中島翔哉が、7カ月半ぶりに、心の底から笑った。

 10月24日、ポルトガルリーグ第5節ジウ・ビセンテ戦で今季初先発。前半41分、左サイドでパスを受け、縦へ抜け出すと、左足で低く鋭いクロスを放つ。ゴール前へ走り込んだエバニウソンが、右足で難なく合わせた。

 今季加入してこれが初得点のセンターフォワードは大喜びで、小柄な背番号10を指差し、左膝を突いて右太ももを差し出す。中島が右足を乗せると(ただし、パスを出したのは左足だったのだが)、シューズを磨くポーズでアシストに感謝した。中島は他の選手からも祝福され、全身で喜んでいた。

 これが決勝点となり、ポルトはリーグ戦の順位を3位に上げた。

CLオリンピアコス戦でも大仕事

 その3日後、ポルトは欧州チャンピオンズリーグ(以下、CL)のグループステージ(以下、GS)第2節でオリンピアコス(ギリシャ)をホームへ迎えた。第1節でマンチェスター・シティに敗れており、グループで2位以内に入って勝ち上がるためには絶対に勝たなければならない。クラブにとって、今季、最も重要な試合の1つだったはずだ。

 後半15分、1−0でリードしている状況で中島がピッチに送り込まれた。オリンピアコスの攻勢が続き、なかなかパスが回ってこないが、左サイドの守備を懸命にこなす。

 そして迎えた後半40分、ゴール前でパスを受けた。左へ出すと見せかけ、右サイドの裏へ絶妙のスルーパス。FWムサ・マレガがライナー性のクロスを入れると、走り込んできたMFセルジオ・オリベイラが頭で叩き込んだ。

 これで勝負あり。ポルトは貴重な勝ち点3を手にし、中島は2試合続けてチームの勝利に貢献した。

地元紙も「信頼を回復しつつある」

 地元紙は「この日本人アタッカーは、少しずつセルジオ・コンセイソン監督の信頼を回復しつつあるようだ」と書いた。

まだレギュラーではない。しかし、わずか2カ月前に「戦力外」と報じられたことを思うと「よくここまで失地を挽回した」と褒めるべきだろう。

 昨年7月、ポルトは移籍金約1200万ユーロ(約15億円)で中島の所有権の半分を買い取り、アルドゥハイル(カタール)から獲得。エースナンバーを与え、会長は「以前からどうしても欲しかった選手。攻撃の主役を担ってほしい」と語った。

 この頃、中島の前途はバラ色に輝いて見えた。しかし人生はなかなか思うようにならないものだ。2列目左サイドのレギュラー争いで、パワフルなコロンビア代表FWルイス・ディアスに先行を許す。一時はポジションを奪いかけたが、故障して控えに逆戻り。

 3月7日のリーグ戦で先発し、チーム唯一の得点をアシスト。ところが、その直後、新型コロナウイルスの感染拡大のためシーズンが中断される。

 5月初め、ポルトは練習を再開。しかし、中島は「体調を崩した妻を自宅で看病したい」として練習参加を拒む。この行動に監督とチームメイトが反発。以後はチームから除外され、本人が希望しても全体練習に参加させてもらえなかった。

 ポルトは、中島抜きでリーグとポルトガル杯の2冠を達成する。

他の選手の要請でクビがつながった

 今季のプレシーズン練習は8月24日に始まったが、中島の姿はなかった。地元メディアは、「監督の構想外」、「クラブは移籍先を探している」などと報じた。

 結局、中島は1週間遅れでチーム練習に加わる。このとき、コンセイソン監督は「彼がここにいるのは、チームメイトが望んだから」と明かした。つまり“今季の戦力構想には入っていなかったが、他の選手の要請でクビがつながり、チームに復帰できた”というのである。

CLマンC戦でめぐってきたチャンス

 ほどなく体調不良を訴えて別メニューでの調整となり、9月19日のリーグ開幕戦はベンチ外。10月17日のリーグ第4節のスポルティング戦で初めてベンチ入りしたが、出番はなかった。

