「今年の沢村賞は巨人・菅野智之の3回目の受賞で決まりだろ」

 シーズンも最終盤に差し迫り、そろそろそんな声が聞こそうだったが、菅野が10月13日に6回自責点3で初黒星を喫して、ライバルの中日・大野雄大が翌14日に今季5度目の完封勝利を記録したことで、にわかに状況が変化してきた。

 先発投手は6〜7試合に1度しか登板しない。一度失敗すれば、数字が大きく変わる。菅野ファンには申し訳ないのだが、沢村賞レースは目が離せなくなってきた。

 沢村賞には数値の基準がある。
・登板試合数 (25試合以上)
・完投試合数 (10試合以上)
・勝利数 (15勝以上)
・勝率 (6割以上)
・投球回数 (200イニング以上)
・奪三振 (150個以上)
・防御率 (2.50以下)

 試合数が変わり、投打のバランスも毎年変化する中で、この基準の妥当性に疑問を呈する声もある。特に今年は試合数が143試合から120試合に減っているので、この数字をそのまま当てはめることはできないが、沢村賞選考委員はこれを目安にしている。

 さらにQS(Quality Start)数も選考基準としている。先発投手の最低限の責任とされ、MLBでは6回以上自責点3以下だが、沢村賞では7回以上自責点3以下となっている。

 これらの各指標の現時点でのランキングを見てみよう。数字は10月18日時点。セ・パ両リーグを通じた各部門の5傑(複数人の場合は1〜5位タイまで)である。

大野、菅野のそれぞれ圧倒的な数字は?

〇登板数(25試合以上・先発)
1西勇輝(神)18
1有原航平(日)18
1ニール(西)18
3菅野智之(巨)17
3山本由伸(オ)17
3石川歩(ロ)17
3美馬学(ロ)17
3大野雄大(中)17
3青柳晃洋(神)17
3涌井秀章(楽)17
3小川泰弘(ヤ)17
3小島和哉(ロ)17
3田嶋大樹(オ)17

 沢村賞の「試合数」とは、「先発数」のことだ。怪我なくローテを維持すれば現時点では17〜18試合となる。最終的には20〜22試合。今季、沢村賞の基準25試合をクリアする投手はいないと思われる。

〇完投数(10試合以上)
1大野雄大(中)9
2西勇輝(神)3
2有原航平(日)3
2菅野智之(巨)3
5石川柊太(ソ)2
5大瀬良大地(広)2

 完投数では中日の大野が圧倒的である。そして現在も36イニング無失点を更新中だ。この部門では菅野は全くかなわない。大野は沢村賞の完投数基準を、ただひとりクリアする可能性がある。

〇勝利数(15勝以上)
1菅野智之(巨)13
2涌井秀章(楽)11
3西勇輝(神)10
4大野雄大(中)9
4大貫晋一(De)9
4美馬学(ロ)9
4小川泰弘(ヤ)9

 菅野が圧倒的で、120試合制ながら基準の15勝すらクリアする可能性も高い。ただし勝利数はチーム成績と連動している部分が多く、投手そのものの実力をそのまま反映しているとはいいがたい。

山本由伸の図抜けた数値はもちろん……

〇勝率(6割以上) ※7勝以上の投手
1菅野智之(巨).929/13勝1敗
2東浜巨(ソ).889/8勝1敗
2和田毅(ソ).875/7勝1敗
4涌井秀章(楽).786/11勝3敗
5森下暢仁(広).727/8勝3敗

 ファンの中には今年の菅野は2013年の楽天、田中将大(24勝0敗)のように、勝率10割でシーズンを終えると思っていた人も多いのではないか。そういう意味で10月13日の黒星は衝撃的だった。もちろん今でも優位は変わらないが、絶対的とまでは言えなくなった。

〇投球回数(200回以上)

1西勇輝(神)132回
2大野雄大(中)126.2回
2菅野智之(巨)120.1回
4有原航平(日)121.2回
5山本由伸(オ)119.2回

 今季、200回をクリアする投手は出ないだろう。試合数が少なくなっただけでなく、日程も詰まったことから、先発投手の負担軽減のために早めに降板することが多くなった。阪神の西がトップだが、大野、菅野、山本も今後、イニング数を増やすので大きな差ではない。

