目となる6月21日はちょうど父の日になっている。

 球界に出現した新たな“韋駄天”が両親への感謝を胸に、塁上で最上のスタートを決める。千葉ロッテの「ジョーカー」となる日はもうすぐそこだ。

文=永田遼太郎

photograph by Kyodo News