プレミアリーグ、リーズ監督マルセロ・ビエルサの人柄と戦術を日本人唯一の“門下生”である荒川友康氏(FCトレーロス所属)が語るこの連載。第3回は8年ぶりの“名将対決”となったマンチェスター・シティ戦を戦術面から解説します。
後編「ビエルサ考案『4-1-1-1-3』の“ORIGINAL”な衝撃 『システムは10個』と豪語するワケ」もご覧ください。

 10月3日、エランド・ロード(リーズ・ユナイテッドの本拠地)で行われたリーズ・ユナイテッド対マンチェスター・シティは注目の1戦となった。

 マルセロ・ビエルサとペップ・グアルディオラという稀代の名将と呼ばれる2人の8年ぶりの再戦である。

 気温12度、冷たい小雨が降るヨークシャーで行われたリーズのホームゲームは、“美しい試合”と絶賛された2011-2012シーズンのリーガエスパニョーラ12節(アスレティック・ビルバオ対バルセロナ)、雨中のサン・マメスで行われたビエルサとペップの闘いの再現が期待された。

(https://number.bunshun.jp/articles/ー/844993?page=4 参照)。

 ホームのリーズのシステムは4-1-4-1という通常の形、マンチェスター・シティも4-3-3といつものシステムで試合に臨んだ。

「ビエルサは私がサッカー界で最も尊敬している人物」

 前節、レスターを相手に2ー5の大敗を喫していたペップにとっては負けられない1戦だった。最大のライバルであるリバプールとの差をこれ以上、広げるわけにはいかないとも考えていたはずだ。一方でリーズは昇格組ながら現在2連勝中と波に乗っており、その将はペップが師と仰ぐビエルサ監督である。試合前会見でペップは、最大限のリスペクトを感じさせる言葉でこう語った。

「ビエルサは私がサッカー界で最も尊敬している人物だ。監督としても、人間としてもね。彼のような存在は他に類を見ない。特にピッチ上での振る舞いや、メディアとの関わり方は学びになる。かつてスペインで彼と共に過ごすことができたことは、とても幸運なものであり、また刺激的でもあったね。

 ただ私の持つ理論は、彼の知識からは遠く及ばないように感じる。だから彼がプレミアリーグにいることは、良いプレゼントだと思っているよ」

 一方、ビエルサは試合前会見でこう語った。

「クロップはクロップ、グアルディオラはグアルディオラ、私は私であって単純な比較などできません。自分は決してペップの師匠ではない。

 1つ思うのがグアルディオラはサッカーに大きなダメージを与えた、と言うことです。なぜなら、グアルディオラと戦う多くのチームが、(システムも戦い方も)自分の目指すサッカーを実行する代わりに、"いかにして守るか"というシステムを作り上げてしまったからです」

 ビエルサは独特の言い回しでペップのサッカーを賞賛し、同時に現代サッカーに横たわる問題も指摘した。その示唆に富んだ言い回しは、シティ戦では自分は“違う”サッカーを見せるという意思表示にも聞こえた。

あらゆる事に対するリスペクトが必要である

 ペップとエル・ロコとの再戦はイングランド中でも注目の1戦となった。

 プレミアリーグでは試合開始前、選手がピッチに跪きBlack Lives Matter抗議運動への支持を示す。ビエルサもまた、ピッチサイドに跪き目を閉じた。その厳粛で敬虔な姿は、多様性とボーダレスな価値観で構成されているフットボールの世界では、あらゆる事に対するリスペクトが必要である、と語っているようでもあった。

 マンチェスター・シティはアグエロとジェズスという2人のCFを怪我で欠き、本来はWGであるマフレズをCFに配置してきた。しかし、他のポジションにはスターリング、デブライネ、ロドリ、ラポルト、メンディといった各国代表の主軸を担うスター選手をズラリと並べている。

