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 青いユニフォームを着た23人の男たちが、ベルリンの空に黄金のトロフィーを掲げてから14年が経った。06年ドイツW杯で優勝したイタリア代表選手たちは、鉄人ジャンルイジ・ブッフォンを除く全員が引退し、その多くが指導者という新たな道を歩んでいる。

 20年の晩夏、アズーリの司令塔だったアンドレア・ピルロのユベントス監督就任は、内外に大きな衝撃を与えた。指導者経験ゼロで9連覇王者のベンチにいきなり登用される前代未聞の大抜櫂。

 最初の会見で「決まった戦術はない」「昨季のチームに消えていた熱を取り返す」とスローガンを打ち出し、迎えた開幕戦を3−0で快勝。続く2節ローマ戦では退場者を出し苦しい試合運びながらロナウドの2発で何とかドローに持ち込んだ。

 地元紙やアンチユーベ派からは早くも手厳しい意見が出ているが、世界を制した天才レジスタが監督としてどう成長していくのか、行く末を楽しみに見守る層も少なくない。

“出世頭”ガットゥーゾ、帰還したインザーギ……

 栄光の06年組は23人。そのうち、指導者に転身した者は16人にも上る。彼らの中で、現時点での出世頭はナポリ監督ジェンナーロ・ガットゥーゾだろう。昨季のコッパ・イタリアで優勝し、監督として初タイトルを獲った。勝負師であるだけでなくスタッフを労り、戦術研究も熱心。もはや根性論だけではないと評価も上昇中だ。

 今季のセリエAには“スーペル・ビッポ”も還ってきた。14年、ドイツW杯王者組の中で最も早くセリエA監督になった彼だが1年限りであえなく解任、挫折も誰より早かった。3部から再起し、昨季は地方クラブのベネベントを率いて2部優勝。インザーギには「ミラン監督としてCL優勝」という明確な夢がある。これだけは譲れない。

 元ミラン組はセリエBでも切磋琢磨する。スペツィアに敗れ、昇格をあと一歩で逃したフロジノーネ(セリエB)の指揮官アレッサンドロ・ネスタは今季こそ昇格を目指す。すでにウディネーゼでセリエA指揮経験もあるマッシモ・オッド(ペスカーラ)とプレーオフで雌雄を決する可能性もあるだろう。

「W杯王者」という肩書は世界中どこでも通用する。主将だったファビオ・カンナバーロは中国や中東といった広大なアジアの監督に特化した感がある。アルゼンチンからの帰化選手だったマウロ・ヘルマン・カモラネージは国境を易々と飛び越え、メキシコやスロベニアで指揮を取っている。

「君たちならできる」恩師リッピの教え

 ただし、月見草に甘んじる元世界王者がいることも確かだ。アルベルト・ジラルディーノは4部アマリーグで土のグラウンドを前に選手の怪我を心配するし、ビンチェンツォ・ヤクインタに至っては父親とともに武器の不法大量所持を巡って刑事裁判にかけられ、ライセンス取得後一度もコーチ業をしたことがない。

 スパイクを脱いだ今、彼らは一人ひとりがチームの浮沈を背負う。勝利の喜びは一瞬、クビの危険とは常に隣り合わせ。「指導者」と「選手」とは異なる仕事なのだと改めて考えさせられる。

 それでも、彼らの師である名将マルチェロ・リッピは、教え子たちの将来を全く悲観していない。

「(ベルリンでの戴冠後)私は選手たち全員に言ったのだ。『将来、君たちそれぞれが何か大きなことを成し遂げようとするだろう。君たちならきっとできる。必ずできる。君たちは最高だ』と。

 アンドレア(・ピルロ)は必ず成功する。レアル・マドリーで成功したジダンと同じように、ビッグクラブという組織の哲学を知り、どう物事が動くかすでに熟知しているからだ」

23人だけのチャットグループ

 指導者大国イタリアが誇るナショナル・トレセン主催の今年度監督ライセンス講習は、コロナ禍の影響で遅れて9月下旬から始まった。新受講生リストの中には今年1月、南米アルゼンチンで現役引退したダニエレ・デロッシの名もある。「ボカ・ジュニオルスの監督になる」という壮大な夢を胸にコースヘ挑む彼がライセンスを取得した暁には、“ドイツ優勝組”指導者は17人にもなる。

 一番早くスクデットを獲るのは誰か。イタリア代表監督になるのは。世界のてっぺんを分かち合った男たちはサッカー界の荒波の中で勝って笑い、負けて泣く。絆は太い。彼らは会話アプリで23人だけのチャットグループを持っている。

 そうそう、あのアズーリの10番を忘れるところだった。今年になって急に代理人業を始めたフランチェスコ・トッティは、ライセンスを持っていない。

 もちろん講習には通った。だが彼が座学にじっとしていられるはずがない。たった1カ月通っただけで中退した。彼はファンタジスタなのだ。

 トッティは恩師リッピとともに、監督になった戦友たちを外野から温かく見守るのだろう。

文=弓削高志

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