6月27日のJ2に続き、7月4日にJ1リーグが再開した。

 等々力スタジアムのスタンドは無人だったが、「桶(オーケ)ストラシート」と名づけて販売されたシートには購入者の顔写真が貼られた桶が並び、ホームの川崎をバックアップしていた。

「久々の公式戦。サッカーを楽しもう。勇姿を見せよう」と川崎フロンターレの鬼木達監督は、選手を送り出した。

 試合は、2−0と川崎がリードした直後に鹿島がオウンゴールで1点を返すが、そのまま終了した。

 鹿島の内田篤人は試合後にため息をつき、自身の判断の甘さが川崎に2点目を奪われることに繋がったと話した。

「僕はJリーガーになりたくてサッカーをしてきました。ここまで長い中断は初めてのこと。ここからは新しい歴史を作る気持ちだ。僕らが止めてはいけないという気持ちで試合に入った。のに、内田は……はぁっていうプレーを前半にやってしまった」

これで公式戦4連敗。

 今季から就任したザーゴ監督が「今までとはまったく違うサッカーをしている」と語るように、ショートパスを繋ぎ、ボールポゼッションを重視する新スタイルを目指している。

 しかし1月1日の天皇杯決勝、1月28日のACLプレーオフで敗れ、2月16日のルヴァンカップでも0−1の敗戦。リーグ初戦の広島戦でも0−3と完敗。中断を挟んで、今季の公式戦4連敗を喫することになった。

 この日のキックオフ直後、川崎は右サイドへボールを展開した。ゴールに背を向けてボールを受けた家長昭博に、鹿島の永戸勝也が身体を寄せる。家長のバックパスは鹿島の左MF和泉竜司の足元へ転がった。ここでボールを奪えれば、プレッシング成功だったが、和泉の足に当たったボールが跳ね返って川崎ボールとなり、そこから先制点を生む左のコーナーキックにつながった。

選手たちが受けた精神的ダメージ。

 この1点目を決めた谷口彰悟のポジションについて、オフサイドだったのではないかと試合後も議論が続いている。

「中断期の練習試合でもセットプレーでの失点がなかったし、(ゴールの判定には)正直、ガクンという感じはあった。監督が代わり、新しいことにチャレンジしようというスタートだったのでそこで躓いたのはある」と内田は話す。

 ザーゴ監督も「明らかなオフサイドだったがとってもらえず、過度な緊張を選手たちに与える結果となった」と、立ち上がりの失点がゲームの流れに影響したという見解を示した。

 23分の飲水タイム時にも「オフサイドでしょう?」と選手たちが口にしていたというから、精神的な打撃の大きさが想像できる。

 その飲水タイム前後は鹿島が川崎を押し込むシーンが増えていたが、30分に喫した2失点目が決定的だった。

川崎の新スタイルが感じさせた可能性。

 ポゼッションサッカーの経験において、川崎は鹿島の前を歩いている。先制点に繋がるコーナーキックも、文字通り流れるようにパスを繋ぎ、ボールを逆サイドへ運びチャンスを作って生み出したものだ。

 それを可能にしているのは、パスセンスに加えて受け手のポジショニング能力。スペースへ顔を出す選手たちの動きこそが、連動性の鍵なのだと改めて実感するシーンだった。

 なんのためにポゼッションするかという意図をチームで共有できているから、次々と展開が変わる試合の中でも、試合の主導権を手放さないのだろう。

 今季は「超アグレッシブに」という鬼木監督のもと、川崎は4-3-3へシステムを変更した。右ウィングの家長から見事な逆サイドへの長いパスを受けて左ウィングの長谷川が決めた2点目は、川崎の新たなスタイルの可能性の大きさを示した。

鹿島が苦しむメンバーの流出。

 鹿島の選手たちも、トレーニングで重ねてきた1タッチパスやショートパスで崩すプレーを再現しようと懸命だったが、やはりまだボールロストするシーンが多い。そうなればDF陣もなかなかラインを上げられず、高い位置でボールを奪う機会も減る。

 ビルドアップのボールを奪われてショートカウンターを受けるという2月時点で目立っていた課題は克服しつつあるようだが、攻撃にアクセントをつけるという部分での課題は残っていた。

 サッカーの形ではなく、選手自身がピッチ上で判断しながら臨機応変に戦って勝ち点を手にする。

 それが鹿島のサッカーだと選手たちは自負していたが、海外移籍などで選手の入れ替えが激しくなり、選手をじっくり育てる時間は減りつつある。チームを勝たせる「個」の台頭を待つ余裕もない。

 スタメンの約半数が昨季から入れ替わっている状態を思えば、戦術のベースを明確にする意図も理解できるが、中断期を経ても完成度はまだまだだった。

今シーズンは仕切り直しのタイミングがない。

 残念なのは、サイドの選手にボールを預けて外から駆け上がっていくフリーランニングやポストプレーで時間を稼ぐといった鹿島らしいプレーがあまり見られなかったことだろう。

 伊藤翔が途中出場してからはそこでボールが収まり、この試合でプロデビューを飾った染野がバーを叩く惜しいシュートを見せたし、ベテランの遠藤康は短い出場時間ながらもアクセントをつける彼の強みを見せてくれた。しかし、結果には繋がらなかった。

 長い中断期間を経て、ようやく2節が終わったばかりのJリーグ。年末のシーズン終了までは過密日程となり、中断期間もないため仕切り直すタイミングがないのが今季のポイントになりそうだ。

 その分川崎にとっては、大きな1勝になったに違いない。

「(再開)1試合目で勝てたので、次の試合にポジティブに向かえる。自信を持って、いろんな意味でポジティブに行けるのでよかった」

 この試合で通算300試合出場を飾った家長は試合後、勝利についてそう語った。

文=寺野典子

photograph by J.LEAGUE