アタッキングフットボールを掲げる者同士の対戦は、期待に違わぬ内容になった。

 8月19日に行われたJ1・11節、清水エスパルスvs.横浜F・マリノス戦のことだ。

 今季から清水を率いるピーター・クラモフスキー監督は、昨季までアンジェ・ポステコグルー監督の右腕として横浜を支えた人物だ。師弟対決として注目を集めた一戦は2分、横浜の新助っ人、ジュニオール・サントスの目の覚めるような一撃で幕が上がった。

 その後、清水が西澤健太のコントロールショットですぐさま追いつくと、前田大然の技ありヘッドで横浜が勝ち越し。すると今度は、金子翔太の好クロスが横浜のオウンゴールを誘い、前半からシーソーゲームの様相を呈した。

 2−2で迎えたゲーム終盤にはジュニオール・サントス、渡辺皓太の連続ゴールで横浜が突き放したが、90分にコーナーキックの流れから金井貢史が頭で押し込み、清水が1点差に詰め寄る。

 なおも清水が猛攻撃を仕掛けたものの、3−4のままタイムアップ。軍配は兄貴分の横浜に上がったが、最後まで手に汗握る展開で、敗れた清水も歩んでいる道のりが正しいことを証明した。

クラモフスキー監督は胸を張った。

 開幕5連敗と出遅れた清水だったが、勝点1を獲得した6節のサガン鳥栖戦から5試合負けなしと、産みの苦しみの時期を脱したように見える。横浜戦で6試合ぶりの黒星を喫したが、「すべての選手が良いフットボールを見せて戦ってくれたことを誇りに思う」と、クラモフスキー監督は胸を張った。

 清水が今季、挑戦しているスタイルとは、金子の言葉を借りればこうなる。

 マリノスのようなサッカー――。

再現性のあるアタッキングサッカー。

 ポジショニングで優位性を作り出し、確固たる“ゲームモデル”と“プレー原則”がチーム内に存在する。つまり、選手たち全員が共通の“設計図”を持ち、再現性のあるアタッキングサッカーだ。

 ビルドアップにおいては、センターバックの立田悠悟とヴァウドがさっと開き、アンカーやGKも加わって数的優位を築くと、相手のプレスをいとも簡単にかわしてボールを動かす。

 このときにスペースがあれば、立田やヴァウドは迷わずドリブルを仕掛け、グイグイと進んでいく。相手MFがチェックに来たら、しめたもの。いわゆる“食いつかせた”状態から、すかさずフリーの選手にパスを通し、攻撃を加速させる。

 ミドルサードでは、選手たちが頻繁にポジションチェンジを行うが、それぞれがレーンを意識しているからポジションが被ることがない。近寄らないこと、バックステップを使って離れることもサポートのうちだと全員が理解しているから、選手間の距離と角度が的確で、ボールが淀みなく動くのだ。

マリノスが敷くハイライン攻略法とは。

 清水のサッカーを見ていると、パスの出しどころを迷ったり、意図のない無駄なパスを出したりすることがないから――これは、前年王者の横浜や今季首位を独走する川崎フロンターレにも言えることだが――ストレスを感じることがない。

 ……と、ここまでは、どんな相手に対しても共通する“ゲームモデル”と“プレー原則”の話。一方で、横浜戦における“ゲームプラン”として興味深かったのが、横浜のハイラインの攻略法だ。

 相手サイドバックとセンターバックの間をカルリーニョス・ジュニオが狙ったり、サイドバックとウイングがレーンを入れ替わったりしながら、あの手、この手で、横浜守備陣の裏を狙う。

 やみくもに裏へとボールを蹴っているわけでないのは、出し手のキックに対して受け手が必ず反応していることからも窺えた。

 その狙いが、結果に結びついたのが、前半終了間際の同点ゴールだった。

「エスパルスの色という部分を」

 右サイドバックの奥井諒が“ハーフスペース”に入って相手サイドバックをひきつけ、フリーになった右ウイングの金子がアーリークロスを流し込む。これが、相手のオウンゴールに繋がったのだ。

 金子が狙いを明かす。

「相手がハイラインなのでアーリークロスは狙っていこうと思っていた。今日は外側のレーンでなかなか前向きでボールを受けられなかったので、思い切って早いタイミングで上げてみたら、オウンゴールという形になった。相手が触らなくても、カルリーニョスのところに行ったと思うので、その形は今後も増やしていきたい」

 とはいえ、同じスタイルだからこそ、彼我の差を突きつけられることにもなった。

「率直にいうと、マリノスのほうが僕たちよりも走っていたし、試合のテンポやパススピードを肌で感じて、さすが昨年のチャンピオンだなと。今までにないくらい呼吸が乱れたし、今までにないくらい高強度のゲームになったので、学ぶことのほうが多かったです」

 そう認めた金子は、しかし、きっぱりと言った。

「マリノスのスタイルを目指していますが、それプラスαでエスパルスの色という部分を今後作っていって、試合を重ねるごとに成長していきたいと思います」

「僕たちが楽しくなってきている」

 エスパルスの色とは何か――。

 例えば、こんなことが言えるかもしれない。

 横浜の前線には仲川輝人と前田というリーグ屈指のスピードスターのふたりや、ジュニオール・サントス、エジガル・ジュニオ、エリキと、強烈な個性を放つアタッカーが揃い、多少強引にでも相手の守備組織を破壊する一面がある。

 それに対して清水は、強烈な個性という点で劣るぶん、コンビネーションをさらに磨き、より緻密でテクニカルなアタックを見せれば、オリジナリティが際立つに違いない。まさにこの日に見せたバリエーション豊かな「裏狙い」のように――。

 8月1日の浦和レッズ戦、内容で上回りながら1−1のドローに終わった試合後の、キャプテンの竹内涼の言葉が強く耳に残っている。

「立ち位置を意識したり、みんなでボールを繋いだり、保持したりして、相手のゴールに迫る、
相手のゴールを奪う、というサッカーをしている中で、互いの息も合ってきた。もっと良くなる部分はたくさんあるけれど、それでも繋がっている感じがするし、やっている僕たちが楽しくなってきている。精度や質をもっともっと上げて行ければ、もっと得点が取れると思います」

思い出すのはイビチャ・オシム。

 竹内の言う「繋がっている」とは、「積み上がっている」「作り上げている」と言い換えることができるだろう。

 そこで思い出すのは、ジェフ千葉を率いていた頃の、イビチャ・オシム監督の言葉である。

「守るのは簡単ですよ。要は、作り上げることより崩すことは簡単なんです。家を建てるのは難しいが、崩すのは一瞬。サッカーもそうでしょう。攻撃的ないいサッカーをしようとする。それはいい家を建てようとするのと同じ意味。作り上げる、つまり攻めることは難しい。でもね、作り上げることのほうがいい人生でしょう。そう思いませんか?」

 まさに今、清水は明確な“設計図”を手に“家”を作り上げている最中だろう。着々と積み上がっていく様子が見て取れるから、ファン・サポーターも夢を抱けるというものだ。果たして、どんな家が建つのだろうか、と――。

 試合後、ピッチサイドでポステコグルー監督とクラモフスキー監督が久しぶりの再会を喜び、しばらく談笑していた。ボスはかつての参謀に「ピーター、いいチームを作っているじゃないか」とでも声を掛けたのだろうか。

 彼らのような、欧州のスタンダードを持ち込む志の高い指導者がJリーグで指揮を執ってくれる縁に、感謝するばかりだ。

文=飯尾篤史

photograph by J.LEAGUE