今年のMLBのレギュラーシーズンは、あっという間に終わったという印象だ。今季は60試合しかなかったためにシーズン当初に出遅れた選手がリカバリーできずに終わった印象が強い。大谷翔平などもその1人だろう。

 そんな中で、ダルビッシュ有は彼のキャリアでも特筆すべき成績を上げて、MLB投手の最高の栄誉であるサイ・ヤング賞の有力候補と目されている。

 今回の記事では各種の指標を基に、ダルビッシュのサイ・ヤング賞の可能性について考えていこう。

沢村賞とサイ・ヤング賞の違いとは

 ところでNPBには「沢村賞」があり、こちらも投手最高の栄誉とされる。沢村賞は1947年制定、サイ・ヤング賞は1956年だから、実は沢村賞の方が古い歴史を持っている。サイ・ヤング賞はア・ナ両リーグで選ばれ、救援投手も選考対象になるが、沢村賞はセ・パ両リーグの先発投手から原則として1人だけ選ばれる。

 また沢村賞には「登板試合数(25試合以上)、完投試合数(10試合以上)、勝利数(15勝以上)、勝率(6割以上)、投球回数(200イニング以上)、奪三振(150個以上)、防御率(2.50以下)」という数値目標がある。さらにQS(Quality Start=先発投手としての最低限の投球成績、沢村賞では7回自責点3以内、MLBでは6回自責点3以内)も評価基準になるとされる。

 そこで沢村賞とサイ・ヤング賞の価値基準の違いを知るために、今季ナショナルリーグの有力投手を沢村賞の基準でランキングしていこう(なお登板試合数、完投試合数、勝率については、MLBでは全く評価されていないので除外する)。

 なお今季のMLBは60試合制だったので、積み上げ型の数字はこのペースで活躍したと仮定。()内に143試合制に換算した数字を入れてある。

ダル最多勝、記者によっては重視

◇沢村賞の基準で見たナ・リーグ、サイ・ヤング賞候補の成績 規定投球回数以上

<勝利数 - 15勝以上>
1 ダルビッシュ(カブス)
8勝(19勝)

2 デイビース(パドレス)
7勝(17勝)
3 ヘンドリクス(カブス)
6勝(14勝)
4 バウアー(レッズ)、シャーザー(ナショナルズ)など6人
5勝(12勝)

 セイバーメトリクス導入以降、勝利は「運」の産物とされ重視されていないが、今も投手主要タイトルの1つであり、記者によっては重視している。しかし2018、2019年と10勝、11勝だったメッツのデグロムが、最多勝投手(両年ともに18勝)を差し置いてサイ・ヤング賞を受賞していることを見ても、決定的な指標ではなくなっている。

投球回はバウアー&デグロムより多い

<投球回数 - 200イニング以上>
1 マルケス(ロッキーズ)
81.2回(194.2回)
2 ヘンドリクス(カブス)
81.1回(194回)
3 ダルビッシュ(カブス)
76回(181回)

4 ウッドルフ(ブルワーズ)
73.2回(175.2回)
5 センザテラ(ロッキーズ)
73.1回(194.2回)

 マウンドに上がれば長いイニングを投げることは先発投手の責務でもある。MLBでは球数制限は厳格だが、その中で効率よい投球をして長いイニングを投げる投手は評価される。ダルビッシュはリーグ3位、ライバルのバウアーやデグロムより多い。これはポイントとなる。

<奪三振 - 150個以上>
1 デグロム(メッツ)104三振(248三振)
2 バウアー(レッズ)100三振(248三振)
3 ノラ(フィリーズ)96三振(229三振)
4 ダルビッシュ(カブス)93三振(222三振)
4 ラメット(パドレス)93三振(222三振)

 三振は振り逃げ以外では出塁を許さないので、投手にとって最高のリザルトだとされる。その点は沢村賞もサイ・ヤング賞も同じだ。ダルビッシュは4位につけている。

QS数トップなのは間違いなくプラス

<防御率 - 2.50以下>
1 バウアー(レッズ)1.73
2 ダルビッシュ(カブス)2.01
3 ラメット(パドレス)2.09
4 デグロム(メッツ)2.38
5 デイビース(パドレス)2.73

 防御率は19世紀からある古典的な指標で「運」が左右する指標だとされるが、主要タイトルの1つであり、今も重要視されている。バウアーが1位、ダルビッシュは2位。ダルビッシュは9月20日のツインズ戦で6回自責点4だったために、2点台になったのが痛い。

<QS数>
1 ダルビッシュ(カブス)10
2 バウアー(レッズ)9
2 フリーランド(ロッキーズ)9
2 ガレン(ダイヤモンドバックス)9
2 ヘンドリクス(カブス)9
2 マルケス(ロッキーズ)9

 沢村賞では7回自責点3以内をQSとしているが、ここは6回自責点3以内というMLBの基準とする。ダルビッシュは12試合でQSが10、QS率は83.3%。安定感ではナ・リーグ随一だったと言えよう。これはポイントが高い。

