「去年の納会の時に、下の子たちに言われたんですよね」

 2020年シーズンの選手会長の話題になると、千葉ロッテマリーンズの益田直也は選手会副会長の中村奨吾と西野勇士からいきなりこう切り出されたのだという。

「益田さん、やってもらえませんか?」

 思いもよらない後輩からの指名だった。選手会長はリーダーとしての自覚が芽生え始めていた中村が引き受けるものだと益田は思っていたし、まさか自分にその役がまわって来るとは思っていなかった。

 プロ9年目にして初の大役。しかし不安よりも意気に感じた。

「特に断る理由もなかったので決めましたけど、正直『一番きついときに選手会長になってしまったな』というのはありましたね」

 それはもちろん新型コロナウイルスのせいだ。4月、チーム活動が次々と休止となる中、益田は選手側を代表し、球団と意見交換を重ねた。

 当初は4グループに分かれての自主練習が許されている状況だったが、感染がさらに拡大すると球場および球団施設の使用が全面禁止。先の見えないトンネルの中、気を揉むことも少なくなかった。

 それでもいつになるとも分からない開幕に向けて、日々鍛錬を重ねた。

逆算して準備を進めてきた益田。

「個人的には練習再開から1カ月後くらいに開幕するだろうと逆算して身体を動かしていました」

 オフの自主トレ、春季キャンプ、この自粛期間と良い時間を過ごしてきた証拠だろう。今季は状態の良さがここまでの成績からも見て取れる。

 両チーム合わせて25得点、31安打の壮絶な打ち合いになった7月28日の東北楽天戦でも、先頭の小深田大翔を四球で出したが、慌てることなく、キャッチャー柿沼友哉とアイコンタクト。次打者の鈴木大地をサードゴロで併殺に打ち取ると、最後は茂木栄五郎を得意のシンカーで空振り三振に仕留めて、きっちり3人で締めた。

 今季、自身に起きている変化について益田は次のように語る。

ガムシャラに投げるのではなく。

「心境の変化はあまりないですけど、マウンドでは相手を見て考えて投げるようにはなりました」

 チーム内でも身体能力で1、2を争うほどのポテンシャルを持つ益田。つい数年前までは良くも悪くもポテンシャルの高さを活かし、ボールの力で押すタイプのピッチャーだった。それが経験を重ね、失敗も味わったことで少しずつ投球スタイルにも変化が生じた。

「絶対に投げミスをしたくないというタイミングが各打者からアウトを獲るときにあると思うんです。そこで『投げミスしない』『あそこにしっかり投げる』と冷静に考えられている感じが(今年は)あるかもしれないです」

 気の強さが持ち味の益田だが、今季の彼を見ていると打たれても、抑えても、表情を変えず、淡々としているのが見て取れる。

 益田が続ける。

「甘くなっても良いカウントがあると思うんですけど『ここはしょうがない』ってところと『ここはダメ』ってポイントがあるのでそこは意識して投げています。ガムシャラに全力で投げるって感じは、今年はないかもしれないです」

西武・栗山に投じた全球シンカー。

 相手を観察しつつ、技術的にも精神的にも平常心を崩さずに自身のフォームでいかに投げられるか。それがこの2〜3年で完成形に近づいた。

「2017年くらいから少しずつ出来るようになって、'18年はさらに出来るようになった。今年はそれが大部分(の場面)で出来るようになった感じがします。そのためにはもちろん経験が必要でした。頭でわかっていても、経験がないと実戦では出来ない。どちらも合わさることで出来るようになってきたんじゃないかと思います」

