NBAの2019-20シーズンは、ロサンゼルス・レイカーズの優勝で幕を閉じた。ファイナルMVPに選ばれたレブロン・ジェームズにとってレイカーズに移籍して2シーズン目での優勝で、レイカーズにとっては10年ぶり、17回目の優勝だ。コロナ禍で、ファンは優勝の瞬間をスタンドから見ることができず、優勝パレードも安全に開催できるようになるまで延期と発表されているが、それでも、しばらくプレイオフからすら遠ざかっていた名門レイカーズが復活し、ファンは歓喜に沸いている。

 そんなレイカーズのファンについて、NBAファイナル中に、レブロンが興味深いことを言っていた。2シーズンの間、レイカーズの一員として活動して、レイカーズについて学んだことは何かと聞かれたときの答えだ。

「ひとつ学んだことは、レイカーズの忠実なファンは、レイカーズに来る前のことはまったく気にかけてもいないということだ。レイカーズの一員となり、そこで何かを成し遂げるまでは認めることはない。レイカーズに入る前の経歴は気にもしていない。レイカーズとして成し遂げることでリスペクトしてくれる。それを学んだ」

「レイカーズのファンにとって大事なのは」

 レブロンとレイカーズ・ファンの関係は、始まりから少し複雑だった。2年前の夏にレブロンが移籍先としてレイカーズを選んだとき、レイカーズ・ファンの大半は喜んだ。2013年にコービー・ブライアントがアキレス腱を断裂して以来、低迷し、迷走し、スーパースターとは縁遠かったレイカーズにとって、まさに救世主の到来だった。

 しかし一方で、レブロンといえばコービーと、かつてリーグのトッププレイヤーの座を争っていたライバルだ。そのために手放しで喜べず、複雑な思いだったファンも多かった。

(C)Getty Images

 そんなファンの声を聞いたコービー自身は、当時ラジオに出演したときに、こう言ってレブロンをサポートしていた。

「僕のファンなら、レイカーズのファンで、勝利を求めているはずだ。僕自身、小さいときからレイカーズ・ファンで、身体には(レイカーズのチームカラーの)パープル&ゴールドの血が流れているからわかる。レイカーズのファンにとって大事なのは優勝することだ。だから、みんなすぐに(レブロンを)応援するようになるさ」

「レブロンの全盛期は過ぎたか…」疑問の声も

 しかし、コービーのそんな太鼓判に反して、レブロンのレイカーズでの1シーズン目は、結果が伴わなかった。開幕直後こそ好調だったが、クリスマスデーの試合中にレブロンが鼠径部を負傷したことで暗転。レブロンは約1カ月間欠場した後に復帰したが、完調とは言えず、経験が浅い若手が多かったチームはプレイオフを逃した。期待が大きかっただけに、ファンの間からも、レブロンはもう全盛期を過ぎたのではないか、今の彼ではレイカーズを優勝に導くのは難しいのではないかという疑問の声も聞かれたほどだった。

 レブロンが、レイカーズのファンにとってはチーム加入前の実績はまったく関係なく、レイカーズとして結果をあげないとリスペクトされないと言ったのも、そんな1シーズン目を過ごしたことでわかったことだった。

レブロンを受け入れた瞬間

 2シーズン目となった19-20シーズンは、アンソニー・デイビスという力強い相棒が加わり、脇役も経験豊かなベテランで固め、見事に優勝を達成した。

 もっとも、レイカーズのファンがレブロンをリスペクトし、本当にレイカーズ・ファミリーの一員として認めるようになったのは、単に優勝したからでも、ウェスタン・カンファレンス1位の成績をあげたからでもなかった。

 それより前に、レイカーズ・ファンがレブロンを完全に受け入れた瞬間があった。10月に優勝するより8カ月余り前のこと。1月26日にコービーがヘリコプター事故で命を落とし、その5日後に、事故後初めてレイカーズが試合を行ったときのことだ。試合前のセレモニーで、レブロンはチームを代表して追悼のスピーチをし、スピーチの終盤でこう語った。

「僕が今このチームにいるということは、僕にとってもとても大きな意味を持っている。チームメイトと共に、彼のレガシーを引き継いでいきたい。それは、今シーズンだけでなく、愛するバスケットボールをし続けている限りずっとだ。それが、コービーが望んでいたことだから」

 このレブロンのスピーチには、会場を埋めたファンから大喝采が送られた。レイカーズの公式ツイッター・アカウントが、このスピーチ動画を投稿すると、ファンからは「ありがとう、レブロン」「レブロンは真のレイカーズの一員だ」「レブロン、あなたはレイカーズ・ファンの心を射止めた。たとえ優勝しなかったとしても」「レブロンが自分たちの気持ちを代弁してくれた」と、レブロンに感謝し、称賛するコメントが寄せられた。

レブロンが語ったコービーへの思いはファンの心を動かした (C)Getty Images

 ファンは、レブロンがコービーの遺志を継ぎ、伝統を次の世代につないでくれると信じられるようになり、そのことで心の穴を埋めていた。

「一度レイカーズになれば、ずっとレイカーズ」

 優勝した後、レブロンは、レイカーズで優勝することの意味を、こう語った。

「僕がここに来たのには理由があった。このフランチャイズを、以前のようにあるべき場所に戻すためだ。パープル&ゴールドを着ることは、最初に練習場のコートに足を踏み入れたときから、最初のプレシーズン試合から、今に至るまで名誉に感じてきたことだった。このフランチャイズには、多くのレジェンドが所属していた。僕らも、そういったレジェンドたちと同じに語られるというだけで、とても名誉なことだ」

(C)Getty Images

 レイカーズのオーナー、ジニー・バスが前オーナーの亡父ジェリー・バスから受け継ぎ、大切にしている言葉がある。

「一度レイカーズになれば、ずっとレイカーズ」

 レイカーズの伝統を大切にし、それを背負うことの重みを理解した上で、喜んで受け入れたレブロンは、レイカーズのファンにとっても、間違いなくこの先ずっと、レイカーズ・ファミリーの一員だ。

文=宮地陽子

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