昨年11月の13節以降、つまり昨季の残り3分の2で奪った勝ち星の数はリバプール、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッドに次ぐプレミアリーグ4番手。と言っても、これは実際に4位だったチェルシーの話ではなく、得失点差で6位となったトッテナムのことだ。

 マウリシオ・ポチェッティーノ監督の解任を受け、トッテナムはリーグ13試合目からジョゼ・モウリーニョ体制が始まった。その指揮官曰く「トップ4」のパフォーマンスで監督交代時の14位から6位まで浮上してシーズンを終えた。

 一昨季はリーグ4位でCLファイナリストだったチームが無冠の6位に終わっても、モウリーニョは評価に値する仕事をしたと言ってよい。

ケインとソン・フンミンが戦線離脱も。

 自身の監督キャリアで初となる途中登板で率いたチームは、CL決勝の敗戦による虚脱感が尾を引くなか、まさかの低迷とポチェッティーノ解任によるショックに揺れ、歯車が噛み合わない状態だった。

 日程の過密化が始まるタイミングでの就任では、打ちひしがれた選手たちのメンタルのリカバリーに割ける時間は限られる。当然、ハイラインで果敢に攻める前任者のスタイルとは一線を画す、堅守速攻を基本とする自身のスタイルを浸透させる時間としては十分ではない。加えて後半戦は、ハリー・ケインとソン・フンミンという前線の柱が怪我で戦列を離れる不運にも見舞われた。

 それでもモウリーニョは、12試合でわずか3勝にとどまり、14ポイントしか獲得できていなかったチームの「結果」を大幅に改善した。

 だからこそファンは、モウリーニョ体制で迎える初のフルシーズンに前向きなのだろう。

 少なくとも、筆者と同じ西ロンドンに住みながら心は常に北ロンドンという近所のトッテナム・サポーター数名を見る限り、宿敵アーセナルがFAカップで優勝しても、ライバルのチェルシーが積極補強の夏を過ごしても、ムードは明るい。

 シーズンチケットを持つ1人は「当分無観客だろうから、スタンドで『守ってばっかり』とか『つまらない』とかボヤく必要もないし(苦笑)、終わってみれば、久しぶりに優勝トロフィーを拝めるシーズンになるような気がするよ」と、なんとも英国人らしい皮肉をまじえながら期待感を述べていた。

守備重視は何かと否定されがちだが。

 メディアでは友人が自虐的ジョークで処理した部分、つまりモウリーニョの守備重視が否定的に強調される傾向がある。

 昨季の上位4チームがユルゲン・クロップ、ペップ・グアルディオラ、オレ・グンナー・スールシャール、フランク・ランパードといった攻撃志向の強い監督であるように、ボールを支配して主導権を握り続けるスタイルが主流となりつつある。その状況下で、ポゼッションにこだわらず受け身になるモウリーニョの戦い方は「過去のもの」とみなされているように思える。

 互いに攻め合って点を取り合うような、単純に観て楽しめる試合が増えるのは結構である。だが、そうしたチームとの対戦で「肉を切らせて骨を断つ」を見事に地で行くカウンター巧者も存在してもらいたい。

 クラブが前体制とは異なるスタイルを承知で3年半契約を結んだ、モウリーニョのトッテナムは、それが可能なチームだ。

最終盤でのモウリーニョ流の極意。

 2019-20シーズン大詰めの34節ボーンマス戦(0−0)では、降格する運命にあった格下相手に枠内シュートを1本も打てなかった。この引き分けは、モウリーニョが「終わっている」証拠であるかのように報じられた。

 しかし翌節の北ロンドンダービーでは、内容で上回ったアーセナルからしぶとく逆転勝利を奪い、地元ライバルをトップ6争いから脱落させた90分間が、名将が披露した「お手本」と讃えられた。

 また37節レスター戦(3−0)の勝ちっぷりは、モウリーニョ流の極意だった。ボール支配率はアーセナル戦の37%をさらに下回る29%にとどまっても、まるで優勢を続けたかのような最終スコアでレスターのトップ4フィニッシュにダメージを与え、自軍の6位浮上に望みをつないでみせた。

 モウリーニョが身上とするスタイルは、確かにサッカー界の時流に逆らってはいても、使い物にならない「時代遅れ」の代物などではない。

ポチェッティーノ流の攻撃路線に終止符が打たれた事実は残念だが、モウリーニョ流が本格的に始まる新シーズン、トッテナムが2008年のリーグカップ優勝以来となるタイトル獲得に、どこまで迫れるかが楽しみだ。

「喜んでもらえるシーズンに」

 先日、ロンドン北部ではなく西部の街中にも、トッテナムの昨季の戦いぶりを追ったアマゾン社のドキュメンタリー番組『オール・オア・ナッシング』の看板広告が出現した。巨大なモウリーニョの横には「元監督の今が気になったりはしませんか?」の文字。だが、軽くいじられたチェルシーファンならずとも、9月12日にエバートンとのホームゲームで始まる現モウリーニョ軍、初のフルシーズンは気になるはずだ。

 当のモウリーニョは、昨季終了後ファンに対して「喜んでもらえるシーズンにしたい」と告げた戦いに備え、トップ4争い復帰とタイトル獲得を狙うためのチーム作りを着々と進めているように見える。

 さすがにポルト、チェルシー、インテルで実現した、監督として初めて開幕を迎えたシーズンにリーグ優勝を果たす再現は難しいかもしれない。とはいえ、レアル・マドリーとマンUでの就任1年目に続くカップ選手権での戴冠ならば、総工費10億ポンド(約1400億円)の新スタジアムを満員にすることが許されない状況、そして補強予算が限られていても、十分に可能性がある。

ポルト、マンUに続くEL制覇もある?

