大卒選手を中心に、来季以降の加入が内定する「特別指定選手」たちの多くが、本加入を待たずして続々とJリーグデビューを果たしている。その中で、すでに“主力級”の活躍を見せているのが、ベガルタ仙台のDF真瀬拓海だ。

 真瀬は名門・市立船橋高校の出身。阪南大学に進み、現在は4回生。スピードとフィジカルバランスに秀いででおり、ボランチやサイドハーフの動きを頭に入れながら、賢くポジショニングとオーバーラップを仕掛けられる生粋のサイドバックだ。空中戦や1対1、カバーリングも難なくこなす注目株は、今年3月に早々に仙台内定を勝ち取ると、リーグ中断明け2試合目となるJ1第3節浦和レッズ戦でJリーグデビューを飾っている。

 リーグ出場3試合目となった第9節ヴィッセル神戸戦で「これまでやったことがない」という攻撃的な4-3-3の右ウイングに抜擢。そこから5試合の出場を重ねると、本職の右サイドバックとしても1試合にスタメン出場している。さらに第17節FC東京戦では、3-4-2-1の右ウイングバックを任せられるなど、サイドプレーヤーとしてポリバレントな能力を見せつけた。

チームの不振、真瀬自身にも迷いが

 しかし、チームは低迷を続けている。真瀬がスタメンデビューを飾った8月8日の神戸戦でこそ勝利したが、Jリーグ第19節を終えた時点でリーグ戦は直近6連敗、ルヴァンカップを含めると10試合も勝ち星から遠ざかっている。真瀬は現状をどう捉えているのか。

「仙台に来た当初は自分のことばかりを考えていました。でも、デビュー5試合目の(第12節)セレッソ大阪戦あたりから、少し考え過ぎるようになってしまった。特別指定の立場である僕が練習や試合でミスをして、チームの流れや雰囲気を壊さないような、ミスを恐れたプレーを意識するようになりました。ドリブルで仕掛けられるスペースがあるのに、下げるパスを選んで、1回落ち着かせようという消極的なプレーを選択しているのが自分でもわかりました。

 チームとして結果がなかなか出ない中で、勝つために自分がどうすべきか。それがプラスに働けばいいのですが、プレーに迷いが出始めて、思い切りやれていないというか……周りのことばかりを考えてしまい、自分の良さが消えているのではないかという葛藤が生まれてきました」

真瀬が気にする「あいつら」の存在

「特別指定選手」だからといって、試合に出ている以上、仙台の選手であることに変わりはない。だが、チームの成績を必要以上に背負い込んでしまい、真瀬の魅力である思い切りの良さが影を潜めてしまっているのは否めなかった。

 ただ一方で、本来であればプロ入りしてから時間をかけて経験することを、彼はすでにリアルに経験しているという見方もできる。真瀬自身もそれをポジティブに解釈しており、モチベーションと向上心が湧き出ていると語った。

「今は改めて自分の良さとは何かを整理しているところ。それを出すために味方とコミュニケーションをとって、自分の良さを引き出してもらえるように工夫をしている最中です。そもそも、僕はエリートじゃないし、周りからいい刺激を受けてきたからこそ成長できてきた。せっかく素晴らしい環境でサッカーをさせてもらっているのに、自分が飲み込まれてしまったら、あいつらに置いていかれますから」

 真瀬の背中を押してくれるのは、高校3年間ともに切磋琢磨をしてきた「あいつら」の存在だ。

原輝綺、杉岡大暉、高宇洋、金子大毅

「僕は常に3番手、4番手のような選手だった」

 市立船橋高時代の同級生には現在Jリーグで活躍する原輝綺(サガン鳥栖)、杉岡大暉(鹿島アントラーズ)、高宇洋(レノファ山口)らがいる。真瀬は彼らの影に隠れる存在だった。

 1年生から出番を掴み10番を背負っていた高宇洋、2年生で絶対的な主軸としてプロのスカウトからも大きな注目を集めていた原と杉岡。高校卒業後、すぐにJリーグへ進んだ3人を真瀬は尊敬の眼差しで見つめていた。

「あの3人が凄いことはわかっていたし、自分も頼りになるチームメイトとして『あいつらに付いていく』という感じでした」

 実は彼には1人だけ、強烈なライバル心を抱く同級生がいた。現在、湘南ベルマーレでレギュラーを張るボランチの金子大毅だ。

真瀬の目に映った金子の急成長

 金子と真瀬は2年生で初めてAチーム(トップ)に上がった。言わば同志だ。当初は真瀬の方が多くの出場機会を得ていたが、金子が夏以降に頭角を現すと、ポジションは違えど、真瀬の出番は徐々に減っていった。金子が出場する試合では、ボランチのレギュラーだった原が右サイドバックで起用される試合が増えたのだ。

