4回連載にまとめて、外野手、内野手、捕手、投手の順に、今年のドラフト注目ベスト3をポジション別にお伝えする。今回は捕手編(全4回の3回目/外野手編、内野手編、投手編へ)。

 ウチは「捕手」はいらない……今、そんなセリフが吐ける球団があるだろうか。

 たとえば1970年代なら南海・野村克也、巨人・森昌彦(祇晶)をはじめとして、阪神・田淵幸一、中日・木俣達彦、ヤクルト・大矢明彦、近鉄・梨田昌孝、有田修三……「チームの顔」ともいえるレギュラーマスクが君臨していて、子供でもスラスラとその名前を挙げられたものだ。しかし、今は、大人の野球ファンでも、なかなか名前が出てこないのが、残念でならない。

 どうしてだろうか……? 何度も考えたことがあるのだが、身体能力だけで獲り過ぎるのか、「捕手」にうってつけの粘り強く、しつこく、人のウラをかくのが大好き……そんな人格を生み出しにくい社会になっているのか。答えはいまだに出ていない。

 日本のプロ野球が、「捕手」から崩壊していかないことを祈るばかりである。

捕手編(1)日大藤沢高・牧原巧汰(174cm78kg・右投左打)

 今年の捕手のイチオシは「高校生」だ。

 打てて守れて、聞きたがりの知りたがり……内面まで合わせて、チームの顔的レギュラーマスクになれる資質を搭載した“逸材”が、日大藤沢高・牧原巧汰捕手(174cm78kg・右投左打)だ。

 昨年春の神奈川県大会、平塚球場のライトポールはるか上空に真っすぐに伸びて、そこからギューンと右にきれて見えなくなった打球に、「2年生でなんだこりゃー!」と驚いた。

 さらに、スローイングだ。左腕のシュート回転が左打者の膝元に。ミットの逆になる捕手が最も嫌がるコースを、捕球した次の瞬間、もう送球動作に入り、スタートをきっていた一塁走者をものの見事に刺してみせた。初めて見たマジックのような捕球→送球の連動……どんな手を使ったんだと、しばらくは唖然とするほど驚いたものだ。

 あとで雑誌の取材で訊いたら、山本秀明監督から仕込まれた「企業秘密」のワザだった。お願いして教えてもらったワザの中身は、この春だったか、この連載コラムでご披露させていただいた。

 待ち望んで出掛けた自粛明けの練習試合。インパクトが見えにくいほどのスイングスピードはそのままに、相手投手の勝負球・チェンジアップにタイミングを崩されながら、スイングの軸はずらさずに股関節とヒザの柔軟な追従でボールをとらえ、ライト95mのフェンス上空へライナーで持っていった時には、また驚かされた。

「野球について、捕手について、彼ほど探究心を持った選手はなかなかいない。1つ話すと、次はなんですか?って顔で話を待っているぐらいですから」

 激戦・神奈川の社会人野球で長く捕手として鳴らし、捕手には辛口の山本監督が太鼓判を押す。彼を指名しなかった球団が何年かして、「どうしてあの時……」と地団駄を踏むようなレギュラーマスクになれる。それぐらいの存在と見ている。

捕手編(2)立命館大・栄枝裕貴(178cm80kg・右投右打)

 大学生にも、将来のレギュラーマスク候補が何人かいる。そういう意味では、今年は捕手の人材が豊富な年になりそうだ。

 立命館大・栄枝(さかえだ)裕貴(178cm80kg・右投右打・高知高)の「肩」は本物だ。捕手の「いい匂い」がする……そこも本物だ。

捕手編(2)立命館大・栄枝裕基(178cm80kg・右投右打・高知高)

 栄枝捕手のスローイングスピードと二塁ベース上方を突き抜けるような送球の勢いは、今のプロ野球でもトップクラスだ。投手仕様のしなやかな腕の振りだから、1年間故障なくプレーを続けられるタイプだろう。

捕手編(3)上武大・古川裕大(183cm88kg・右投左打)

