コロナ禍のなか、五輪前年となる2020-21シーズンがいよいよ開幕した。

 9月25日から全日本選手権予選となる中部選手権・中四国九州選手権の2大会が始まったのを皮切りに、コロナウイルスを言い訳にはできない真剣勝負が待ち受けている。

 この異例の状況をどう乗り切るか、単なる技術力だけでなく、精神力や対応力が問われるシーズンになりそうだ。

 選手にとって、一番の苦労は大会数の減少だろう。

 海外の試合への出場はほぼ不可能で、オフシーズンに各地で行われていた東京夏季フィギュアやげんさんサマーカップなどの地域大会も多くが中止になった。

 全日本選手権への予選となる各ブロックの選手権に、本番経験なしに挑むのはあまりにも不安が大きい。

トリプルアクセルに挑戦する、力試しの場

 そんな中、選手が試合感覚を取り戻すチャンスとして、『ドリーム・オン・アイス 2020Go for Tomorrow』(9月12-13日)が行われた。

 2日間にわたり試合形式でショートとフリーを披露。無観客だが、テレビ放送やインタビューもあり、6分間練習をしたあとに本番の演技をする。

 特に激戦の女子にとっては、全日本選手権予選から少しも気が抜けないため、貴重な経験となったようだ。

 女子の出場者は、吉田陽菜、河辺愛菜、川畑和愛、樋口新葉、坂本花織の5人。

 なかでも15歳の吉田と河辺は国内戦でトリプルアクセルを降りたことのある気鋭の若手で、今季初成功を目指す樋口新葉も加わり、5人のうち3人が本番の緊張感のなかでトリプルアクセルに挑戦する、力試しの場となった。

実力者の貫禄を見せた樋口

 実力者の貫禄を見せたのは樋口。昨季から継続のショート『Bird Set Free』は、3回転ルッツの着氷で感触が良くないと判断すると、連続ジャンプにするのを回避。続く3回転フリップから3回転トウループをつけてリカバリーし、落ち着いた滑りを見せた。

「去年よりもリンクを大きく使って滑ることが出来ました。ミスをカバーする気持ちで出来たのが良かったです」という。

 フリーは、今季は初戦からトリプルアクセルを入れると決意していた。6分間練習では飛距離のあるトリプルアクセルに成功し、手応えをつかんで本番に臨む。

 しかし踏み込みが浅く、転倒してしまった。

「朝練でも良いトリプルアクセルを跳べていましたし、集中していました。やはり久しぶりの試合感覚での演技だったので、緊張感もあり良い経験になりました」と話し、シーズン中での成功を誓った。

河辺はショートでトリプルアクセルを着氷

 一方、今季からシニアにあがる河辺は、ショートもフリーもトリプルアクセルに挑戦した。ショートでは『Fire Dance』の情熱的な曲調に乗り、トリプルアクセルを着氷。

「少し回転がたりなかったけれど、ショートでトリプルアクセルを入れて片足で立てたことは良かったです。もっと綺麗に踊れるように滑り込んでいきます」

 と笑顔を見せた。フリーでは転倒してしまったものの、2日間連続でトリプルアクセルに挑戦できた経験は大きい。

「6分間練習で調子が悪かったので焦ってしまったのですが、本番は6分間練習よりも軸が真っ直ぐだったので良かったと思います。今季からシニアに上がるので、上手いお姉さんたちとの差を詰めていって、表彰台に乗れる選手になりたいです」と語った。

吉田「違う自分を見せられるように」

 もう1人トリプルアクセルに挑戦したのは、昨季の全日本ジュニア3位の吉田だ。

 今年春に木下アカデミーに移籍して、新たなスタートを切ったばかり。フリーの『ツィゴイネルワイゼン』の冒頭でトリプルアクセルを跳び、転倒したものの残るジャンプはしっかりと立て直して、底力を見せた。

「トリプルアクセルは、シーズンに向けて確率を上げていくようにしたいです。今季は新しい環境なので、違う自分を見せられるように頑張ります」と誓った。

まるで脚さばきの練習曲のよう

 一方、昨季の全日本選手権6位だった坂本は、リベンジとなる今季への意欲が溢れる演技を見せた。

 ショートはリモートでブノワ・リショーが振り付けたという『Bach a la Jazz』。静寂と喧噪の入り交じるピアノ曲を、軟らかい滑りと力強い演技で表現するプログラムだ。後半の激しいステップは、難しい流れが詰め込まれており、まるで脚さばきの練習曲のような内容をこなした。

