最下位に沈む湘南ベルマーレにも、光明はある。その最たる存在のひとりが、高卒2年目の左ウイングバック、鈴木冬一だ。

 165センチの小柄ながら、バネのある強い身体に優れた運動能力と技術を兼備。特別な左足から鋭い球を蹴り、急展開と急発進で相手を幻惑する。野性味、そしてストリートの匂い──フットボールタームとしての──もする大阪出身の20歳だ。

 ずいぶん前のことに感じられる2月下旬の浦和レッズとの今季開幕戦で2アシストを記録し、再開後の第3節横浜F・マリノス戦ではJ1初得点をマーク。どちらもシーソーゲームとなり、残念ながら最後は2−3と競り負けたけれど、その存在感は際立っていた。

 8月最初の週末には、ユース時代を過ごしたセレッソ大阪との一戦にもフル出場。だがまたしても、鈴木と湘南は黒星を喫した。今季は新型コロナウイルスの影響で降格がなくなったとはいえ、最下位は不甲斐ない。問題はどこにあるのだろうか。

「まだ模索中みたいな感じで」

「正直、いまはちょっと自分たちでもわからないんです。こうしようという話も出ていますけど、まだ模索中みたいな感じで」

 セレッソ戦後の平日午後に時間をつくってくれた鈴木は、画面越しにそう正直に話した。ただ本人は「(古巣を相手に)そわそわした」セレッソ戦でも、危険なクロスを放ったり、急激なターンや重心の低いドリブルを見せたりした。

 これを書いている時点でアシスト、クロス、ドリブル、パスレシーブ、シュートの数でチームトップ(データスタジアムより)。数字に表れないところでは、マークされていても積極的にボールを受け、工夫のあるファーストタッチで相手と入れ替わって局面を打開したり、敵の最終ラインと駆け引きをして裏を狙ったりする。

「動き出しは不得意ではないし、出し手と(意思が)つながれば、一気にチャンスになるので常に狙っています。ボールキープにも自信はあるし、マークに来た相手を剥がす自信もある。マークされていても、(自分にボールを)預けてほしいと思っています」

じっくり考えて修正していこうと。

 シーズン中に最下位に落ちることも、試合中に相手の重圧に晒されるのも、困難な状況だ。でも鈴木なら、そんなシチュエーションさえ、自分の成長につながると考えているかもしれない。

 なにしろ彼はセレッソ大阪U-23に所属していた頃、17歳でJ3にデビューしながら、その後に「厳しい環境で鍛えてもらいたい」と望み、元国見高校の小嶺忠敏監督が率いる長崎総合科学大学附属高校サッカー部へ編入しているのだ。

 そこで見事に高校選手権へ出場し、卒業後に湘南へ入団。その理由も、当時の曹貴裁監督の「きついトレーニングを受けたかったから」と話していたことがある。

「(苦境は成長につながると思う?)そうかもしれませんね」と真顔を崩さずに鈴木は言う。「ただ苦しいからといって、とりあえずやってみるというのは、あんまり好きじゃなくて。うまくいかないときは、時間をかけてじっくり考えて、修正していくほうがいいと思います」

「もう少し全体が流動的になれば」

 記者席からニュートラルに観ていると、現チームの一番の問題は新たに目指すスタイルのメカニズムが、ほとんど何も確立されていないことにあると思える。そこには理想や目標があるけれど、方法論が伝わってこない。

 ひとつ例を挙げると、遅攻の際にボールホルダーの周囲で効果的に動きをつける選手がとても少ない。ポゼッションやパスワークというものは、技術や知性、自信はもとより、周囲の仲間との連動がないと実現できないものだ。

 それはこの競技の醍醐味のひとつとも言えるが、リスクを伴うものだから、弱点を晒すことにもなるし、結果が出るまでに時間もかかる。志を貫くにしても、有効なメソッドが欲しい。

「もう少し全体が流動的になれば、ボールに関わる人数も増えるし、相手も嫌だと思います」と鈴木も同意する。

「出して動いて、出して動いて、と。今はけっこう(選手が)固定されているシーンが多いので、もっと動きが必要だと思います。たとえば僕が中に入っていったら、後ろの選手が外を追い越していくとか。あと、(以前の)3-4-3のときは、クロスを上げる時になかを見ると、少なくとも2、3人はいたけど、今は正直、ちょっと少ないかなと思うことが多くて」

複数ポジションできるのは有利だと。

 鈴木自身は時折、左端から中央や右に動いて、ボール回しを円滑にしようと試みている。ポジションも今はウイングバックだが、もとはアタッカーで、プロになってからは逆サイドやセントラルMF、3バックの左も経験した。自身はどこに適性があると考えているのだろうか。

「特にここで勝負したいというのは、今のところなくて。どこで出てもしっかりできる選手になりたいです。今は監督が左で選んでくれているので、全力でやるだけです。ただ先を考えても、複数のポジションをできるほうが有利だと思います」

世界を見れば20歳でも主力は多い。

 20歳の鈴木のサッカー人生はまだまだ長い。けれど本人は、自分の年齢を「全然若くない」と言う。その理由は、彼が世界の舞台で文字通り対峙したライバルたちが、いまや世界のトップレベルで輝いているからだ。

 3年前に出場したU-17W杯では、決勝トーナメント1回戦で、のちに大会を制することになるイングランドと対戦。ゴールレスドローの後にPK戦で惜しくも敗れた試合で、鈴木はフィル・フォデン(マンチェスター・シティ)やカラム・ハドソン・オドイ(チェルシー)らと戦った。

 彼らは今、プレミアリーグやチャンピオンズリーグといった真のエリートレベルの舞台でプレーしている。

 また今季のブンデスリーガを沸かせたアーリング・ハーランド(ドルトムント)とアルフォンソ・デイビス(バイエルン)も、鈴木と同じミレニアム生まれ。レフトバックの後者とは、ポジションもほぼ同じだ。

「ヨーロッパのビッグクラブで主力として試合に出ている選手が多いですよね」と鈴木は言う。

「自分は湘南でJ1の試合に出られているので、それ自体は嬉しいですけど、僕の目指しているところはもっともっと上です。(ポジションも近いデイビスのような存在は)刺激になるし、自分もそんな風に見られるようになりたいですね」

 苦境を乗り越えて成長を遂げてきた彼なら、今の厳しさを克服して、望む場所へ近づいていくのではないか。今はもう、上を向くしかない状況だ。ここからいかに這い上がっていくのか、その足跡は興味深い。

文=井川洋一

photograph by J.LEAGUE