8月21日、ケルンで行われたヨーロッパリーグ決勝。インテルはセビージャに敗れ、2009-10シーズンのチャンピオンズリーグ以来のタイトル獲得はならなかった。

 2−3。惜敗である。

 ロメル・ルカクのPKで先制した後に一度逆転されたが、前半のうちに追いついてみせた。後半は攻めあぐねた挙句に相手のセットプレーで沈み、優勝は逃すことになる。しかしELファイナルで見せた戦いぶりは説得力のあるものだった。

 シャフタールとの準決勝では組織的な堅守で相手の攻撃を無力化し、ルカクとラウタロ・マルティネスの2トップを軸とした攻撃力で5ゴールを奪ってみせたりもした。長年国際舞台では振るわなかったインテルにとって、準優勝はポジティブな評価を下すことができる結果だ。

 アントニオ・コンテ監督就任1年目。リーグ戦は2位でフィニッシュ。ヨーロッパでも久々に存在感を発揮した。これを礎とした成長を来シーズンに望むことも可能だろう。

会長の好意的な総括の裏側で。

「今シーズンはポジティブなものだった。優勝は逃したが、ELの決勝に進出するなんて1年前には考えられなかった」

 スティーブン・チャン会長は地元メディアに語っている。

 だが、チャン会長がシーズンを好意的に総括した裏で、試合後の記者会見では来季への楽観ムードを打ち消すような発言が飛び出した。他ならぬコンテ監督が、退団の可能性もチラつかせながら、経営陣にむけて厳しいコメントを浴びせたのだ。

「どう解釈されても構わないが、すべてに渡って限界があることは話さなければならない。今後どうなろうが、インテルで監督をやるという機会を与えてくれた人物には感謝したい。だが、私はあとに引いたりはしない。私がどうしたいのかは、みなさんご存知でしょう。ミラノに戻って2、3日休暇を取り、その後で1年の分析をして、我々は将来どうすべきか検討することになるだろう。将来、私がいるか、いないかだ」

 フロント、それも強化部門に対して何らかのメッセージを放っていたことは、こうした言葉からも窺い知れる。就任1年目、成功に見えたシーズンの裏で、コンテはたびたびクラブの限界と解決すべき問題の存在を訴えていた。

「この夏、我々は重大なミスを犯した」

 序盤は好調だった。

 新監督の下、3バックをベースにしたプレスとワイドなサッカーが機能した。ルカクは期待通りの活躍でゴールを保証し、前線のターゲットとしても機能した。戦術の要となるDFラインからの組み立てでは、ステファン・デフライが力を発揮。中盤ではイタリア代表の新鋭ニコロ・バレッラが絶対的な存在となり、小兵テクニシャンであるステーファノ・センシも精力的な運動量と華麗な技でチームに彩りを加えた。

 チームはリーグ戦でも順位を上げ、CLでも上々のパフォーマンスを展開。ところが昨年11月、CLグループリーグ第4節のボルシア・ドルトムント戦で2-3の逆転負けを喰らう。コンテ監督がクラブの問題をストレートに訴えたのは、その試合後だった。

「この夏、我々は重大なミスを犯した。コンペティティブなチームにしようと思うのなら、やっぱり戦力を整える必要がある。計画の立案にはクラブの幹部とともに私も参加した。このような状態で大丈夫と私も信用することにしたが、それが間違っていたかもしれない。戦力には限界がある。選手には何も言えない」

 コンテの言葉通り、インテルは戦力が乏しいままで、リーグ戦とCLの両立を図る厳しい日程へと挑んでいたのだ。

両サイド、中盤が明らかに薄かった。

 11人の主力が固まり、上質なサッカーを見せるようになったが、層が薄い。FWのバックアップとして獲得されたアレクシス・サンチェスのコンディションは上がらず、戦術の要となるはずの両サイドが薄い。

 そして、何よりも中盤だ。センシのように2列目から飛び出して、ドリブルやパスなど多彩な個人技でアクセントをつける選手が他にいなかった。センシが怪我で戦列を離れるとチームは大きく調子を落とし、最終的にCLグループリーグ敗退となった。

 不本意な前半戦を受け、指揮官から補強を要求されたら、クラブは可能な範囲で希望に応えなければならない。インテルの強化部門はその通り動き、監督のリクエストに沿って選手補強を進めた。

