6月から始まったペナントレースもまもなく折り返し点だ。各球団の試合数は55試合前後。勢力図が固まりつつあるが、セ・リーグとパ・リーグで投手起用の方針がくっきりと違うことが見え始めてきた。

<両リーグの先発、救援別の投手成績 ※記録はいずれも8月23日時点>

〇セ・リーグ
・先発
116勝116敗17完投6完封
平均5.56回 92.4球
・救援
36勝36敗63セーブ224ホールド
平均3.25回 56.3球
〇パ・リーグ
・先発
102勝112敗5完投3完封
平均5.43回 92.5球
・救援
57勝47敗78セーブ268ホールド
平均3.36回 58.6球

セの方が明らかに完投数が多い。

 ざっくり言うと、セ・リーグのほうが先発で勝敗が決まることが多い。そして完投数はセの17に対してパが5とはっきりした違いがある。

 パ・リーグは救援投手が登板して以降に勝敗が決まることがセよりも多い。当然だがセーブ数、ホールド数も多い。

 しかしながら先発、救援の平均投球回数、投球数にはそれほど差はないのだ。

 ここから何がわかるか?

 セ・リーグの先発投手は、同点でマウンドを降りることがパ・リーグよりも少ない。そしてセ・リーグは、特定の投手=エースには、最後まで投げさせることが多いということだ。

両リーグの完投数を見てみると。

<セ・パ両リーグの完投数ランキング。()は完封>

〇セ・リーグ
1大野雄大(中)4(1)
2菅野智之(巨)3(3)
3大瀬良大地(広)2
4井納翔一(De)1
4森下暢仁(広)1(1)
4西勇輝 (神)1
4小川泰弘(ヤ)1(1)
4青柳晃洋(神)1
4梅津晃大(中)1
4遠藤淳志(広)1
4秋山拓巳(神)1

〇パ・リーグ
1石川柊太(ソ)1(1)
1涌井秀章(楽)1(1)
1山本由伸(オ)1
1種市篤暉(ロ)1(1)
1有原航平(日)1

 セ・リーグの完投のうち、中日の梅津は10回を投げている。また中日の大野、巨人の菅野、広島の大瀬良と各チームのエース級が複数回完投を記録している。

 これに対し、パ・リーグは合わせて5回だけ。パの場合、投手に余力があると指揮官が判断した場合に限り最後まで投げさせている印象だ。

「エースは完投」という価値観。

 これまでも言われてきたことだが、セ・リーグは「エースは9回完投するもの」という価値観が現在も幅を利かせているように思える。

 一方でエース以外の先発投手には、そこまでの期待はかけない。QS(6回投げて自責点3、投手の最低限の責任)でもいい。それだけエースは特別だ、ということなのだろう。

 しかし、エースといえども人間だ。投球数が嵩めば肩、ひじへの負担は高まる。

 以前このコラムでも紹介したが、PAP(Pitcher Abuse Point=投手酷使指数)という指標がある。PAPとは1試合で投げた球数から100を引いてそれを3乗した数値である。

 これを毎試合加算していき、合計数値がシーズン通算で10万を超えれば故障の可能性が増し、20万を超えればいつ故障してもおかしくないとされる。なお100球以下の試合はカウントされない、という条件もある。

セのエース格の今季「PAP」は?

 このPAPでセ・パ両リーグの規定投球回数以上の投手をみてみると、以下のようになる(投球数順)。セは規定投球回数以下の広島・大瀬良と中日・梅津も加えた。

〇セ・リーグ

大野雄大(中)1117球
PAP 55466
西勇輝(神)1091球
PAP 47489
菅野智之(巨)1029球
PAP 83141
小川泰弘(ヤ)1027球
PAP 43626
平良拳太郎(De)920球
PAP 3888
大瀬良大地(広)892球
PAP 50241
梅津晃大(ヤ)738球
PAP 27182

 前述したようにペナントレースは半分弱を消化している。この段階で菅野のPAPは8万超え。このペースでいけば、シーズン通算だと20万を超えうる懸念がある。4試合連続完投勝利の中日の大野、阪神の西、ヤクルトの小川も同じく10万台になる可能性がある。

