人は人によって突き動かされることがある。9月19日、神宮球場での試合もそうだった。

 ヤクルト広島戦は延長戦の末に決着した。同点の10回に、二死二、三塁から大盛穂が二遊間に転がる当たりに、一塁へのヘッドスライディングで決勝点をもぎ取った。広島にとっては今季、11度目の延長戦で初の勝利だった。

 ヒーローインタビューは決勝打の大盛だったが、陰の立役者は7回111球を投げきった森下暢仁だった。

 前日に広島投手陣が14失点したヤクルト打線相手に、直球主体の投球で勝負を挑んだ。1点リードの2回、一死一塁から坂口智隆に低め148キロを右翼席に運ばれても、逃げることなく攻めるスタイルを貫いた。

「点を取られたくないという思いだけでした。自分が粘らないとチームの逆転もない。そこの思いだけで投げていました」

 1点ビハインドから味方打線は走者を出しながらも、あと一本が出ない攻撃が続いた。最少得点差のまま、森下も走者を背負う場面が多くあったが踏ん張った。

失敗や挫折を経て“広島のエース”に成長した

 野球は、投手が球を投じてからすべてが始まる――。

「自分が投げて試合が動く。自分が一歩引くと、チームも引いてしまう。攻めるところは攻める姿勢を見せないといけない」

 大分商高時代では甲子園のマウンドに立つことはできなかったものの、日の丸を背負った。プロからの誘いもある中、進学した明大ではケガに悩まされる時期を経て、主将となった4年の春に全国優勝。大学日本代表のエースにまで上り詰めた。栄光の裏には同じだけの失敗や挫折もある。勝つことだけでなく、負けることも味わいながら、エースとしての風格を自然と身に着けていったのかもしれない。

 野球人生の大きな転機となった明大時代に、“庭”としてきた六大学野球の聖地で成長した姿をみせた。

 6回まで毎回の9三振を奪い、球数100球を超えた7回も150キロを計測した。最少得点差を守り抜く力投が、味方打線を奮い立たせた。延長10回の大盛だけでなく、5回一死の場面では菊池涼介が一塁へのヘッドスライディングで内野安打をもぎ取った。降板直前には堂林翔太が同点ホームラン。そして延長戦の末に、チームは勝利をつかんだ。

プロ1年目にしてチームを支える「勝てる投手」

「チームが勝ったことが一番。次につながればいいです」

 1年目ながら、チームの勝敗を背負う覚悟ができている。

 広島は、チーム防御率がリーグワースト2位という苦しい台所事情に加え、エース大瀬良大地もクリス・ジョンソンもいない。森下は開幕から登板した試合で100球に満たなかった試合が1度しかなく、責任投球回未到達も1度しかない。勝ち星に加え三振数もチームトップ。広島投手陣の柱を担っている。

 登板した13試合でチームが敗れたのは4試合のみ。勝てる投手たるゆえんは、あの試合で示したような姿にある。広島のエース大瀬良大地や3連覇の礎を築いた黒田博樹氏も、マウンドでの姿でチームメートの士気を上げていた。

 プロでは1年目の新人であり、チーム内では投手陣が練習で使う道具を運ぶ役割もある。ただ、グラウンドに立てば年齢は関係ない。投手の姿が鏡となって、野手を映し出す――。そんな気概を広島の背番号18の背中からは感じる。

同学年投手との対戦時には「負けたくない」

 かつて広島で18を背負った前田健太(ツインズ)も、若かりし頃からそうだった。「投手には責任がある。だって、投手には“勝ち投手”、“負け投手”が付くけど、野手には“勝ち野手”も“負け野手”もないじゃないですか。それだけ投手は責任を背負っているということだと思う」。ときを経て同じ背番号を背負う森下にも、投手としての矜持を感じる。

 さわやかなルックスでカープ女子の人気を集めるが、マウンドに立てば戦う男。内に秘めた闘争心をときに言葉にもしてくれる。新人王争いについて聞かれれば「全然、意識しています。取りたい気持ちはどんどん強くなっています」と応え、同学年投手との対戦時には「負けたくない」とはっきりと口にする。登板前後に無難なコメントに終始する先発投手も珍しくない中、森下は自分の言葉をしっかりと持っている。

 いかにも投手らしい思考と言葉を持った右腕はチームメートだけでなく、見る者の心も動かす投手になっていくに違いない。シーズン終盤になっても浮上の兆しが見えない中で、背番号18が示す姿は、大きな希望の光となる。

文=前原淳

photograph by Kyodo News