 一方リーズは、チャンピオンシップ(イングランド2部)を戦ったメンバーが中心のスターティングラインナップである。変更点はマンチェスター・シティからのレンタル選手である左WG(ウィング)ハリソンが、契約上マンチェスター・シティとの試合に出場できないため、アリオスキを代役として起用したことくらいだった。

1対1のマッチアップを明確にする形にシステムを変える

 日本で唯一のビエルサ門下生である荒川友康が解説する。

「マルセロの4-1-4-1とペップの4-3-3は、システム論的には同義のシステムであると言えます。システム表記上のWGとSH(サイドハーフ)の位置が違うだけで、その役割はほぼ同じ。

 同じシステム同士の試合を『ミラーゲーム』と言います。ミラーゲームにおいてはミスマッチが生じやすく、基本的には能力の高い選手を揃えたチームが有利とされている。ミスマッチとはマンツーマンデイフェンスにおいて、マークすべき相手が不明確だったり、複数人になってしまう状態を指します。マルセロは対戦相手の強弱に関わらず、相手システムに合わせて自チームのシステムをトランスフォーム(可変)させて相手に『適応』させるという手法を取ります。1対1のマッチアップを明確にする形にシステムを変えるのです。

 マンチェスター・シティの3MFはアンカーにロドリ、インサイドハーフがデブライネとフォデンの2人で構成されています。それに対してリーズはロドリに対してロバーツ、デブライネとフォデンに対してはクリヒとフィリップスをマッチアップさせるシステムにトランスフォームしていました。つまりリーズは4-2-1-3にシステムを変えていたのです」

ビエルサはドリブラーを凄くリスペクトしている

 準備していたシステムでペップとの一戦に臨んだビエルサ。ところが試合開始からリーズはシティに圧倒されてしまう。

 先制点はペップのチームが奪う。17分、左SBのメンディはマッチアップするコスタを振り切りドリブルで中央に突進、右WGのフェラン・トーレスがボールを受け、左WGのスターリングにパスを出す。カットインしたスターリングはドリブルでリーズDF2人を振り切ると、逆サイドにコントロールシュート。先制ゴールを上げる。

「最初の20分はシティの選手の意気込みに圧される形で、リーズはDFラインを下げすぎていました。中盤が空いたところをSBに突かれてさらに押されるという展開が続いていました。

 実は先制点につながるドリブルをしたメンディはマルセロがマルセイユを率いていた時に在籍していた選手で、マルセロは『彼は偉大な選手になる』と着目していた。メンディは大柄なSBであり攻撃力も高い。まさにそのメンディがメガクラブにステップアップして、今回対峙することになったのです。

 先制点はメンディとスターリングのドリブル突破によって生まれました。

 意外に思われるかもしれないですが、マルセロはドリブラーを凄くリスペクトしています。『ドリブル程、効果的な攻撃方法はない』と語っていました。ドリブルで1人抜くと、別の相手選手がカバーリングを余儀なくされるので後ろが崩れて行きます。ドリブルはチャンスを作る最も有効な手段の1つで、シティの1点目はまさにドリブラーによって生まれました」(荒川)

リーズがボールポゼッション率52%を記録

 前半20分までは防戦一方だったリーズ。しかし、ビエルサのチームはリバプール戦で3度追いついたように果敢な反撃を開始した。

 試合当初はシティのポゼッション率が70%と圧倒されていたが、20分過ぎからはリーズがボール支配する時間が続く。終了間際の45分にはFKからのロングボールを、背走して追いかけたメンディがトラップミス、“ダイナミック”に走り込んでいた右SBエイリングがボールを掻っ攫うとGKと1対1のシーンを作るなど、決定機を作れるようになった。

 試合開始後は惨敗するのではないかと危惧される展開が続いていたが、見事に盛り返したのだ。

 前半、リーズは得点こそ奪えなかったがボールポゼッション率52%を記録する。

「今季、リーズの『反発力』には凄いものがあります。試合には必ず相手に主導権を握られる時間というものがありますが、そこでどう反発していくのかが重要となります。スター選手に臆さずポゼッションで盛り返せるというのは、マルセロの厳しい練習に耐えてきた選手たちに強い精神力が備わっていること、マルセロが目指すサッカーを心から信じてプレーしていることの証明だと思います。

