収まりそうで収まらない。収束という2文字はふわふわと漂うばかりで、地面には新たな見えないウイルスが舞い降り続ける。

 いまだ収束の見えない新型コロナウイルスの感染拡大。あらゆるスポーツがその対策あるいは共存の方法を模索している。それはラグビーも同じだ。

 世界に先駆けて封じ込めに成功し、ラグビーも再開したのがニュージーランドだ。6月から国内限定リーグ「スーパーラグビー・アオテアロア」で世界にラグビー再開を発信。第1週にオークランドのイーデンパーク(1987年と2011年のW杯で開幕戦と決勝が行われたスタジアムだ!)には4万人超の観衆が、マスクもせずに集まり密になって声援を送った。

NZでさえも、再拡大は避けられない。

 そこにはコロナ制圧後の未来の希望が垣間見えたが……南半球の真冬に当たる8月に入って感染が再拡大。最終節に、やはりイーデンパークで行われるはずだったブルーズvs.クルセイダーズが中止となり、8月29日にこれもイーデンパークに4万人超の観客を集めて行われるはずだった「北島vs.南島」による(実質的な)オールブラックス・トライアルマッチも、再拡大の震源地となったオークランドを避け、9月5日のウエリントンに日時を移した上に無観客で行われることになった。

 国をあげて“NOコロナ”を目指したニュージーランドの施策は世界から高い評価を受け、また国民の支持も高いが、経済活動や人の交流が再開すれば再拡大は避けられないという厳しい現実も突きつけられた。

 オーストラリアもまた、国内リーグ「スーパーラグビーAU」をスタート。しかしオーストラリアは州ごとに感染状況が異なり、感染者数の最も多いヴィクトリア州のメルボルンが本拠地のレベルズは、州をまたいだ移動に伴い課せられる隔離を避け、ホーム試合をすべてニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州のスタジアムで開催。長距離移動を伴う西オーストラリア州パースが本拠地のフォースも、ホーム試合すべてを東部の2州で開催した。

再開の舵を切った欧州ラグビー。

 Withコロナでラグビー再開に舵を切ったのはヨーロッパだ。

 3月から中断していたイングランドの「プレミアシップ」は8月14日に再開した。松島幸太朗が身を投じた「フランスTOP14」は9月5日に新シーズンが開幕する。

 松島は8月17日に行われたオンライン会見でチームのコロナ対策について「週イチくらいのペースで全員PCR検査を受けています。選手もみんな敏感で、こまめに手洗い消毒をしています」と話した。松島自身、「コロナのこともあるし、ほとんど外出はしません」という。渡仏後、最初のオフにチームメイトと出かけた先はモナコ。その理由も「コロナの感染者が少ないと聞きましたから」だった。現地でも念のため、ソーシャルディスタンスを保ちながら過ごし、移動も公共交通機関は使わずクルマを利用したという。

なぜ彼らは「再開」を急ぐのか?

 海外でスポーツ再開を急ぐように見えるのは、彼らの多くがプロだからだ。プロフェッショナルである以上、試合をしなければ収入が発生しない。クラブが立ちゆかない。仮に無観客でしか開催できなくても、試合をすればテレビ放映権料が発生する。それはどのスポーツにとっても同じだ。自分たちが休んでいる間に、いち早く活動を再開した他のスポーツにファンの関心が移ってしまうことを防ぐというリアルな動機もある。出遅れはクラブの、ひいてはそのスポーツの存立を脅かす。

 対して、日本のトップリーグは再開の気配がない。2019-2020シーズンタイトルをかけたリーグ戦を約5カ月遅れで再開させた欧州と異なり、トップリーグは3月の時点で打ち切りを決めた。

 日本のトップリーグはすべてが企業の予算で運営されるチームであり、競技収入によって運営するプロ組織ではない。それゆえ、試合が行われなくても選手の給与カットや契約解除といった切ない話題は(表だっては)発生していない。もともと競技収入を前提としていないから、試合をしないことによって自分たちの存立基盤が崩れるわけでも(当面は)ない。

大物を引き寄せる「安定感」。

 その、いわば「安定感」が、海外の大物選手を次々と引き寄せる。

 ニュージーランドからはワールドラグビー世界最優秀選手に2度輝いたSO/FBボーデン・バレットがサントリーへ、SOアーロン・クルーデンとFB/WTBベン・スミスは神戸製鋼へと、オールブラックスの英雄たちが続々と来日を決定。W杯覇者の南アフリカからはHOのマルコム・マークスがクボタへ、WTBマカゾレ・マピンピがNTTドコモへ、LOフランコ・モスタートがホンダへ、スコットランドからはグレイグ・レイドローがNTTコミュニケーションズに加わる。さらにオーストラリアからは昨年のW杯でワラビーズ主将を務めたマイケル・フーパーがトヨタ自動車へ加入するというニュースも流れた。

 ビッグネームばかりではない。母国で代表歴のない若手選手も、未来の日本代表資格獲得というオプションも視野に入れ、日本でのプレーを選択するケースが増えている。その決め手は経営の安定感=お金だけではない。治安の良さ、食事も含めた文化面は、海外の大物選手を引きつける大きな魅力だ。

 そこに去年、新たな大きな魅力が加わった。

レイドローが語るTLの魅力とは。

「昨年のW杯のあとはヨーロッパでも、日本のラグビーがすごく人気が出ています。あのW杯でのパフォーマンスで、日本のラグビースタイルがとても魅力的だということがわかって、多くの選手が注目している。私自身、トップリーグでプレーすることを楽しみにしているし、私にとってチャンスだ」と話したのはレイドローだ。

 レイドローはさらに「日本のラグビーのシステムはとても興味深い。会社がチームを持つスタイルはとてもユニークです。契約はラグビー選手としてだけれど、NTTコミュニケーションズという会社のビジネス面についても理解を深めたいと思っている」と話した。競技だけではない魅力を、日本のトップリーグは持っている。

<後編へ続く>

文=大友信彦

photograph by AFLO