球界初の試みは実りあるものとなった。

 8月29、30日、甲子園球場で「プロ志望高校生合同練習会」が開催され、西日本地区から参加した77名の球児が躍動した。

 今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、春の選抜や各都道府県の春季大会、夏の選手権大会と地方大会が中止となった。そこで、プロへのアピールの場が大幅に減ってしまった高校3年生のために、日本高等学校野球連盟とNPB(日本野球機構)がタッグを組み、今回の合同練習会が実現した。

 日本高野連の小倉好正事務局長は、改めて経緯をこう振り返った。

「今年は生徒たちが自分の実力を見てもらう機会が非常に少なかったため、生徒の進路保証につながる取り組みができないものか、ということが話題にあがり、NPBとのご相談の中で今日の日を迎えることになりました」

 練習会は甲子園(西日本)と東京ドーム(東日本)の2カ所に分けて行い、東日本地区は9月5、6日に開催される。西日本の参加者が77人、東日本が41人と、西日本が圧倒的に多かったのは、甲子園が会場となっていたことも影響したと思われる。

 ほとんどの参加者にとって初めての甲子園。光泉カトリックの投手・森本修都が、「初めて甲子園のグラウンドに足を踏み入れたので、気持ちがたかぶりました」と話したように、憧れの地でアピールできることに、球児たちは喜びを噛みしめた。

スカウトたちが見るのは「姿勢」。

 初日はフリー打撃とシートノック、2日目は実戦形式のシート打撃が行われ、初日はNPB12球団から83人、2日目は96人のスカウトが視察に訪れた。また、スカウト活動の公平性を保つため、大学や社会人、独立リーグのスカウトも入場が許可された。

 シート打撃はカウント1−1から、投手は打者5人、打者は投手3人と対戦。ドラフト上位候補と前評判が高く、今回の練習会でただ1人150キロを記録した山下舜平大(福岡大大濠)や、加藤翼(帝京大可児)、内星龍(履正社)といった投手がインパクトを残した。

 一方で打者は苦戦する選手が多かったが、広島の鞘師智也スカウトは、「今回のシート打撃でバッターが打つのは非常に難しいと思う。1−1のカウントから、何も情報のないピッチャーを相手にいきなり結果を出すのは厳しい。ただ、そこに対してのアプローチといったところをみんな見ていたと思う」と語った。

 ソフトバンクの城島健司球団会長付特別アドバイザーも初日に、「ホームランを何本打ったとか、ヒット性の当たりを何本打ったというのを見ているわけじゃない。立ち振る舞いや走っている姿、ティーをしている姿というものを見ている」と話していた。

 そうした意味では、シート打撃で守備についた際、奥村真大(龍谷大平安)がサードの守備位置から、絶えず投手を盛り立てる声を出し続けていた姿が印象的だった。

合同練習会でリストに加わる選手も。

 今年は高校の活動期間が限られ、夏に各都道府県の代替大会は行われたものの、スカウトの入場が制限される地域もあった。それだけに今回の合同練習会の意味は大きいと、各球団のスカウトは口を揃える。

 楽天の後関昌彦スカウト部長は、「今年に関しては(選手を)見きれない部分もあった。本来であれば出向いて行くところ、今回は来ていただいてパフォーマンスを見せてもらえたことは助かった」と言う。日本ハムの大渕隆スカウト部長も、「今回、球団の複数の人間で見られたことが大きい」と話した。

 注目されていなかった選手が、合同練習会を機にリストアップされることもありそうだ。日本ハムは、今回参加した77人のうち、もともとリストに入っていたのは15、6人ほどだったが、練習会で新たに2、3人、リストに加わりそうな選手がいたという。

「恵まれていたと最後は感じました」

 何より、選手にとってこの練習会は大きな支えとなったようだ。新型コロナウイルスの影響で大会がなくなり落ち込んだが、合同練習会に参加することがモチベーションになったとコメントする選手は多かった。中でも、東播磨の中堅手・宮本一輝の言葉が胸に響く。

「夏の大会がなくなったときは、大きな喪失感がありましたが、代替大会や合同練習会などのチャンスをいただけた僕らの学年は、周囲の人に助けてもらい、恵まれていたと最後は感じました。その意味でも、軽率なプレーはできないと思い、今日は一生懸命プレーしました」

 ソフトバンクの城島球団会長付特別アドバイザーは、「自分のプレーをお披露目する場所ができたことは選手たちにとってすごくいいこと。今回プロに行かなかったとしても、(この場で目にとまり)社会人に入ったり、大学に行くことで野球を続けていける。こういう取り組みがなければ、次のステップに進めない子が出てくる。そうなるとその子の野球人生が断たれてしまうというのが一番悲しいこと」と語った。

来年以降も「あるべきだと思います」。

 今年は特例として合同練習会が行われたが、来年以降、公式戦が通常通り行われるようになったとしても、こうした取り組みは続けるべきではないだろうか。

「あるべきだと思います」と、日本ハムの大渕スカウト部長は強い口調で言う。

「それは我々のためというよりも、高校3年生の、野球界の財産を失わないために。社会人、大学、プロと、適材適所に継続していくための機会はあるべきだと思います。プロとアマがこうやってイベントを1つやるということ自体もすごく価値がある。そのために12球団も連携をとって1つのまとまりになりますし、いろんな意味で付加価値があると思います」

 スカウト会の会長を務める楽天の後関スカウト部長も、「我々もすべてを見られるわけではないので、埋もれている選手、いろいろな選手にチャンスが出てくるでしょうから、来年もこういうかたちを継続できるように、我々も協力したいし、なんとかしたい」と話した。

プロとアマチュアの間を隔ててきた壁。

 日本高野連の小倉事務局長は、「来年以降は感染状況も見ながら、関係者と、どういう方法が一番いいのかを協議していきたい」と言うにとどめたが、NPBとのタッグについては前向きだ。

「我々の手の届かない分野においても手助けをいただいて、野球界という1つの組織の中でこういうかたちで関わらせていただけたのは良い経験になりました。野球界全体で取り組む大切さを勉強させていただいた。今後もいろいろなかたちでお願いにいくことが出てくるかもしれません」

 今年はコロナ禍の中、NPBとJリーグが設立した「新型コロナウイルス対策連絡会議」に小倉事務局長が同席し、感染対策などに役立てた。また、NPBの現役選手が高校球児にメッセージを送ったり、選手会が夏の代替大会開催のため日本高野連に1億円を支援するなど、プロとアマチュアの交流が行われた。そして今回、NPBと日本高野連の両者が主催するかたちで合同練習会が実現した。

 難局を乗り越えるための流れに乗って、長年プロとアマチュアの間を隔ててきた壁に、この機に風穴が開くことを期待したい。

文=米虫紀子

photograph by Kyodo News