『The Two Ronnies』ならぬ“Two Thiagoes”。

 前者は、1970〜80年代に英国で人気を博したBBCテレビのコメディ番組で、ロニーという2人の主演男優は、番組のロゴにもなった度の強そうな眼鏡がトレードマークだった。

 後者は、もちろんこの9月に英国サッカー界でデビューを果たしたチアゴ・アルカンタラとチアゴ・シウバのこと。眼鏡なしでも抜群のピッチ上視野を持つ「2人のチアゴ」は、それぞれリバプールとチェルシーの新戦力として、単なる人気以上のインパクトを期待させる。

シャビ・アロンソと比較されがちだが

 T・アルカンタラのリバプール入りは、まだ噂だった時点からシャビ・アロンソが加入した当時と比較された。

 バイエルンでスパイクを脱いだアロンソとアルカンタラの間には、秀逸なパスセンスを持つスペイン人MFという共通点が存在する。個人的には、今夏にバイエルンから2000万ポンド(約27億円)で移籍した現役センターハーフは、2004年のアロンソ移籍を上回る影響を、リバプールとプレミアリーグにもたらすのではないかとさえ思っている。受け入れるチームの下地が、当時より格段に高いレベルで整っているからだ。

 16年前、ラファエル・ベニテス新監督がアロンソを迎えたリバプールは、極端な見方をすればスティーブン・ジェラードの「ワンマン」と言われても仕方のないチームだった。その9カ月後のCL決勝で「イスタンブールの奇跡」を起こすきっかけとなったゴールを決めたのもジェラード。欧州の頂点には立ったものの、集団としての力は、首位と37ポイント差の5位というプレミア順位の方が現実に近かっただろう。

 その点、T・アルカンタラは、良い意味で一際目立つ個人がいないチームに招かれている。

 リバプールは2015年から続くユルゲン・クロップ体制下で、一昨季は首位に1ポイント差のリーグ2位とCL優勝、続く昨季には2位に18ポイント、3位以下には33ポイント以上の差をつけてプレミア王者となっており、説明不要のワールドクラスのチームだ。

 GKのアリソン、CBのビルヒル・ファンダイク、3トップを構成するモハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネと、攻守両面でワールドクラスの「個」も揃っている。

中盤にも世界最高クラスがやってきた

 欲を言えば、リバプールは中盤にも世界最高クラスの人材がほしいところではあった。

 3センターの中核と言えるジョーダン・ヘンダーソンは、昨季にFWA(サッカー記者協会)の年間最優秀選手賞に輝いた実力の持ち主。またキャプテンとしてコロナ禍でのリーグ中断中に発揮したリーダーシップの観点からも、票を投じた記者は筆者だけではなかったはずだ。

 ただし、純粋にどの強豪でもレギュラーを張れるMFとは言い難い。その中盤に関する「欲」を満たしてくれる選手が、昨季CL決勝でもベストプレーヤーと呼べるパフォーマンスを見せたT・アルカンタラというわけだ。

 とはいえ、それほどのトップクラスであっても、生身の人間であることに変わりはない。

 コロナウィルス検査で陽性反応が確認され、本稿執筆時点では、移籍先での出場が9月20日のチェルシー戦(2−0)に限られている。

 当日はアンカーを務めていたヘンダーソンの怪我で、予定外に早く訪れた45分間だった。しかし、後半の頭から登場したT・アルカンタラの姿は、移籍2日後のプレミア初体験者としては「超人的」だった。

チェルシー戦で見せた「稀有な才能」

 毎分2本近いパスを放っていた計算になる絡み具合は、6割以上ボールを支配したチームの中でも最高。後半だけで、フルタイムをこなした相手選手も及ばない75本を通したパスには、意外性が目を引くパスもちりばめられていた。

 例えば、デビュー15分目に横パスと見せかけて前方に送った1本である。欺かれた相手は、まだ前線からのプレッシングが徹底されていないチェルシーにあって、即座にスイッチの切り替えができている部類のメイソン・マウントだった。

 ゼロトップの前線右サイドで先発していたMFが、パスの受け手との距離を詰めようとした時、T・アルカンタラは顔を右横のファビーニョに向けたまま、右前方で敵の2列目と3列目の間にいたサラーへとパスを届けた。

 試合後の指揮官は、新MFが持つビジョンを「稀有な才能」と讃えていたが、まさにその通り。この日はCBに回っていた守備的なファビーニョはもちろん、ロングパスが得意なヘンダーソンや、自ら持って上がれるナビ・ケイタとも異なる展開力が新たに加わったことになる。

サラーらにとっても大きなプラス

 もちろん、インサイドハーフでも機能するレギュラー級が加わったことで、MF陣がそもそも旺盛な競争意欲を一層掻き立てられていることは想像に難くない。

 サラーらFW陣は、量と質の両面でパス供給のさらなるレベルアップを予期して攻撃の意欲と自信を増しているに違いない。

 デビュー戦では、終盤に敵にPKを与えるファウルも犯した。とはいえすでに退場者を出していたチェルシーに2点差をつけ、ジョルジーニョのPKをアリソンが止めたこともあって何も問題はなしだ。

 国内各紙で、昨季4位に力の差を見せつけたと報じられた今季のリバプールは、昨季以上に強くなれるかどうかが注目されていたのだが、開幕早々、T・アルカンタラは、仮にPKで1点を失っていたとしても「さらなる進歩は可能なのか?」との問いに対する答えは「イエス!」だと思わせた。

