2019-20シーズンはバイエルンにとってほぼすべてを勝ち取ったシーズンだった。

 欧州チャンピオンズリーグ、ブンデスリーガ、DFBカップそれぞれで優勝し、2012−13シーズン以来となるクラブ史上2度目の3冠を達成。最近では昨季ヨーロッパリーグ優勝のセビージャとの間で行われたUEFAスーパーカップを延長戦の末に勝利し、さらに1日にはドイツスーパーカップでドルトムントを撃破。それぞれタイトルを獲得している。

 加えて個人タイトルレベルでも欧州最優秀選手にロベルト・レバンドフスキがついに悲願の初戴冠。ちなみに最優秀FWとのダブル受賞だ。そして最優秀GKにマヌエル・ノイアー、最優秀DFにヨシュア・キミッヒ、最優秀監督にはハンジ・フリックが選出と、名実ともに欧州ナンバーワンクラブの座を確固たるものにしている。

 だが、そんな「もはや敵なし」と思われていたバイエルンが負けた。

33試合ぶり敗戦は衝撃の「1−4」

 セビージャとのUEFAスーパーカップからわずか3日後に行われたブンデスリーガ2節のホッフェンハイム戦で1−4の完敗。19年12月以来じつに33試合ぶりとなる敗戦だった。

 この負けが意味することはなんだろうか。

 長いシーズン、ハードスケジュールの合間に取りこぼすことはある。セビージャとのスーパーカップでは120分間を戦ったわけだが、試合後セルジュ・ニャブリはグラウンドに座り込み、しばらく動けなかった。

 ダビド・アラバは股関節をさすり、少し足を引きずるそぶりも見せていた。セレモニーも終わり、宿泊先であるブダペストのコリンティーナホテルに到着したのが深夜1時10分である。

 レバンドフスキは「僕らはそこまで祝うことはなかったね。みんな120分の試合であまりにも疲れていたから。土曜日にはホッフェンハイムに移動する。その間休みがない。本当だったら5日間はじっくり休みたいところだよ」と後日振り返っていたが、ホッフェンハイム戦では明らかに疲れを感じさせる選手が多く、普段の躍動感がなく、1対1の競り合いでも勝ちきれない場面が出てしまう。

「負けることもあるよね」といって、気にしないでおくわけにはいかないチーム事情が確かにあるのを感じさせた。今季はシーズン中、同じようなスケジュールがずっと続くのだから。

短期決戦だったCLと超絶強度のスタイル

 優勝までかけのぼった昨季チャンピオンズリーグの決勝トーナメントは、新型コロナウィルスの影響で、ベスト8からは本来のホームアンドアウェー形式ではなく、一発勝負のKOトーナメント形式に変更されていた。

 試合数が少なく、試合間隔もそこまで空かない。普段は長期スケジュールの中で行われる大会だが、昨季に関してはある意味W杯のような大会となっていた。

 ドイツ代表コーチとしてW杯優勝経験もあるフリック監督は、その特性をうまく利用したコンディション作りと戦い方を選んだ。90分間プレスの強度が落ちずに相手を追い込み続けるスーパーインテンシティのサッカーをやり遂げられたことは、CL優勝の大きな要因の1つだろう。

 短期決戦ならばそうした要所を押さえた選手起用と交代策が可能になる。アスレティックコーチのホルガー・ブロイヒによるコンディションコントロールは完ぺきだったので、主力選手は全試合で疲れを見せることなくプレーし通すことができていた。

新シーズンに向けての準備期間が……

 だが、そうした戦い方がシーズンを通していつでも、どんな時でもできるというわけではない。

 コロナの影響で普段より1カ月遅れでスタートしているために、今季のスケジュールはどのチームにとっても過密になっているが、そのなかでもバイエルンは非常に厳しい日程を戦い抜かなければならない。

 CL決勝後、新シーズンに向けての準備期間は例年より圧倒的に短い。徐々にコンディションをあげていく、という調整も難しい。

 本来プレシーズンに行われるUEFAスーパーカップとドイツスーパーカップがシーズンイン後に組み込まれ、さらに10月と11月には代表戦も組まれている。チャンピオンズリーグも始まる。12月までの3カ月間、ずっと休みなく週2試合のペースで試合があることになるわけだが、それで終わりではない。

 今季は冬休み期も短縮されているので、休息を取ることも、改めてコンディションを作り直すための時間も十分にはない。もし今季もCL決勝戦まで勝ち残った場合、5月29日まで実質戦い続けなければならないのだ。

ゴレツカが開幕前に鳴らした警鐘

 シーズン前に、主力に成長したドイツ代表MFレオン・ゴレツカが警鐘を鳴らしていた。

「僕らが考えられること、あるいは考えなければならないことは、自分たちのプレースタイルを変えなければならないかどうか。ここ数カ月間見せてきた自分たちのプレッシングスタイルを、シーズン通して休みなく過密日程の中でやり続けることは困難だ。他の引き出しを開けて、他の戦い方を見つけないと。それが今季のテーマになると思う」