 21日の欧州CLのGS第1節のマンチェスター・シティ戦(アウェー)の遠征メンバーに入ったが、先発したのはディアスだった。

 前半14分、そのディアスが左サイドを突破し、DF2人をドリブルでかわしながらゴール前を横断すると、見事なシュートを叩き込んだ。しかしシティはFWセルヒオ・アグエロのPKとMFイルカイ・ギュンドガンのFKで逆転する。

 1点リードされた状況で、後半32分、中島が今季初めてピッチに立つ。しかし気負ってドリブルを仕掛けてはボールを失い、チームに貢献できない。ポルトは追加点を奪われ、1−3で敗れた。

 それでも冒頭で書いたように、その3日後のジウ・ビセンテ戦で決勝点をアシストすると、さらに3日後のオリンピアコス戦でも“アシストのアシスト”でチームに貢献した。

ライバルも好不調の波が大きいだけに

 この2試合でも、得点の場面を除くと決定機を多く作り出せたわけではない。ドリブル、パスのミスが少なくなかった。

 それでも苦手の守備でもスライディングタックルを見せるなど、「チームの勝利のためにプレーするのだ」という気迫が感じられた。

 現在、ポルトの2列目左サイドのポジションはディアスがレギュラー。オリンピアコス戦ではディアスが故障で欠場したが、先発したのはオタビオ。つまり、現時点で中島の序列は3番手ということになる。

 とはいえディアスも好不調の波が大きく、先発してもたいてい途中交代を命じられる。監督から絶対的な信頼を勝ち取っているわけではない。

厳格な監督が求めるものとは

 コンセイソン監督は、全選手に攻守両面での最大限の貢献を求める。

 これまで、中島は試合の状況にかかわらずドリブル突破を試みてボールを失ったり、守備面の貢献が不十分なことがあった。厳格なコンセイソン監督の指導を受けることは、選手としてステップアップするための絶好のチャンスとも考えられる。

 中島は、10月上旬にオランダで行われた日本代表の2試合に招集されなかった。その理由として森保一監督は「チームで試合に出場していない」ことを挙げ、「まずはチームで結果を出して、監督、選手の信頼をつかみ取ってほしい」と語っている。

 今後ポルトで攻守両面で成長したら、日本代表への復帰も見えてくるはずだ。

安西、権田、食野はどんな状態?

 今季、ポルトガルでプレーする日本人選手は中島以外に4人いる。

 ポルティモネンセには、昨年1月からGK権田修一(前鳥栖)が、9月からSB安西幸輝(前鹿島)が所属している。今季、安西はほぼレギュラーだが、権田はベンチ入りはするものの、まだ出場機会がない。

 2人は、10月9日の日本代表のカメルーン戦で揃って先発した。権田はフル出場したものの、安西は守備面の対応で苦しみ、前半だけで交代した。

 2019年8月にガンバ大阪からマンチェスター・シティへ移籍し、ハーツ(スコットランド)へ期限付き移籍して経験を積んだFW食野亮太郎は、今年9月、リオ・アベへ期限付き移籍した。

 9月20日のリーグ第1節トンデラ戦で、1点ビハインドの状況で後半41分に出場。アディショナルタイムに左サイドでパスを受けると、完璧なトラップから左足で強烈なシュートを放つ。これが反対側のサイドネットを揺すり、チームを敗戦から救った。

 ただし、その7日後のリーグ戦で初先発したものの結果を残せず、その後はベンチを温めることが多い。

U-20代表だった有望株MF藤本も

 元U-20日本代表のMF藤本寛也は今年8月、東京ヴェルディからジウ・ビセンテへ期限付き移籍。リーグ戦3試合で途中出場した後、10月28日の強豪スポルティング戦で初先発した。強いインパクトを残せず前半だけで交代したが、今後が楽しみだ。

 ポルトガルリーグはプレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラのような世界トップリーグのすぐ下に位置する。世界トップを目指す野心に溢れた選手がポルトガルはもとより中南米各国、アフリカ諸国などから集結しており、今後、急成長しそうな逸材がひしめいている。

 そのような刺激的な環境で、ポジションも年齢も異なる5人の日本人選手が奮闘している。彼らがいかにして苦難を乗り越え、成長していくのか。

 その過程が、非常に興味深い。

文=沢田啓明

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