チアゴ・シウバは失点に絡んでしまったが

 一方のT・シウバは、9月26日のウェストブロムウィッチ戦(3−3)で、「ノー!」と目を覆いたくなるミスから失点を招くプレミア・デビューとなった。自宅でテレビ観戦していた当チェルシーファンの携帯には、トッテナムファンの友人から「“元ワールドクラス”の獲得おめでとう」とのメールが入ってきた。

 とはいえ、フランク・ランパードは「チアゴの加入は素晴らしい成果をもたらしてくれることになる」という試合後コメントを残している。

 ユース出身の若手を使って育てるポリシーを持ちながら、その4日前に36歳になったブラジル人CBを起用――そんな監督の強がりなのかというと、そうは思えない。

 追う展開となった後半、4バックから3バックへの変更でFWのオリビエ・ジルーと交代するまでのパフォーマンスは、全体的に上々の73分間だった。

 コントロールを誤り、カラム・ロビンソンにGKとの1対1に持ち込まれた2失点目のシーンは突発的な事故のようなものだ。移籍後の会見でT・シウバは、ロングボールが主流だったかつてのプレミアには「惹かれなかった」と語っいるように、足元の技術を自負するCBである。

 実はプレミア初戦の3日前、バーンズリー(2部)に大勝(6−0)したリーグカップ戦でも、パスカットされてピンチを招きかけた場面があったのだが、いずれもミスの原因を挙げるとすれば、加齢による衰えではなく、衰えることのない足元への自信と言える。

 当人が、昨季までパリ・サンジェルマンの主軸として8年間を過ごしたフランスのリーグ・アンよりも、ミスが失点に直結する危険が高いプレミアで心を引き締めるための教訓と理解できる。

慌ててタックルせずに済む察知能力

 実際、ウェストブロムウィッチ戦でも、T・シウバのパス成功率は9割を超えていた。

 チェルシーは先制を許した数分後に同点の絶好機を手にする。タミー・エイブラハムのヘディングはバーの上を大きく超えてしまったものの、新CBの鋭いフィードに端を発してもいる。

 T・シウバにコントロールミスがあった場面では、必死になって身を投げた姿も普段は見られないものだった。

 DFの好プレーというと、土壇場でのスライディングタックルを想像する人がいるかもしれない。ウェストブロムウィッチ戦で相棒を務めた24歳のクリステンセンにも、その前のバーンズリー戦でコンビを組んだ22歳のフィカヨ・トモリにも、そういったシーンは見られた。

 だが、その手のタックルは、ポジショニングが悪かったことで必要に迫られるケースも少なくない。

 T・シウバはというと、慌ててタックルを繰り出す必要などない冷静な守りを身上とするCBだ。機動力が従来のままであるはずはない30代としては、事前に危険を察知して動く力が、より物を言う。

まるでデサイーを思い出す落ち着き

 バーンズリーが相手だったとはいえ、T・シウバは移籍後初戦からクールにインターセプトとフィードを繰り返した。その姿には、キャリア終盤に大物DFとしてやって来たばかりのリバプール戦で、ティーンエイジャーながら最盛期とも言えるマイケル・オーウェンとの対峙で「さすが」と感じさせた、マルセル・デサイーの姿を思い出した。

 今最終ライン中央にもたらす「落ち着き」は、躍動感のある攻撃を繰り出すとともに、守備の陣形が簡単に乱れるランパード体制2年目のチェルシーにとっては非常に重要だ。

 トモリ、クリステンセン、そして、身体能力の高さと昨季からの起用頻度からして、パートナーの第1候補と考えられる25歳のクルト・ズマらが、パニックに陥らずに守るためのノウハウをT・シウバから吸収して成長すれば、移籍金は発生せず、年俸も推定で500万ポンド台(6億円台)とチーム内で特別に高いわけではないベテランの獲得は、費用対効果も十分となる。

リーダーシップも発揮してくれれば完璧

 加えて、リーダーシップも発揮してくれれば完璧だ。

 パリ・サンジェルマンと、その前のACミランで計8度のリーグ優勝歴を持つCBは、若手の多いチームでは一目も二目も置かれる存在である。キャプテンで右SBのセサル・アスピリクエタは、攻撃面での威力に勝る20歳のリース・ジェイムズに先発を譲る試合が増えると予想され、経験豊富な新CBがキャプテンマークを付けるリーグ戦はウェストブロムウィッチ戦以降にも訪れるだろう。

 まずは行動で示すリーダーということになるが、週5日の英会話レッスンが進むにつれて言葉での統率もできるようになるはず。ウェストブロムウィッチ戦の翌々日に移籍が決まった新GKのエドゥアルド・メンディとは、現状でもフランス語で意思の疎通が可能だ。

 チェルシーには、ティモ・ベルナー、カイ・ハバーツ、ハキム・ジエシュという、合わせて移籍金1億5000万ポンド(200億円強)相当のタレントが前線に加わっている。

 しかし総額2億ポンド台の積極補強を経て、ノルマとされるトップ4フィニッシュとリバプールとの距離短縮は、プレミア開幕3試合で計6失点と、54失点を記録した昨季と変わらないペースでネットを揺らされていては実現が難しい。

 ベテランの新CBが、昨季存在しなかった最終ライン中央の要として守備の安定化をもたらせば――36歳の加入こそが今夏のチェルシーで最大の補強だと言える。

 T・シウバの契約期間を考えれば“Two Thiagoes”が見られるのは最大で2シーズン。その2年間に、クロップ率いるリバプールのさらなる進化がプレミア上位勢の水準をも引き上げ、その一角を成すランパードのチェルシーがリーグ優勝争いに参戦するというストーリー展開が楽しみだ。

文=山中忍

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