「金子と僕は、まさに11番目を争う存在になったんです。もともと親友でしたが、そこからはライバルとして意識するようになり、絶対に負けたくない存在になりました」

 3年生になると金子がボランチ、真瀬が右サイドバックのレギュラーの座をつかんだ。後のJリーガーをズラリと揃えた市立船橋はこの年にインターハイ優勝を達成。真瀬自身もこの大会を通じて、攻撃参加の質が格段と上がり、大きな飛躍を遂げた。しかし、真瀬の目には自分以上に成長を続ける金子の姿が映った。

「金子は一気に自覚が芽生えて、どんどんチームの中心になっていった。コツコツと努力を重ねて徐々にステップアップしていくのを目の当たりにして、『このままじゃ置いていかれてしまう』と危機感が生まれていましたね」

驚いた、ライバル金子のプロ宣言

 Jリーガーになった3人を尻目に、真瀬は阪南大へ、金子は神奈川大に進む。原や杉岡、高のように自分たちも「同じ舞台で戦いたい」と、4年後のプロ入りを見据えてさらに意識は高まった。

 真瀬は阪南大で入学早々に右サイドバックのレギュラーを獲得。年が明けた2月には全日本大学選抜にも選ばれるなど充実の時間を過ごしていた。だが、再び金子から大きな刺激を受けることになる。

「金子がちょうど大阪に来ていた時に一緒にご飯を食べたんですが、そこで『俺、大学を辞めてプロに行くわ』と言われたんです。その時は『そうなんだ』と答えたのですが、内心はもう『マ、マジか』と衝撃的過ぎて、思わずポカーンとしてしまいました。何が何でも同じ舞台でプレーしたいという気持ちがどんどん大きくなっていきましたし、自分と向き合って考える時間が増えました」

 一番のライバルであった金子は、大学を辞めてプロの世界に飛び込んだ。さらに高も加入したガンバ大阪で熾烈な競争に身を置き、杉岡と原に至ってはA代表としてコパ・アメリカ出場し、世界と戦った。そんな姿をテレビで試合を観ていたという真瀬は「あそこまで行っちゃったか」と思う一方で、「やっぱりあいつらには負けられない」と自分のやるべきことを再確認した。

特別指定だからという甘えはない

 今年1月、同級生の活躍に刺激を受けた真瀬は、練習参加要請を受けた仙台の宮崎キャンプに1週間参加した。そこからすぐに正式オファーが届くと、「タイミングがあれば(今季中に)トップで使う可能性がある」という言葉をもらうほどの評価を勝ち取った。

「もちろん、トップで使う可能性があるという言葉は大きかったですけど、僕はこれまで高校も大学も、最初に声をかけてくれたところを選んできた。今回もこれが僕の運命だと思ってベガルタに決めました」

 今、真瀬はようやく仲間たちと同じステージに立っている。

「チームが勝てない状況の中でも、仙台のサポーターは拍手で選手を迎え入れてくれる。サポーターに勝利を届けたいという思いが日に日に強くなっています。仙台の勝利に貢献できるように、より自分に厳しく、躍動感あるプレーをしたい。

 また、大学にも感謝の思いでいっぱいです。須佐(徹太郎)監督には人間としてはもちろん、苦手だったビルドアップを身につけさせてもらったりと、サッカーIQは確実に向上したと思う。ようやく関西学生リーグも始まって、本当は大学に戻るべきなのに、監督は仙台へ快く送り出してくれている。ここにいるのが当たり前ではないことを自覚して、感謝の気持ちをもってプレーし続けないといけないと改めて思います」

 特別指定選手だからという甘えは一切ない。ベガルタ仙台という看板を背負う選手として、何より阪南大を代表する選手として、彼はピッチに立っているのだ。その思いはJリーグのピッチで躍動する原動力となっている。

 そして、何より心の奥底にあるのはやはり「あいつら」に対する焦燥と、そして感謝の念だった。

「みんなに置いていかれないようにこの壁を超えていきたいと思いますし、そうしないと将来的に日本代表にも入れない。願わくば杉岡、輝綺、金子、高ら同級生と代表でプレーしたい。今回、こうやって自分のキャリアを振り返って、本当に幸せだなと感じるのは市船の同期に恵まれたことですね。あの世代じゃなかったら、今の自分はなかったと思いますから」

 次は真瀬が彼らに刺激を与える番。真瀬の追い上げが仙台を、「あいつら」を上へ押し上げていってくれるはずだ。

文=安藤隆人

photograph by J.LEAGUE