先月25日、ショッキングなニュースが飛び込んできました。阪神で新型コロナウイルスの集団感染が発生。主力選手を含め、一軍・二軍で計19人の入れ替えが行なわれる事態となってしまいました。

 開幕前の時期に比べれば世の中も経済を回すことを考えた動きにはなってきていますが、他球団は感染者が出ていても数人の規模。感染した選手らは大人数で会食をしていたようですから、運、不運の問題ではなく、チーム全体が緩んでいたということです。

 ただでさえ3カ月遅れの開幕で、タイガースにとっては13連戦を控えたタイミングでもありました。離脱者が出れば戦力ダウンはもちろん、試合ができなくなっていたかもしれないわけですが、そういった自覚は選手たちにあったのでしょうか。とても残念です。

7年ぶりの「中継ぎ・藤浪晋太郎」は……?

 ただ、こうなってしまった以上、残された人間でなんとか戦っていくしかありません。この頃の試合を見ていると、プラスに考えられるところもありますね。ショートで結果が残せず二軍落ちしていた北條史也は、緊急昇格してからセカンドに回り好守を見せています。26日のヤクルト戦や29日の中日戦では得点も演出しており、しっかりとチャンスを生かしている印象です。

 特筆すべきは藤浪晋太郎でしょう。昇格後の初試合となったヤクルト戦、1-1の同点で迎えた5回に、新人の2013年以来7年ぶりのリリーフ登板を果たしました。6回先頭打者の村上宗隆に決勝ソロを浴びて敗戦投手になってしまいましたが、あの152kmの高め・真っすぐを打たれたら打った方を褒めるしかないですね。27日、29日の登板では勝っている展開で1イニングをきっちりと抑えていましたから、十分評価に値すると思います。

 矢野監督もしばらくリリーフ登板を続けると明言しているようですが、大賛成です。むしろ私は前々から「藤浪を中継ぎで起用せよ」と主張してきました。先発した試合を見ても、1イニングならしっかり投げられているわけですから、やらせてもいないリリーフをダメだと決めつけて二軍に落とすのはずっと疑問だったんです。二軍でいくら好投しても、既に一軍で実績のある選手が自信を取り戻すことはできません。だからこそ、一軍で再生させるための手立てを打つべきだと考えていました。結果的に今回、リリーフの枚数が足りなくなって動いたわけですが、もっと早くにやるべきだったと思っています。

 特に先発のリリーフ転向については、阪神には実績がありますからね。新型コロナでの離脱前に勝ちパターンを支えていた岩崎優もそうですし、最近だと岩貞祐太も中継ぎでの登板機会が増え、目に見えて投球が良くなってきました。藤浪自身にも「自分も」という気持ちがあったのではないでしょうか。

 もちろんあれだけの投手ですから、リリーフは一時的な措置として先発復帰を目指すべきです。ただ、失ってしまった自信を取り戻すには小さな成功体験を積み上げていくしかありません。中継ぎでも、1イニングずつ9試合に登板すれば1試合分。ロングリリーフなら3回で1点まで、というくらいの気持ちで、しばらくは気負いすぎずにやればいいと思います。

先発として名を馳せた投手にも“リリーフ経験”はある

 それに、リリーフ経験は先発投手としてやっていく上でも確実にプラスになりますよ。私自身、阪神にいたときは先発登板が245試合、中継ぎとしての登板が23試合と比重が大きく偏っていました。MLBに移籍するときはリリーフ経験を積みたいという気持ちもあり、結局100試合すべて中継ぎで投げたのですが、やって良かったなと思います。

 先発として投げているとどうしても完投だったり、いかに長いイニングを投げるかということばかりに囚われてしまいがちですが、中継ぎになるとワンポイントで起用されることもあります。普段とは違う目標が設定されることで、投手の評価基準は自分が思っている以外にも色々あるんだと実感できて、視野が広がるんです。斎藤雅樹さんや現広島監督の佐々岡真司さんら、先発として名を馳せた投手でもリリーフ経験のある選手は多いですし、両方やっておくことは後々に生きてくるはずです。

 今後しばらくはリリーフ・藤浪の登板機会があると思いますが、見てほしいのは結果よりもどう抑えたか。勝っていても負けていても、なるべくイニングを長く、なるべく球数を少なくということが実現できれば首脳陣からの信頼も増しますし、自分自身への自信、ひいては完全復活につながると思います。

 もちろんチームとしても彼一人に頼るわけにはいきません。優勝はさすがにかなり厳しくなってしまいましたが、球団全体でもう一度気を引き締めて、目の前の試合に全力を尽くしてほしいですね。

文=藪恵壹

photograph by Kyodo News