 前半残り15分でリーズがポゼッションを回復出来たことが、後半の反撃に繋がったと私は分析しています」(荒川)

ドリブルと意外性のあるパスでサイドを崩す

 リーズのMFフィリップスは試合後のメディアインタビューでこう答えている。

「リーズのサッカーにおいて多くのプレーでボールが私を通過しますが、シティの選手は私を激しくマークしてきました」

 リバプール戦で美しいロングパスを通し、イングランド代表でも主力になりつつあるなど好調を維持しているフィリップスは全てのチームからマークされる存在となっていた。

 ポゼッションで盛り返したリーズは後半戦に臨む。

 リーズは後半開始から不調の左WGアリオスキに代えてポペダを投入する。ビエルサはポペダを右WGに入れて、前半活躍をしていたシティの左SBメンディとマッチアップさせた。そして右WGに入っていたコスタが左WGに回った。

 メンディは身長185cmで筋骨隆々、高い走力とテクニックを兼ね備えている。一方でポペダは身長165cmで細身と体格差は圧倒的だった。コスタでもマッチアップに苦労していたメンディに対してポペダで対応できるのか、と不安を感じさせる体格差である。

 しかしポペダは抜群のテクニックと、ビエルサが「見たことのないフィジカルを備える」と絶賛する俊敏性でメンディを翻弄する。巧みに身体を入れてボールを奪い、ドリブルと意外性のあるパスでサイドを崩し始める。

クラブ史上最高額3000万ポンドで獲得したロドリゴを投入

 ポゼッション率でもマッチアップでも優位に立てるようになったリーズに得点の予感が漂い始めた。

 さらに後半11分、ビエルサはロバーツに代えてロドリゴを投入する。

 クラブ史上最高額となる3000万ポンド(約42億円)で獲得したロドリゴは、現役のスペイン代表選手であり、経歴的にもリーズ最高の選手であると言えるだろう。しかし開幕のリバプール戦では途中出場で決勝PKを与えてしまい、第3節のシェフィールド戦では途中出場で投入されながら試合終了前に交代を命じられるなど辛酸を舐めていた。

「シェフィールド戦のロドリゴについて、非情な交代とメディアに書かれました。でも、決してロドリゴが不調だったわけではありません。試合終盤でシステムを3-4-1-2から4-2-1-3に変更するために2トップで起用していたロドリゴを下げ、左SBにアリオスキを投入したのです。あくまで戦術的な交代だったと、私は分析しています」(荒川)

 この試合では本来のポジションであるFWではなくMFとして起用されたロドリゴは、とうとうそのポテンシャルを発揮する。

リーズのカウンターアタックを見事に演出

 投入直後の後半12分、左サイドからドリブルでペナルティエリアに侵入したロドリゴはシティDFディアスをかわし、ニア上を正確に狙ったシュートを放つ。GKエデルソンは俊敏な反応をみせ、指先で辛うじてボールを弾き出す。

 自らのプレーで得たCK、こぼれてきた球を蹴り込んだロドリゴは、移籍後、初ゴールを決めた。

 その後も、バーぎりぎりを狙ったコントロールされたヘディングシュートを放つなど、ロドリゴはその大きな才能を見せつける活躍を披露する。彼のインテリジェンスを感じさせたのがシティのコーナーキックの場面だった。映像を見るとペナルティエリア内のロドリゴが、首をさかんに振って敵、味方の配置を確認している様子を確認することが出来る。彼は守備だけではなく、カウンターの為の準備もしていたのだ。そしてCKのボールがペナルティエリア内でこぼれるや否や、ロドリゴはボールを素早く拾い前線のポペダにパスを展開する。リーズのカウンターアタックを見事に演出したのだ。

「このように試合のポイントとなったのがポペダとロドリゴの投入だったと思います。ポゼッションを回復し、プレスも効き始めた中で、途中交代の2人の活躍で決定機も増えたことで、ゴールが生まれた」(荒川)

ペップの「インテリジェントな策」とは?

