試合日の何でもアリなエンターテイメントと言えば、やはり川崎フロンターレだ。

 これまでもハーフタイムのトラックにフォーミュラカーを走らせたり、西城秀樹さんがオープンカーに乗って「YMCA」を歌い上げたり、国際宇宙ステーションにいる飛行士と交信したり……。

 コロナ禍にある2020年シーズン、現在も集客が最大5000人に制限されるなかでは目立ったイベントを“自粛”してきたが、9月13日、ホームのサンフレッチェ広島戦で「難局物語2020」と題してイベントを打つことになった。国立極地研究所の協力のもとで南極大陸の昭和基地とナマ交信して始球式を行なうという。

ふろん太が第61次南極観測隊員見習いに

 コロナ禍の「難局」を乗り越えようと「南極」と引っ掛けてのイベントではあるが、8年前の2012年夏にも実施されている。2010年に優勝した名古屋グランパスをホームに迎える事象を「難局」として、昭和基地とのナマ交信もあった。

 今回は規模を大幅に縮小してのイベントになるものの、なぜフロンターレは「難局物語」の実現にこだわったのか。また、そこから見えてくる新たな事業戦略とは。集客プロモーショングループの佐藤弘平さんに話を聞いた。

――「難局物語2020」はコロナ禍が起こる前の昨秋からの企画だとうかがいました。

「そうです。国立極地研究所の職員にフロンターレサポーターで川崎市民の方がいらっしゃいまして、『一緒に何かやりませんか』と声を掛けてもらって、クラブマスコットのふろん太に今年5月から第61次南極観測隊員見習いとして行ってもらうことになったんです。活動の様子をクラブの公式YouTubeチャンネルで紹介していまして、9月に現地から始球式をやろうというのも決めていました」

みんなで乗り越えていくというメッセージをこめて

――8年前は難敵に打ち勝つべく「難局」として、今回はコロナ禍を乗り越えようという意味合いにしています。

「昨年からの企画なのでコロナ禍は後からきたものですけど、やはりみんなで乗り越えていきたいというメッセージをこめて敢えてこのネーミングのままにしました。経済状況の悪化で地域やスポンサーの力に少しでもなりたいとの思いから4月にオンラインで物産展を開いた際も『この難局を乗り越えよう』と題して発信しました」

――「難局」というフレーズを戦略的に使用しているわけですね。

「あくまでクラブとしてみんなでコロナ禍を乗り越えましょうという姿勢を示していくうえで。『難局物語2020』は南極を体験してもらいつつ、コロナ禍に打ち勝ちましょうと呼び掛けていくイベントでもあると思っています」

「ブリザードはご勘弁をと願っております(笑)」

――始球式をライブでやるとなると、昭和基地の時差は……。

「日本からマイナス6時間になるので、18時半キックオフとなるとちょうどお昼ごろになりますよね。天候が良ければふろん太に昭和基地の外に出てもらいたいなって思います。やっぱり外じゃないと『ザ・南極』の絵にならないので、ブリザードはご勘弁をと願っております(笑)」

――ただ、いつも1つの企画に対して盛りだくさんにするのがフロンターレ流だとは思います。しかし今回は始球式とスタジアム横の「フロンパーク」やスタジアムで南極に絡んだグルメを提供するくらい。規模を縮小せざるを得なかった、と。

「いろいろとやりたいことはありました。南極をテーマにするので雪を降らせてみようかという案もありましたが、Jリーグの新型コロナウイルス感染症対応ガイドラインに沿うとミストの使用はNGなので断念しました。

 クラブのマスコットの活動も制限がありますし、南極に絡めたゲストを呼んで選手入場のアナウンスをしてもらおうと思っても(当該チームから発症者が出た場合に)中止になるリスクも考えておかなければなりません。そうなるとどうしても最低限に抑えた内容になってしまいます」

新しい生活様式に合わせるような取り組みを

――来場者5000人の制限もありますよね。スタジアムグルメを販売するフロンパークも密にならないようにしなければならない。せっかくイベントを打っても、大きな反響を呼べないことも考えられるとは思うのですが。

「昨年までなら試合日一発でドンとやってきましたけど、今はそれができない。ならば発想の転換で、もっと長い目でプロモーションをやっていくことはできないかっていう考え方に立つようになりました」

――具体的に教えてください。

「これまでは試合日のイベントもそうですけど、スタジアムやフロンパークでしか基本的にコラボグッズやコラボグルメを買えないことで来場促進につなげていました。

 でも今は、スタジアムに行きたくてもチケットに限りがあって行けない。オンラインやグッズショップで一定期間を設けてコラボグッズを販売したり、コラボグルメの一部もフロンターレのカフェで出したりして、新しい生活様式に合わせるような取り組みを『難局物語2020』ではやっていこうと考えているんです」

教育や動画を通して長期的に

――プロモーションに協力する国立極地研究所としても南極での取り組みを多くの人に知ってもらいたいという思いがあると思います。「南極」をPRするアプローチも変えていく必要があったのでしょうか?

「スタジアムなどサッカーの現場だけではなく様々な方向に知ってもらうことが大切だと思っています。来週には市内の小学校で行われる南極学習にマスコットのふろん太が参加することになっています。

 8月には国立科学博物館にふろん太が行って南極のことを勉強した様子を公式You Tubeチャンネルでも流しています。こうやって教育や動画を通して少し長期的な取り組みをやっているので、そのことがうまくPRにつながればいいな、と」

「南極と等々力を往復できるという設定でして……」

――ちょ、ちょっと待ってくださいね。サラリとふろん太くんが8月に国立科学博物館に行って勉強してきたと言われましたけど、南極に行っているのでは?

「等々力にあるどこでもドアで、南極と等々力を往復できるという設定でして……」

――そう、きましたかあ(笑)。川崎市の藤子・F・不二雄ミュージアムとも良くコラボしてますもんね。

「はい、頑張って往復してもらっています(笑)」

――これからは少し長いスパンでのプロモーションも考えていくことになりそうですね。

「今回の『難局物語2020』はテストの意味合いもあります。ワンデーのイベントにとどまらないためにどんなことをやっていくか。試合日以外でもフロンターレを感じていただくと考えれば、我々にとっても凄く可能性があると思っています」

 来場者を喜ばせるイベントから、来場しなくても楽しめるイベントへ。

 フロンターレのサポーターは試合日に来場しなくともレプリカユニフォームを着て歩いている人も少なくないと聞く。スタジアムにいなくても一緒に参加できるようなイベントを打っていくのが、Withコロナ時代には求められているのかもしれない。

文=二宮寿朗

photograph by National Institute of Polar Research&Kawasaki Frontale