第70期王将戦の挑戦者決定リーグ2回戦、豊島将之竜王(叡王と合わせて二冠=30)と藤井聡太二冠(王位・棋聖=18)の対局は、終盤の逆転劇によって豊島竜王が勝利し、リーグ戦連勝を飾った。

 一方で藤井二冠は豊島竜王相手にまたしても敗戦し、通算対戦成績が6戦全敗に。また同リーグ戦でも「三冠」挑戦が厳しくなる連敗となった。

 戦型は「相掛かり」で進んだ今局、衝撃的な終盤戦となった。一時は藤井二冠が寄せの過程に入り、豊島竜王相手の初勝利が確実かと思われた。

豊川七段「秒読みは魔物なんですよね」

 しかし藤井二冠が勝機を逃すと、対局を中継した「囲碁将棋チャンネル」のAIによる評価値は豊島竜王、藤井二冠が一手指すたびに大きく揺れ動く状態に。両者持ち時間が限られる中で将棋の難しさを凝縮した大激闘になった。

 この対局を解説し、数々の“オヤジギャグ”で将棋ファンから愛される豊川孝弘七段が「秒読みは魔物なんですよね」とつぶやいたひと言は棋士としての実感がこもったものだった。

 最後は豊島竜王が辛抱強く自玉を守り、藤井二冠の攻めをかわして勝利をもぎ取った。藤井二冠はまたしても“豊島竜王の壁”を超えられなかったものの、171手の攻防には数多くのファンが固唾を呑んで見守ったことだろう。

“貴族”こと佐藤天彦九段が語ったこと

 Number1010号の将棋特集での佐藤天彦九段(32)と中村太地七段(32)の対談の未公開部分をWebで記事にしたが、そのなかで興味深いのは評価値に対して棋士が持つ印象だ。

<例えば、ある対局でお互いに「9割くらい、これは詰まない」という認識を抱いていたとしましょう。ところが、AIがある一瞬だけは詰む可能性があったと数値で示したとする。それによって「あそこでこうしていれば勝てたじゃないか」と終わった後で批判はできるんですけど、それは2人の世界の理の外にある選択なんです。(中略)人が築き上げた世界において、価値観を転覆しろと言われているようなものです>

 AIが示す最善手が常に画面に現れる状況について「評価値ディストピア」という表現も広まりつつある。豊島竜王と藤井二冠という超トップ棋士でも、そういったことが起こりうる――将棋の難しさを改めて示す対局となった。

文=NumberWeb編集部

photograph by 日本将棋連盟