〇奪三振(150個以上)
1山本由伸(オ)139
2大野雄大(中)128
3千賀滉大(ソ)123
4菅野智之(巨)113
5森下暢仁(広)112

 オリックスの山本が頭ひとつ抜けている印象だ。山本のK9(9イニング当たりの奪三振数)は10.45。両リーグの先発投手では唯一となる「10超え」となっている。

〇防御率(2.50以下)
1大野雄大(中)1.92
2菅野智之(巨)2.02
3西勇輝(神)2.05
4山本由伸(オ)2.18
5森下暢仁(広)2.21

 13日の登板前まで、菅野は両リーグでただ1人防御率1点台(1.89)をキープしていた。しかし現時点では大野と大差がなくなった。また4位の山本くらいまでは、1試合好投すれば追いつく差でもある。

 防御率は古典的な数値だが、今も重視されている。この数値でトップに立つ意義は大きい。

8項目をすべてランキング化すると

〇QS(7イニング以上投げて自責点3以下)
1菅野智之(巨)12
1山本由伸(オ)12
3西勇輝(神)11
3大野雄大(中)11
5有原航平(日)10

 10月13日のソフトバンク戦で、オリックスの山本は31イニング連続無失点が途切れ、敗戦投手になったが8回自責点1、QSを12にして菅野と並んだ。

 以上の8項目について、1位を5点、2位を4点、3位を3点……とポイントを付けていくと以下のようなランクになった(※編集注:Number Web以外の外部サイトでご覧の方は、記事末尾の関連記事「【写真&表】沢村賞ランキング&若き日の菅野、大野、西らの熱投はこちら!」よりご確認ください)。

もしセ・パで分けて選ぶとするなら

 沢村賞の指標すべてでポイントを稼いでいる菅野がトップだ。

 巨人のセ・リーグ優勝は動かないところだから、その「印象度」も含めて菅野の優位は動かないが、2018年のように菅野が圧倒的とまでは言えない。イニング数、完投数など「量」の数字では中日の大野雄大が菅野を上回っている。

 これに次いで大野が7つの指標でポイントを稼ぎ、またとりわけ目立つ活躍というわけではないものの、阪神の西勇輝も6つの指標で上位につけている。大野、西ともに調子は上向きだ。

 もしサイ・ヤング賞のように、セ・パ両リーグで沢村賞を選ぶとすれば――パ・リーグではオリックスの山本由伸と楽天の涌井秀章の争いになろう。当初は涌井が優位だったが、終盤にかけて山本が追い抜いた感がある。

MLBが重視する2つの指標を見てみると

 最後に、沢村賞の指標ではないが、MLBが重視するK/BB(奪三振数÷与四球数)と、PR(ピッチングラン、リーグ平均防御率-その選手の防御率×投球回数÷9)の5傑を出しておこう。ともに投手の「投球の質」を浮き彫りにする指標だ。

〇K/BB 80イニング以上

1大野雄大(中)6.40
(128奪三振20与四球)
2菅野智之(巨)5.38
(113奪三振21与四球)
3西勇輝(神)4.57
(105奪三振23与四球)
4秋山拓巳(神)4.42
(53奪三振12与四球)
5有原航平(日)4.04
(101奪三振25与四球)

 大野が菅野を1ポイント近く引き離しており、投球の安定感では大野が一歩リードしているといえるだろう。最多奪三振139のオリックス、山本由伸は与四球が36と多く、K/BBは3.86で7位になっている。

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1大野雄大(中)28.70
2西勇輝(神)28.00
3菅野智之(巨)25.93
4山本由伸(オ)22.98
5森下暢仁(広)20.54

 こちらの数値は、先週の段階では菅野が1位で、大野、西が僅差で続いていたが今週は菅野が3位に転落。数字的な客観的評価としては菅野が断然の1位とは言えなくなっており、4位の山本までが候補だと言えるだろう。

 あと20試合前後、沢村賞レースは毎日のようにランキングが入れ替わるだろう。ペナントレースとともに注目したい。

文=広尾晃

photograph by Kyodo News/Kiichi Matsumoto