 それは、優勝すればUEFAカップ王者となった1984年以来の欧州タイトル獲得となる、ヨーロッパリーグ(EL)にも当てはまる。

 モウリーニョにとっては「CLに出られない場合に出る大会」にすぎず、チェルシーでの2度目の就任に際しては前シーズンのEL優勝を「シーズン失敗の証拠」とまで言ったが、過去にはポルト(UEFAカップ時代)でもマンUでも優勝している。CL出場権という“副賞”が付くことからも、今回は「出場3回で3度の優勝も悪くはない」という、実にモウリーニョらしい言い方で意欲と自信をほのめかしてもいる。

 ELは決勝トーナメント1回戦に32チームが残ることから、「二足の草鞋」を履く体力を必要とする大会でもある。しかもトッテナムは、マンCが昨季2位となってCL出場権を得たことで、EL出場権が“おこぼれ”として回ってきた立場。予選2回戦からのスタートとなる。

 そう考えれば、巷ではアメリカ行きも噂されたジョー・ハートをGK陣に加えた補強にも頷ける。

ハート、ホイビェルグの的確補強。

 8月18日にフリーで獲得された33歳は、グアルディオラ体制に変わったマンCで足元が心許ないとして不要扱いを受け、そこから急勾配の下降線を辿った。しかしながら、GKにビルドアップの起点としての働きを求めないモウリーニョの下なら、再び出番と自信を手にできるかもしれない。

 グアルディオラ就任以前のマンC時代、ハートはプレミア優勝とCLベスト4の経験もある。少なくとも昨季GKの2番手だったパウロ・ガッサニーガは遠く及ばないキャリアだろう。並行するリーグ戦とカップ戦において、正GKウーゴ・ロリスと使い分ける場合の安心感も増すに違いない。

 ハート加入の1週間前に、サウサンプトンから1500万ポンド(約21億円)で移籍したピエール・ホイビュルグは、正ボランチ候補と言える。ボール奪取に見られる執念と技術は、既存のハリー・ウィンクス、ムサ・シッソコを上回る。

 またカウンターの起点としても、CBが適所と思えるエリック・ダイアーより効果的だろう。ジョバニ・ロチェルソやタンギ・エンドンベレといった中盤の同僚を前線へと突き動かし、攻撃的な特長を発揮させやすい中盤中央の1枚として、モウリーニョに重宝される様子は想像に難くない。ハートとホイビュルグは強烈なリーダーシップもあり、頼もしい新オプションと言える。

右サイドバックでおススメは……。

 守備力の補強では、昨夏に去ったキーラン・トリッピアー(現A・マドリー)の後釜を獲らなかった右SBが火急の課題で、クラブも動いている。

 モウリーニョは攻撃的で気迫を前面に押し出すタイプのセルジュ・オーリエを多用することになったが、守備面では冷静さを欠いて痛恨のミスを犯すシーンも多かった。今夏の獲得候補としては、SBとしてはモウリーニョ好みの長身で、攻守も左右両用のベルギー代表ティモシー・カスターニュ(アタランタ)、そのアイルランド人版と言えるマット・ドハティー(ウォルバーハンプトン)らの名前が挙がっている。

 個人的には国産の20歳、親戚関係にある隣人からトッテナムの接触を聞き及んでいたマックス・アーロンズ(ノリッジ)なども、2部に落ちた所属先の財務事情につけ込んで移籍金を抑えられれば、賢い補強の範疇だと思える。

デル・アリの蘇生こそ最優先。

 とはいえモウリーニョが最も力を入れるべきは、就任当初にも指摘されたデル・アリの蘇生だ。

 主砲のケインと最も息の合うチャンス供給源にして、創造力の源でもある24歳は、監督交代直後の3試合連続ゴールで本領発揮の兆しを見せた。だが結局は怪我もあり、昨季もまた尻つぼみ……。今年1月にPSVから加入したスティーブン・ベルフワインが尻上がりに存在感を強めたこともあり、今夏には高額売却で補強予算に変えるべきとの声も聞かれた。

 だが指揮官は、強さと巧さ、そして激しさを兼備するアタッカー兼ファイターを、最適と判断している「ナンバー10」役の第1候補として見捨ててはいない。

 プレシーズンの親善試合初戦となった8月22日のイプスウィッチ戦(3−0)でも、国内3部勢が相手とはいえ、アリはソン・フンミンの背後で先発して2点をお膳立てしている。

 ポチェッティーノ下での5年間でも叶わなかった、アリの定位置決定とコンスタントな実力発揮が実現されれば、それだけでも新シーズンにおける大きな成果ということになる。もちろん、守備の安定性が増すはずの中で攻撃のキーマンが活躍すれば、チームとしての成果も自ずとついてくる。

 以前とは違い、プレミアで指揮を執るモウリーニョが盛大なファンファーレなしで迎える初のフルシーズン。だが、閉幕時にはこれまでと同じように、タイトルを手にしているモウリーニョ軍の姿があるのではないだろうか?

文=山中忍

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