 なお広島の大瀬良はシーズン開幕から2試合連続完投という出足だったが、7月25日に登録を抹消され、8月8日に復活している。8月2日に10回完投を記録した中日の梅津はこの登板を最後に二軍落ちしている。

 菅野は2018年、圧倒的な成績で2年連続の沢村賞を獲得しているが、この年レギュラーシーズンだけで3129球を投げ、PAPは「241781」となった。そして翌2019年は成績が降下した。技量抜群のエースと言えどもシーズン通しての投球過多は、翌年に影響を与えたことになる。

パは山本由伸のようなケースも。

〇パ・リーグ

有原航平(日)1074球
PAP 55035
則本昂大(楽)1066球
PAP 29387
石川歩(ロ)1023球
PAP 18080
涌井秀章(楽)1018球
PAP 79240
ニール(西)945球
PAP 243
山本由伸(オ)935球
PAP 8714
田嶋大樹(オ)921球
PAP 21651

 パでも楽天の涌井が、このままいけばシーズン通算でPAPは20万近くになりそうだ。

 完投数こそ1と少ないが、涌井の場合は1試合当たりの投球数が多い。ただし、涌井は8月19日の日本ハム戦では8回で降板している。その時点で12−1と大きく点差が開いていたから完投も可能だっただろうが、三木肇監督が配慮し、110球で降板させたと思われる。

 日本ハムの有原もこのままいけばPAPは10万を超えそうだが、パでは彼ら以外の投手は危険水域まで達することはなさそうだ。

 オリックスの山本は18日の西武戦で7回まで先発全員となる12奪三振の快投を見せた。その時点で1−1の同点だったが、チームはこの回限り、球数は103球で降板させた。

 救援投手が打たれて負けたこともあり、批判の声も上がったが、チームが「投球過多」にならないように配慮していたのだろう。22歳になったばかりの山本の将来を考えれば評価できる。

 なお、外国人投手のPAPは両リーグともに極めて少ない。契約時に「1試合当たりの球数は100球を大きく超えない」など、球数に関する契約をしているのではないか。

好調ダルのPAPはどれくらい?

 MLBでは23日にダルビッシュ有がナ・リーグハーラートップタイの5勝目を挙げたが、5試合での投球数は557球。PAPはわずか91だ。

 日本とアメリカで今季の日程が大きく違うため、球数の単純比較はできない面もある。とはいえダルビッシュは涌井と同学年でベテランの域に入ったこともあり、チームは投球過多に配慮して使っているのだろう。

 NPBとMLBの先発投手起用の違いをあらためて記すと、

 NPB=登板間隔は長いが、1試合当たりの投球数は100球を普通に超える
 MLB=登板間隔は短いが、100球前後で降板させる

 という傾向だ。つまりMLBはPAPの数字がかさむことを意識しているのだ。

 その結果としてNPBだとエース級は、シーズンに3000球前後を投げてPAPが15万以上になるが、MLBでは3500球以上投げてもPAPが5万を超す投手はほぼいない。100球前後で降板させることが、先発投手を長持ちさせる秘訣だと考えられているからだ。

中5日は野球を面白くするだけに。

 菅野は8月18日の阪神戦で中5日で完封した際に「中5日くらいでヒーヒー言っていたら、先発ピッチャーは務まらないので大丈夫です」と報道陣に語っている。

 筆者も、今のNPBのローテーションは間隔が空きすぎだと思う。

 ほとんどの先発投手が中6日、週1回しか登板しないのは、変化に乏しくつまらない。その一方で、中5日で投げさせるのなら球数を100球前後にとどめるなど、リミッターをかけることも必要だろう。

 今季の日程は、6勤1休が延々と続く。オールスターブレークも交流戦前後の休みもない。各球団の投手は過酷なペナントレースを、つぶれることなく全うしてほしいと切に願う。

文=広尾晃

photograph by (L)Kiichi Matsumoto/(R)Getty Images