プレミアリーグの新シーズン開幕1週間前、久しぶりにロンドン市内を地下鉄で移動した。

 伸び放題だった“ロックダウン・ヘアー”の散髪に出かけたのだが、乗客がまばらな車内には駅でドアが開く度に「マインド・ザ・ギャップ」の音声が聞こえてくる。日本の駅で言えば「足下にご注意下さい」とのアナウンスに相当するが、自動的に何度も繰り返されるフレーズは、外国人でも耳に付くロンドンの地下鉄のキャッチフレーズである。

 いきなり話がサッカーから逸れてしまったが、やはり大きなギャップが存在する、プレミア2020-21シーズンのキャッチフレーズにもなりそうだ。

 昨季、2位には18ポイント、3位には33ポイントもの大差をつけたリバプールは、プレミア連覇を狙う今季も優勝の最有力候補であり続ける。

 7試合を残して断トツ優勝が決まるまでの昨季、その前シーズンと同じくリーグ戦で1敗のみだった安定した強さは驚異的である。ユルゲン・クロップ率いるチームは、ボールロスト後のプレッシングからして攻撃的だが、ゴールマウスにアリソン・ベッカー、最終ライン中央にフィルジル・ファンダイクを擁する守備力も、失点数は2年連続で20チーム中最少のリーグ最高レベルである。

南野が馴染み、チアゴを獲得したら……

 そして看板の攻撃力は、守備面に万が一があっても問題ない程で、9月12日の今季開幕戦でも物を言った。

 3度追いつかれたリーズ戦での2失点でアリソンの反応が疑問視されても、失点に繋がるミスがファンダイクにあっても、そのファンダイク自身のパワフルなヘディングと、決勝のPKを含むモハメド・サラーのハットトリックで白星スタートを切った。

 巷では、30年ぶりのリーグ優勝以上に困難と言われる、36年ぶりのタイトル防衛に臨むプレッシャーが指摘されている。

 だが、本調子ではなかった開幕戦で、17年ぶりのプレミア復帰に意気揚がる相手に番狂わせを演じさせなかったあたりはさすがだ。サラーをはじめ、主力が変わらない状態を不安視する向きもあるが、移籍3年目のナビ・ケイタは、先発のチャンスを生かせなかった開幕戦を受けて、中盤の主力を目指す上で良い意味での危機感を覚えているに違いない。

 ベンチ止まりだった南野拓実は、今季が新戦力としての本格的な1年目となる。加えて、指揮官が噂を否定してはいないチアゴ・アルカンタラ(バイエルン)の獲得が実現すれば、「鬼に金棒」ならぬ“レッズにアルカンタラ”。前線と後方に加え、中盤にもワールドクラスがいるチームとなる。

シティは手堅い補強+円熟のデブライネ

 もっとも、最大のライバルであるマンチェスター・シティとの距離は遥かに短くなるだろう。2位でプレミア3連覇を逃した昨季も、アイメリック・ラポルテの長期欠場にはじまるCB陣の故障がなければ、より僅差の優勝争いとなっていたはず。

 クロップのリバプール以上に容赦なく攻め続けるペップ・グアルディオラのシティは、3年連続でリーグ最多となる102得点で昨季を終えている。

 補強も派手ではないが、CBの他に左SBとボランチでも使えるナタン・アケをボーンマスから引き抜き、レロイ・サネをバイエルンに売ったウィンガーの穴埋めには、バレンシアからフェラン・トーレスを獲得。「エル・マゴ」ことダビド・シルバは契約満了で去ったが(R・ソシエダ)、バトンは指揮官自らが「新マジシャン」として見初めていたフィル・フォデンに渡せばよい。

 そして攻撃のキーマンであるケビン・デブライネは、年齢的なピークの29歳。グアルディオラは、昨季CLで勝ち残ったことで1週間先送りにされた9月21日のウルブズ戦から開幕ダッシュへと鞭を振るうに違いない。

積極補強チェルシーとランパード体制2年目

 同様に、残るトップ4候補もリバプールとのギャップを詰められるかというと、2年前に突入した「2強」時代はまだ終わりそうにない。先頭第2グループのリーダーと目されるのは、一昨季は72ポイントの3位で、昨季も66ポイント、4位につけたチェルシー。ただし、今夏の積極補強をもってしても、勝ち点を優勝の目安となる90ポイントへと一気に伸ばせるとは思えない。