「今年20歳になるので、今までより曲を感じながら、新たな自分を引き出させるプログラムです。難しいけれど頑張ります。今日は久しぶりの試合形式で、ゆっくりの曲調からテンポの良いジャズになったらキレよく動かないといけないのに、緊張して出来ませんでした。メリハリのあるプログラムにしたいと思います」

 またフリー『マトリックス』は昨季からの継続で、まだ9月ながらほぼノーミスの内容だった。

「最初から最後まで全力疾走になるのでペース配分が難しいプログラムです。今日は試合形式で、でも無観客という、今までに無い経験が出来ました。今季は試合数が少ないので、しっかり自分の演技をしていきたいです」

川畑の新ショート『黄昏のワルツ』

 そして昨季の全日本選手権3位の川畑も、新ショート『黄昏のワルツ』を披露した。

 カナダへ振付けに行く予定だったが叶わず、同じデイビッド・ウィルソンの作品である西野友毬の過去のプログラムを再演することに。一歩一歩のスケーティングが伸びやかで、滑りそのものの美しさを見せるプログラムだ。またフリーは昨季から継続し、緩急のある演技を見せた。

「去年のショート『美しき青きドナウ』もワルツ曲でしたが、今年はもっとなめらかな感じを出したいと思って、エレガントに滑る練習をして来ました。

 今日は久しぶりの試合形式だったので、緊張して足元がカクカクしてしまった部分がありました。フリーは、前半は落ち着いて曲にしっかりと乗り、後半のコレオシークエンスは力いっぱい踏めたと思います。

 このような試合形式で滑る機会をいただいて、感謝しています。今季はドリーム・オン・アイスで滑った経験を活かして、試合の緊張感に負けずに力を出して行きたいです」

半年以上、人前で演技するチャンスがなかった

 どの選手からも「久しぶりの試合」「緊張感」「経験を活かしたい」といった言葉が次々と溢れた。やはり半年以上、人前で演技するチャンスがなかったため、例年以上に気持ちが引き締まったのだろう。

 このドリーム・オン・アイス以外にも、7〜9月にかけて各都道府県のスケート連盟やスケート場が主催となり試合や発表会が行われ、選手育成の場が作られてきた。札幌カップと北九州オープンは開催され、ほかにも各地のリンクで公開されていないイベントが多数開かれた。

 準備が難しいコロナ禍でのオフシーズンだったが、なんとか地区ブロックの開幕にまで漕ぎ着けたのは、所属クラブや連盟の協力あってのことだろう。

グランプリシリーズも開催予定で準備中

 では今後、今季はどのような展開が予想されるのか。まず9月25日から、『中部選手権(通称:中部ブロック)』『中四国九州選手権(通称: 中四国九州ブロック)』が開幕。『中部』には、本郷理華、新田谷凜、横井ゆは菜、山下真瑚らが参戦、『中四国九州』には田中刑事が出場する。

 他の地区大会も続々と開催される。『近畿ブロック(10月2-4日)』には、坂本花織、三原舞依、河辺愛菜、岩野桃亜らが、『関東ブロック(10月2-4日)』には、鍵山優真と佐藤駿が出場する。さらに『東京ブロック(10月9-11日)』には川畑、本田真凜、本田望結らが、『東北北海道ブロック(10月10-11日)』には渡辺倫果らがエントリーしている。各ブロックを勝ち上がった選手は、東日本選手権または西日本選手権に出場し、日本の頂点を争う全日本選手権(12月23-27日)へとコマを進める。

 この国内大会に加えて、グランプリシリーズも開催予定で準備が進められている。日本国内で練習する選手の場合は、NHK杯(11月27-29日)にエントリーすることになりそうだ。今のところ、樋口と坂本は出場を表明しており、そのほかミニマムポイントを満たすトップ選手らが出場する見通しだ。

 また10月3日に開催されるジャパンオープンは、今季の大会としては初めて、観客を入れての開催となる。こちらは樋口、川畑、本田真凜、横井ゆは菜、山本草太らが出場予定で、観客の前で緊張感と応援のパワーを受け止める、数少ないチャンスとなる。

 いずれにしても、コロナ禍といっても練習自体はほぼ通常通りのペースを取り戻しており、シーズンも開幕した。1戦1戦の貴重なチャンスに集中し、そしてチャンスをつかみ取れるか──。それぞれの選手が人間的な強さを磨き、少しでも成長するシーズンになることを祈りたい。

文=野口美惠

photograph by Dreams on ICE 2020