 印象的だったのは7月7日の埼玉西武戦。9回に1点を返され、なお1死一、二塁のピンチを迎えた場面。打席には栗山巧が立っていた。

 ここで益田は全球シンカーを選んだ。プロの一流打者を相手に一見、ギャンブル的にも思えた配球だったが、これも相手打者の反応と状況を見極めて、最良の答えを導き出した。

 益田がこう振り返る。

下に落とす、横に動かす。

「栗山選手は何回も対戦しているバッターですけど、選球眼が物凄く良いんですよね。あの日は非常に風が強くて、自分自身、真っ直ぐのコントロールがなかなか定まっていなかった。一方でシンカーはストライクゾーンに投げれる感じがあったので、初球、2球目と(外角低めの)良いところに決まったのを見て『(その後の配球を)どうしようかな』とは思いました。ただ、風で勝手にボールが動くので、なかなかバッターも打てないかなと思って、そこでシンカーを選択して投げ続けました」

 結果、栗山を空振り三振。最後も木村文紀をシンカーでピッチャーゴロに打ち取ってゲームセット。最少失点に留めた。

 とはいえこの場面、球種は同じでも全く同じボールを5球立て続けに投げたわけではもちろんない。強風を活かし、球筋が異なる2種類のシンカーを巧みに投げ分けていた。これが近年、益田の投球を支える大きな要因にもなっている。

「シンカーは(縦に)小さく落とすタイプと(右に)結構動かすタイプと2種類投げ分けているんですけど、(栗山には)最後は大きく動かして抑えました」

 2つのシンカーはボールの握りも球筋もまるで違う。球速が速く、小さく落とすシンカーは、深く握り、ボールの縫い目には全く指をかけていないという。人差し指の側面の部分で引っ掛けるようにして投げる、彼曰くフォークに近いシンカー。

 一方で球速が遅く、右方向に大きく落とすシンカーは握りが浅く、入団当時からずっと投げてきた得意のボールである。

 この2つを投げ分けることで相手打者を困惑させ、短いイニングをピシャリと抑えている。

井口監督「真っ直ぐが大事」

 そのうえで益田は好調の理由をこう付け加えた。

「やっぱり一番は真っ直ぐじゃないですかね。真っ直ぐがないと変化球も打たれていると思うので、基本は真っ直ぐかなって思いますけどね」

 極度の不振に陥った'17年秋、益田は当時、現役生活最後の試合に向けて二軍で調整をしていた井口資仁(現監督)と自身のピッチングについてじっくり話し合った。

 そこで改めて伝えられたこと。「ピッチャーは真っ直ぐが大事だから」。

 その言葉を胸に'18年は主にセットアッパーで70試合に登板、'19年はクローザーに戻って60試合に登板。27セーブを挙げて、防御率は2.15と見事な復活を遂げた。

「責任は僕らが背負う」

「若かった頃はやっぱり(相手打者を見る意味が)分からなかったので、『投げたらあとはボールに聞いてくれ!』みたいなところがあったんですよね。それじゃいけないのが分かったのと、その頃はまだチームを背負う立場でもなかった。今は僕らがチームを背負っていかなければいけない立場になりましたし、一球一球を自問自答しながら投げています。

 ただ、若い選手はそんなことをする必要はない。彼らには『まだチームを背負わなくていいから、お前はお前の思うままに投げればいい』と声をかけています。責任は僕らが背負う。若い子は自分の成績だけを考えられるように、環境作りもしっかりやっていきたいです」

 今季の益田は、これまでの一選手としての役割だけでなく、選手会長としてチームをまとめていく役割もある。しかし、彼はそれを重荷に感じることなく、今季ここまでのシーズンを過ごしている。それは彼の生き生きとした表情を見ても明らかだ。

 益田が言う。

「自分たちのチームは長い間、リーグ1位となってのリーグ優勝をしていない。今年は試合数も少ないし、特殊な状況下ですけど、リーグ優勝を目指すことに変わりはない。その瞬間をファンの人達はやっぱり球場で見たいと思うでしょうし、シーズン終盤頃にはたくさんのファンの方が球場に入れるようになっていると思うので、みなさんの前でリーグ優勝の瞬間を見せたいと思っています」

 目前に迫っている自らの節目、通算500試合登板と通算100セーブは彼にとって通過点に過ぎない。目指すのはあくまでチームの優勝。それが自分を支えてくれたファン、家族、そして井口監督への恩返しだ。

文=永田遼太郎

photograph by Kyodo News