 9月14日の開幕節ブライトン戦(3−1)、RBライプツィヒから移籍したティモ・ベルナーは、先制のPKを奪うなど新CFとして10点満点で7点は与えられる出来で、バイエル・レバークーゼンから買い入れたカイ・ハフェルツも、まずは2列目右サイド起用で及第点のデビューを飾ったが、2−1とした後に2−2とされそうな場面もあったように、1、2点のリードでは安心できないチームの姿は昨季の延長線上にあった。

 フランク・ランパードは、2億ポンド(約280億円)を越す補強に伴うプレッシャーの中で監督就任2年目を迎える。

 ベンチで開幕を迎えたストライカーのタミー・エイブラハムの他にも、アヤックスから加入した新ウィンガーのハキム・ツィエク、パリ・サンジェルマンを出たCBのチアゴ・シウバといった新戦力のコンディションが整えば、レギュラー扱いだった昨季からの状況の一変にユース上がりの若手が不満を抱く内情とも向き合わなければならないだろう。

マンUは既存の主力がどうなるか

 得失点差で昨季3位のマンチェスター・ユナイテッドは、ドニー・ファン・デ・ベークという創造力を加え、チェルシーに引けを取らない戦力を備えている。アヤックスから移籍した23歳の逸材は、今年1月に加入したブルーノ・フェルナンデスがトップ下で大ヒットしたチームにおいて、9月19日の今季初戦からオレ・グンナー・スールシャール監督による起用法も楽しみだ。

 しかし、既存の主軸は大きな「?」付き。守護神のダビド・デ・ヘアは、度重なるミスで2年前から落ちる一方の存在感と信頼度を取り戻すことができるのか? 華もある中盤の核とはなれずに4年が過ぎたポール・ポグバは、今季こそコンスタントに実力を発揮できるのか?
 そして、史上最高額のDFとして真価が問われる移籍2年目を前に、ホリデー先のギリシャで警察沙汰となり、執行猶予付きだが2年近い禁固刑を言い渡されて控訴審を控えるハリー・マグワイアの精神状態は?

トップ4に食い込めそうなクラブは?

 欧州出場枠を争う他クラブがトップ4に食い込む可能性はどうか。

 昨年の今頃、国内では「ビッグ6時代」の終焉を予想する声も聞かれた。ところが、2019-20シーズンが終わってみれば、ビッグ6以外のトップ6メンバーはレスターのみ。そのレスターにしても、シーズンの大半をトップ4で過ごしていながら、最終的にユナイテッドとチェルシーに抜かれた5位だった。

 終盤戦に疲れが見えたウルブズは前年と同じ7位に落ち着き、エバートンは、シーズン半ばでチームを受け継いだカルロ・アンチェロッティが、「キャラクター」や「モチベーション」の不足を嘆く状態。昇格1年目だったシェフィールド・ユナイテッドがクラブ史上初の欧州参戦を匂わせたものの、結局は45年ぶりの最高順位ではあるが9位に終わった。

 チェルシーとユナイテッドにトップ4争いを挑む筆頭格となるべきはトッテナムだろう。資金力も合わせた底力を持つビッグ6の一員は、まさかの下位に落ちた昨季途中にジョゼ・モウリーニョを新監督に迎え、6位フィニッシュで帳尻を合わせた。

 その昨季を追ったアマゾンのドキュメンタリー作品『オール・オア・ナッシング』の中で、ダニエル・レビー会長が口にした「トップ4と優勝トロフィー」は、もはや冗談混じりの「クリスマスの願い事」ではなく、今季の現実目標だ。エース兼キャプテンのハリー・ケインが、タイトル獲得を求めて移籍を望む可能性を考慮すれば、今季のノルマだとも言える。

モウリーニョの着実なチーム作り

 モウリーニョも、国内のカップ選手権とヨーロッパリーグで優勝を狙いつつ、プレミア4位以内を目指すために堅実なチーム作りに着手している。

 守備面でリスクが高いセルジュ・オーリエに代わる右SBとしてのマット・ドハティーと、メンタルを含む中盤の強度アップを図るピエール・エミール・ホイビュルクの獲得は、それぞれウルブズとサウサンプトンというトップ10候補2チームの戦力を弱める補強でもあった。