 前半活躍したメンディはポペダ投入により交代に追い込まれることとなった。ペップはまず71分にメンディに変えて守備的な選手であるアケを投入。77分にはFWのマフレズに代えて、守備的MFのフェルナンジーニョを投入した。攻めのカードを切ったビエルサに対して、守備のカードでペップは劣勢を押し返そうとしたのだ。

 ビエルサは試合後の記者会見でこう語った。

「フットボールにはいろんな分析の方法がありますが、私は2つの大きな要素があると考えています。『ボールを奪われないこと』と、『ボールを奪うこと』です。

 立ち上がりのリーズは全くボールが奪えないばかりか、簡単にボールを失い過ぎていました。その後、アグレッシブにボールを奪うことが出来るようになってから、少しずつ上手くいくようになりました。しっかりとした守備が出来て、初めて攻撃も上手く行くようになるものなのです。

(終盤に)ペップは守備的な選手交代(フェルナンジーニョ)をしました。これはインテリジェントな策だったと感じます。フェルナンジーニョの投入によって、シティはゲームを支配し直しました」

 リーズもシティも最後まで攻める姿勢を貫いたことが、ゲームを魅力的なものにした。

 再び雨中の名勝負となった試合は1-1の引き分けで終わる。

ポゼッション率で上回った“史上7番目”のチーム

「現代サッカーにおいてはエンターテイメント性よりも、結果ありきのサッカーが優先されています。負けている時はもちろんのこと、勝っていても攻めるのがマルセロのサッカーです。相手が格上のシティで同点であろうとも、最後までアグレッシブに攻め続けた。その勇気や姿勢は、ゲームを見るもの皆を熱くさせました。ペップもまた、最後まで攻め続けました。まさに手に汗握る試合とはこのことで、従来のサッカーとは全く“別物”であると多くの人にも理解してもらえた試合だったと思います」(荒川)

 試合を通じてのポゼッション率はリーズ52%に対してシティは48%。圧倒的なボール支配率とパスワークを武器に試合を支配するペップのチームに対して、リーズはポゼッション率で上回った“史上7番目”のチームとなった。ペップが12年間指導しているなかで、ポゼッションで上回られたのがヘタフェ、ドルトムント、リバプール×2、ウォルバーハンプトン、チェルシー、そして今回のリーズの7回だけなのだ。

 昨シーズンの1試合あたりの平均ポゼッション率(2019/20シーズン)は、ビエルサのリーズ(当時はチャンピオンシップ所属)が64.1%に対して、ペップのシティは62.4%であった。2部リーグと1部リーグの違いはあったにせよ、ビエルサのチームが高いポゼッション率を保っていたことが数字からも伺える。

 そして今回、エル・ロコは直接対決でも堂々とポゼッション率でペップのチームを上回って見せたのだ。パス本数でもリーズが425本(うち成功が350本)に対しシティが380本(うち成功が313本)と上回る。

 試合後ビエルサは「どちらが勝ってもおかしくなかった。ただもし、我々が勝っていたら公平な結果とはいえなかったでしょう」と謙虚に語った。しかし、いわば“判定勝ち”という内容で、リーズはシティから勝ち点1を手に入れた。両者の選手の質を考えると、これは驚異的な事実ではないだろうか。

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荒川友康(あらかわ・ゆうこう)

サッカー指導者。アルゼンチンで複数のチームや滝川第二高校での指導を経て、ジェフ千葉・育成コーチ、京都サンガ・トップチームコーチ、FC町田ゼルビアトップチームコーチなどを歴任。ビエルサのみならず、Jリーグでもアルディレスなどの名将の元で働く。アルゼンチンサッカー協会認定のS級ライセンスを所持。FCトレーロス所属。

文=赤石晋一郎

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