 要求されたのは両アウトサイド、FWの控え、そして中盤だ。しかし、それでもうまくいかなかった。

論議を呼んだエリクセン獲得。

 まず、チェルシーから獲得を狙っていたマルコス・アロンソの獲得には失敗。チームは早期に獲得目標をアシュリー・ヤングに切り替えた。ヤングは後半戦で左ウイングバックのファーストチョイスとなる活躍を見せたが、右サイドの当てが外れた。

 チェルシーからレンタルされたビクター・モーゼスは、トルコのフェネルバフチェでも出場機会を得られていなかったことが示すように、精彩を欠いた。さらに、FWの獲得にも失敗した。

 実は、コンテが水面下でオリビエ・ジルーと接触し、移籍の希望を取り付けてもいた。だが、その後動きなし。後にジルーは「コンテ監督にはOKを出したがその後(クラブには)移籍の打診が来なかった」とメディアに語っている。

 そして、最大の論議を呼んだのが、クリスティアン・エリクセンの獲得だった。

 能力や実績に関しては、誰も疑いを持っていなかった。だが地元メディアや識者からは、「トップ下を本来の位置とする攻撃的MFが、コンテ監督の戦術のなかで順応できる余地はあるのか」と当初から不安の目で見られていた。果たして、懸念は的中する。エリクセンは順応に手こずり、スタメン定着どころか先発でも使いづらい状態となってしまった。

責められるべきは監督かフロントか。

 インテルの3-5-2の中盤には、アンカーとして組み立てに関わる役割と、インサイドMFとして守備時に戻り、攻撃時には積極果敢に前へ飛び出す役割が課せられている。問題は、エリクセンのプレースタイルはそのどちらにもハマらなかったということだ。

 コンテ監督は彼を活かすためにトップ下を用いた3-4-1-2にシステムを変えてもみたが、そうなると守備のバランスが取れない。結局エリクセンはシーズン終盤ベンチスタートが定位置となってしまった。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙は「選手の特性を考えずにエリクセンを獲得してきたクラブへの抵抗」と報じていた。

 接戦に持ち込んだEL決勝セビージャ戦も、後半には相手の守備を切り崩せない攻撃陣のアイディア不足が顕著だった。エリクセンを吸収できなかったのが悔やまれる格好だが、責められるべきはフィットに失敗した監督か、合わない選手を連れてきたフロントか。

 いずれにせよ、双方が噛み合っていなかった。

内紛によって話題になるインテル。

 今後、コンテを慰留する場合でも、経営を統括してコンテを連れてきた張本人でもあるジュゼッペ・マロッタCEOか、強化の陣頭指揮を取ってきたピエロ・アウジリオSD、そのどちらか一方は切られることになるのではないか――そう報じた地元紙もある。

 インテルは、内紛がメディアによって話題になるクラブである。

 かつての主将マウロ・イカルディと代理人を務める妻ワンダ・ナラの言動が、選手間の亀裂まで呼んでいた件は有名な話だが、そちらを片付けたら今度はフロントの問題。「すべてにわたる限界」とは、戦力のみならずそれを査定し運営するクラブのあり方にも及んだ批判だったのだ。

コンテに対して“ザックのお小言”。

 チーム力は確実にアップした。「コンテを続投させればスクデットも狙えるはずだ」と評価も上がっている。元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニ氏も「監督更迭は再びゼロからの出発を意味する」と地元ラジオのインタビューで発言していた。

 ただ、その一方でコンテ監督に対しても批判はある。ザッケローニ氏もコンテに自制を求めていた。

「他クラブの監督の席が埋まっている状況で、他に職場を得ようとするのは得策ではないと思う。それに、監督は他の役職を務める人間を尊重すべきだと私は考えている。自分が監督をしていたときは誰も選手を連れてこなかった。その一方でコンテはルカクを呼んでもらえただろう」

 さらには「コンテ監督と決裂する場合、インテルはマッシミリアーノ・アッレグリ氏に打診するのではないか」という報道もある。だが、いずれにせよ肝心なのは彼らが本当に一枚岩となって、来シーズンを迎えることではないだろうか。

文=神尾光臣

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