今季のK9は全体的に高かった

 ここからはMLBで重視される指標での比較をしていこう。

<K9>
1 デグロム(メッツ)13.76
2 バウアー(レッズ)12.33
3 シャーザー(ナショナルズ)12.30
4 ラメット(パドレス)12.13
5 ノラ(フィリーズ)12.11
8 ダルビッシュ(カブス)11.01

 9イニング当たりの奪三振数。9.00あれば奪三振が多いパワーピッチャーだとされるが、今季は両リーグともにこの数値が異様に高かった。記録サイトBaseball Referenceによれば今季ア・リーグ1位のシェーン・ビーバー(インディアンス)の14.20はMLB史上第1位、ナ・リーグ1位のデグロムの13.76は史上3位だ。

 ダルビッシュは以前のコラムでも触れた通り、通算でのK9では11.11でMLB史上1位だが、今季は8位にとどまった。

K/BBが示している抜群の安定感

<K/BB>
1 ヘンドリクス(カブス)
8.00(64三振8四球)
2 ダルビッシュ(カブス)
6.64(93三振14四球)

3 バウアー(レッズ)5.88
(100三振17四球)
4 デグロム(メッツ)5.78(104三振18四球)
5 ウッドルフ(ブルワーズ)5.06(91三振18四球)

 K/BBは奪三振数で与四球数を割った数値で。投手の安定感を示す指標として非常に重視される。ダルビッシュはカブスの同僚、ヘンドリクスに次いで2位。ライバルのバウアー、デグロムよりも良い。これはダルビッシュにとって重要なポイントだ。

<WHIP>
1 バウアー(レッズ)0.79
2 ラメット(パドレス)0.86
3 デグロム(メッツ)0.956
4 ダルビッシュ(カブス)0.961
5 ウッドルフ(ブルワーズ)0.99

 1イニング当たりの被安打、与四球による出塁数。MLB公式サイトにも載っている重要な指標だが、安打は「運」の産物という考え方が強まるとともに、以前ほどは重視されなくなった。この数値においてはバウアーが傑出している。

最も重要視される「WAR」を見てみると

 そしてWAR(Wins Above Replacement)は投手、野手の打撃、投球、守備の指標をすべて総合して数値化した指標。今、最も重要視されている指標だ。

 WARは記録サイトBaseball ReferenceとFangraphsがそれぞれ別の計算式で算出している。サイ・ヤング賞などの選出でも記者が最も重視している指標とされる。今季はBaseball ReferenceのWAR(rWAR)とFangraphsのWAR(fWAR)のランキングが大きく異なっている。

<rWAR>
1 フリード(ブレーブス)2.9
2 ウィーラー(フィリーズ)2.9
3 センザテラ(ロッキーズ)2.8
4 ガレン(ダイヤモンドバックス)2.8
5 バウアー(レッズ)2.7
6 ダルビッシュ(カブス)2.6
7 デグロム(メッツ)2.5

<fWAR>
1 ダルビッシュ(カブス)3.0
2 デグロム(メッツ)2.6
3 バウアー(レッズ)2.5
4 バーンズ(ブルワーズ)2.5
5 ラメット(パドレス)2.4

 rWARはどちらかといえば「量」より「質」を重視する傾向にある。1位には規定投球回数に達していないブレーブスのマックス・フリード(11試合7勝0敗56回50奪三振、防御率2.25)がいる。これに対し、より多くのイニング数を投げる投手を評価する傾向にあるfWARでは、ダルビッシュが1位になっている。

ポイント合計、ダルの順位は……

 レッズのトレバー・バウアーは、ここまで掲げた10項目の内9つで5位以内に顔を出している。

 これに次いでカブスのダルビッシュ有が8つ、メッツのジェイコブ・デグロムが6つだ。

 2年連続サイ・ヤング賞のデグロムは最終登板で5回自責点3と不調で成績を落としたためにやや分が悪い。デグロム本人も今年はやや不利と認めているようだが、最終的にはバウアー、ダルビッシュの争いとみる向きが多いようだ。

 10項目の1位に5点、2位に4点とポイントを振っていくと、ポイント計はこうなった(※編集註:NumberWeb以外のサイトでご覧の方は、関連記事のリンクよりご確認ください)。

 これで見てもバウアーとダルビッシュの接戦であることがわかる。

日本でも解説したバウアーの知的さ

 昨年12月、トレバー・バウアーは来日し、法政大学で行われた「日本野球科学研究会第7回大会」で自らの投球について解説した。

 彼はトラッキングデータを駆使して自分が望む回転数、回転角度の球種を開発したと語った。理論的で知的な説明には感心した。ダルビッシュもそうだが、今のMLBのトップクラスの投手は自身の投球を「デザイン」するレベルに達しているのだろう。

 サイ・ヤング賞は最終的には客観的な数字ではなく、記者投票で選ばれる。冷静で客観的な多くの数値に、人間臭い「感情」「印象」が加味される。

 最終結果を楽しみに待ちたいと思う。

文=広尾晃

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