 9月13日にエバートンに敗れた開幕節(0−1)ではインパクトを欠いたが、チームとしてのパフォーマンスを指揮官が「緩慢」と批判するような「膿」は、早めに出してしまうに越したことはない。
 いきなりハーフタイムで交代を命じられたデレ・アリは、「むら」がなくならなければ来夏には売却もあり得るだけに開幕早々の一念発起が期待される。

アンチェロッティとハメスの師弟関係再び

 一方のエバートンは、アンチェロッティが前任地ナポリから呼び寄せたアランがアンカーとしてマン・オブ・ザ・マッチ級の活躍を披露するなど、新戦力を加えたチームが早速機能した。その出来は、恐らく指揮官も予想以上だったはず。

 同じく古巣のレアル・マドリーからハメス・ロドリゲスを迎え、アブドゥライェ・ドゥクレをワトフォードから獲得したように、まずはMF陣の梃入れが行われた名将によるチーム改革は、まだまだ始まったばかりだ。

 ムードの良さでは、昨年12月からミケル・アルテタ新体制が始まったアーセナルも引けを取らない。

 チェルシーを下したFAカップ優勝で昨季を締め括り、今季も現役リーグ王者のリバプールと対戦したコミュニティ・シールドにPK戦で勝利して、開幕前哨戦からトロフィーを手にしている。

 今季プレミアの火蓋を切ったフルアム戦も、フリーで手に入れたウィリアンが、先制点に絡んだ上に2アシストで快勝(3−0)。リールから獲得した22歳のガブリエウが新たな第1CBと目される後方は安定に時間を要するだろうが、この日もネットを揺らした得点源ピエール=エメリク・オーバメヤンの契約更新を「時間の問題だから心配無用」とした指揮官の試合後コメントも頼もしい。

レスターは攻守の主力を失う可能性

 とはいえ、当日の相手は降格候補のフルアム。一昨季に続いて昇格翌年のUターンが見込まれる昨季2部4位が、ビッグクラブとの格差を痛感させられたように、5シーズン前から遠ざかっているトップ4圏内と昨季プレミア8位との距離は、一朝一夕ならぬ“一夏一冬”で埋められるほど近くはない。

 同様に、4年前にプレミア優勝の奇跡を起こした後は、昨季もトップ4入りを逃したレスターはトップ6漏れさえ予想される。ウェストブロミッジとの今季開幕戦(3−0)では、先制のデビューゴールを決めたティモシー・カスターニュが、その攻撃力もブレンダン・ロジャーズ体制向きで、チェルシーに引き抜かれたベン・チルウェルの穴を埋める賢いSB補強と見受けられた。

 だが、プレミアの移籍市場が閉まる10月5日までには、MFのジェームズ・マディソン、CBのチャグラル・ソユンクといった攻守の主力を失う危険性も残る。

昇格組のホープはビエルサ・リーズ

 最後に、不慣れな3バック採用の奇策も通用せずにウェストブロミッジも完敗した昇格組のホープは、待望のプレミア復帰初戦で無観客試合が勿体ない好ゲームを演じたリーズ。その戦いぶりからは、グアルディオラも尊敬するマルセロ・ビエルサが求めるスタイルを、選手たちが心の底から信じている一体感が窺える。プレミアのファンとしては、昨季のシェフィールド・Uばりの健闘を期待したくもなる。

 しかし、グアルディオラのシティが2強の一角を占める理由には、戦術を実行する持ち駒のハイ・クオリティもある。例えば、決定力抜群のセルヒオ・アグエロがプレッシングの心得を学んだシティに対し、リーズで1トップを務めるパトリック・バンフォードは、チャンスを無駄にする傾向がなくならない。クラブ史上最高額でバレンシアから移籍したロドリゴも、ゴール量産で知られるFWではない。

 リーズの前回昇格は、トップリーグがディビジョン1と呼ばれていた30年前のこと。古豪が返り咲いた舞台は、復帰1年目のトップ4入りと2年目の優勝を果たした当時とは、リーグの名称も違えば上位勢の戦力レベルは桁違い。

 トップ6の常連から昇格チームまで、ギャップが気になるシーズンの始まりだ。

文=山中忍

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