 ドルトムントとのスーパーカップでは、前半にはある程度相手に攻めさせて、スペースができたところを攻め切るという形を見せていたが、それは1つのやり方として必要なバリエーションだ。カウンターから先制点。相手が意気消沈している間に2点目。完全に試合を掌握したと思われた。

 ただここから少し省エネモードになったところで自分たちのビルドアップでのミスから失点してしまったのはいただけない。2点目もボールロストから2人のCBがセンターを閉じる前に間をホランドに抜かれてしまう。

 ノイアーの好セーブがなければ、この時間帯で逆転されてもおかしくなかった。リーグ3節のヘルタ戦も2−0リードのままスムーズに逃げ切れず、追い上げを許している。最終的に終了間際に得たPKをレバンドフスキが決めて勝利をしたものの、4−3は苦しい結果だ。

セビージャが講じたバイエルン攻略策

 コンディション問題に加えて、対戦相手はバイエルン対策を練りに練ってきている。セビージャはバイエルン相手に素晴らしい試合を見せた。

 守備では選手間の距離を離れすぎず狭まりすぎず適度に保ち、バイエルン選手が後ろでボールを持ったら必ず誰かが寄せて簡単に起点となるパスを出させないようにする。

 守備ラインが足を止めずに、小刻みに上下動を繰り返しながら、バイエルン攻撃陣の裏抜けを警戒する。中盤では相手に前を向かせないようにボールが入ったら即座に収縮してボール奪取のチャンスをうかがっていく。

 すべてがハイレベルなバイエルン相手だとどれも高い集中力と高いインテンシティでやり通すことが求められるのだが、それをやり通せば善戦が可能だというのを世界中のクラブに示した意味は大きい。

チアゴ、コウチーニョらが去った中で

 いずれにしてもインテンシティを高め続ける戦いが難しくなる中、相手の対策をしのぎながら勝ち点を積み重ね続けていくためには、システムや戦い方を変更・調整しながら、選手起用やローテーションを適切に行っていかなければならない。

 これは今季フリック監督が挑戦しなければならない必須事項だ。そのためには選手の質と量が十分に備わっていることが重要になる。

 昨季メンバーからレンタル移籍組のイバン・ペリシッチ(→インテル)、コウチーニョ(→バルセロナ)、(→レアル・マドリー)がそれぞれ元所属クラブへ復帰。中盤の柱の1人だったスペイン代表チアゴ・アルカンタラはリバプールを新天地に選んだ。

 新加入のレロイ・サネが膝の負傷で数週間離脱。コマン、アラバ、ゴレツカ、ボアテンクは負傷がち。ズーレは十字靱帯断裂からの復帰でまだ完全復調というところまでは戻ってきていない。デイビスとパバール、ニャブリはまだ好不調の波がある。

 レバンドフスキ、ミュラー、キミッヒ、ノイアーの主軸は健在だが、もしここに1人でもけが人が出てしまったら?

 そこでハサン・サリハミジッチSDは選手補強のために移籍市場が閉まる直前に駆け込みでアクティブに動き、エスパニョールからマルク・ロカ、パリSGからエリク・マクシム・シュポ・モティン、マルセイユからボウナ・サール、そしてユベントスからドウグラス・コスタの獲得に成功。これで戦力は整った。さらにフリック監督は若手のクリス・リチャーズ、ハマル・ムシアラらも積極的に起用し、抱える選手層を最大限に活用していこうとしている。

「選手は成功を渇望している」

 簡単なシーズンにはならない。そんなことはわかっている。レバンドフスキは授賞式で「僕らが今一番上に立っていることをわかっている。来季はどのクラブも僕らを倒そうと挑んでくる。その準備をしていかないといけない。昨シーズン以上の挑戦となるだろう」と決意を新たにしていたが、これはまさにチームの思いを代弁しているのではないだろうか。

 誰もが5冠にも満足せず、さらに野心的にさらに成長するために取り組もうとしている。フリック監督も「バイエルンでプレーする選手は成功を渇望しているし、自分たちの実力を証明しようという意欲にあふれている」とチームの心構えに絶大な信頼をしている。

キミッヒのゴールにクラブのDNAを見た

 ドルトムントとのスーパーカップでキミッヒが見せた決勝ゴールは、まさにそんなバイエルンのDNAが見られたシーンではないだろうか。

 疲れが見えはじめた終盤、MFデラネイが一瞬見せた油断を見逃さず、猛然とプレスをかけてボールを奪取。素早く右サイドに走りこむレバンドフスキにパスを預けると、そのままゴール前に走りこんでいく。

 折り返しのシュートはGKにはじかれたが、前のめりになって倒れこみながら、必死に伸ばした左足でこのこぼれ球をゴールへと流し込んだ。

 飽くなき挑戦心。勝者のメンタリティ。苦しい時こそ、そんなバイエルンらしさを体現していかなければならない。2年連続3冠が現実的な目標かはわからない。それでもバイエルンは前人未到のチャレンジに真正面から立ち向かおうとしている。

文=中野吉之伴

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