 実は、走攻守三拍子揃いの捕手も、今年は大学球界に1人いる。

 しかも、学生ジャパン代表の常連のような存在だったのが、上武大・古川裕大捕手(183cm88kg・右投左打・久留米商高)だ。

 強豪大学のレギュラーマスクとして「全国」の舞台も何度も踏んで、海外大会の経験も積んで、リーグ戦通算4割を超える高打率と強肩。50m6秒そこそこで走るスピードもあって、あのサイズだ。

 持っている“ピース”を挙げていけば文句なさそうな捕手なのだが、物足りないとすれば、さっき栄枝のところで出てきた「捕手の匂い」というやつだ。

捕手編(3)上武大・古川裕大(183cm88kg・右投左打・久留米商高)

 古川には、たとえば三塁手とか、捕手以外の可能性が感じられて仕方がない。

 あの均整抜群の雄大な体躯で「ホットコーナー」を守らせたら、かっこいいだろうなぁ……、捕手以外のポジションで長所のバッティングをさらに伸ばしたほうが、野球界のため、本人のため。高校時代や大学の下級生時代に、一塁手を鮮やかにこなしていた姿を実際に見てしまっているだけに、余計そんな妄想にとらわれている。

捕手編(隠し玉)加茂暁星高・荒木友斗(174cm88kg・右投右打)

 捕手の「隠し玉」というのは、毎年結構何人かは見つけているもので、そこまでしつこく“キャッチャー目線”にこだわっているわけでもないのだが、結果として、この目線に何人か引っ掛かってくるというのが現実だ。

 今のプロ野球でいえば、明治大・坂本誠志郎は「2位」で阪神に指名されて驚いたが、亜細亜大・嶺井博希(現・DeNA)にホンダ鈴鹿・柘植世那(現・西武)、京都翔英高・石原彪(現・楽天)、たぶんこの選手は捕手しかやったことないだろな……、捕手しか似合わないだろな……そういう選手が、実によい「匂い」を発散してくれるのだ。

 今年は、そういう匂いのする隠し玉を夏の「合同練習会」で見つけた。12球団のすべてがそのプレーを見たはずだが、この選手の“輝き”を感じることができたのは、おそらく「捕手出身」のスカウトだけだろう。

 加茂暁星高・荒木友斗(174cm88kg・右投右打)。打者の後ろでミットを構えた姿がいい。後ろから見ると、荒木捕手の体全体が“ミット”になっている。別の言い方をすれば“カエル”。顔とミットを近づけて構えられている。

捕手編(隠し玉)加茂暁星高・荒木友斗(174cm88kg・右投右打)

 捕手の「構え」とは「念じること」だ。ミットを構えて、「ここへ放れよ〜ここへ放れば打ち取れるからな〜」と念じることだ。念ずれば、自然と、ミットと顔は近くなる。人が神仏に祈る――真剣な祈りほど、合わせる両手は自然と顔の前になっているはずだ。そういう意味では、捕手の構えは「祈り」とも言えるかもしれない。

 荒木友斗はさらに、スローイングがすばらしい。捕球時の低い頭の位置が、頭一つぐらい高くなるだけ。どっしりした下半身の割れとフットワーク、体重移動で投げられる。

 後で聞いて驚いた。本職は外野手だという。この合同練習会で、長所の「強肩」をアピールするために、独自大会後、捕手の練習を一生懸命に積んで臨んだという。

 実質1カ月かそこらの「捕手経験」。にもかかわらず、白い糸を引くような送球が二塁ベースに集まる。<強肩自慢>なら、もっと力任せになりそうなものだが、捕手のスローイングに大切な二塁ベース上にポンと置こうとする意識が見える。見事なスローイングが続く。

 バッティングだって悪くない。時おり、引っ張りたがりの強引さが見えるが、それはこうした「オーディション」に付き物の気負いや力みだ。それをすぐに修正した時はインパクトの音が変わる。腕っぷしが強くて、インパクトの瞬間に明確な「力点」を作れるスイングの持ち主だ。

 12日に引退表明した広島ひと筋19年目の捕手・石原慶幸の東北福祉大1、2年の頃がちょうどこんな感じだった。よい匂いのするキャッチャー、キャッチャーしか似合わない男が、また1人グラウンドを去る。「その男」になるのは容易なことじゃないが、追っかけて行ってみてほしいヤツが1人、新潟に隠れていたのだ。

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文=安倍昌彦